デジタルラインビルダーが日本の製造業を復権 物理制御とデジタルの両輪で製造DXを支援

日本の製造業が直面する人と技術の継承問題
日本産業の屋台骨を担う製造業が、大きな転機に直面している。とくに課題とされているのが、欧米など諸外国と比較したデジタル化の遅れだ。
メーカーに対するエンジニア派遣、受託・請負、ソリューションサービスの提供をコア事業としているパーソルクロステクノロジーも、顧客である製造業の現場で起きている変化を感じている。同社 エンジニアリング事業管掌 ソリューション・企画統括本部 ソリューション本部 本部長(IT事業管掌 コンサルティング本部 DXコンサルティング部 部長兼務)の深堀竜也氏は、次のように語る。
「日本の製造業は、以前から言われるとおり、生産現場の能力が非常に高いことを強みとしてきました。その強さは、仮に設計に多少の不具合があっても、生産の現場で解決することができるほど圧倒的なものでした。ただし、その高い能力は、現場ではたらく社員個人に由来していることが、今、大きな問題となっています」
一方、諸外国では必ずしも現場に豊富な経験と高い能力を持った人員が多いわけではない。そのため、現場の人の能力を問わずに一定の品質が得られるよう、仕組みを整えていた。それが、デジタル化との相性がよく、一気に標準化、効率化を進めている要因だという。
「日本ではそうした高いスキルと経験値を持った社員が、次々と引退の時期を迎えています。ベテランのノウハウを若手に引き継ぎたくても、労働力不足によって若手の確保もままならず、日本の製造業の強みを失おうとしています。そのため、多くの企業がデジタル化を進め、ものづくりのノウハウをデータ化して残していこうと動き出しています」(深堀氏)
エンジニアリング事業管掌 ソリューション・企画統括本部 ソリューション本部 本部長
(IT事業管掌 コンサルティング本部 DXコンサルティング部 部長兼務)
深堀 竜也氏
デジタル時代のものづくり変革を包括的に支援
ものづくりの現場で起きている属人化の問題だけでなく、部分最適化によって課題を解決してきたことも、デジタル化を遅らせる原因だと深堀氏は指摘する。
「日本の場合、現場の社員がそれぞれの持ち場で課題を吸収してきたことで、部分的な改善は進んだものの、全体最適を図ろうという機運は高まりませんでした。しかし、デジタル化を進めていくためには、ものづくりの初期である設計段階から、最後の生産に至るまで、一貫して新しい考え方を導入する必要があります」
いわゆるスマートファクトリーを実現し、人の代替としてロボットを製造ラインに組み込もうとする場合、製造ラインだけをロボットに合わせればいいわけではない。製品の設計段階からそのロボットが組み立てることを考慮した構造になっていなければならない。
つまり製造DXとは、生産ラインのデジタル化という局所にとどまらず、製品の企画・設計から製造、さらに広げて販売や保守、最終的な廃棄まで製品ライフサイクル全体の視点で取り組む必要があるというのが、パーソルクロステクノロジーの考えである。実際、深堀氏はエンジニアリングソリューション本部と製造DXコンサルティング領域のトップとして、製品ライフサイクルを俯瞰して捉え、管理するためのPLM(製品ライフサイクル管理システム/ Product Lifecycle Management)の導入を企業に行っている。
同社のエンジニアリング事業管掌 ソリューション本部が目指しているのは、「デジタルラインビルダー」という役割である。耳慣れない言葉だが、この語源は、製造業ではよく知られている「ラインビルダー」である。
「ラインビルダーは別名『ロボットSIer』とも言われますが、海外の製造業界では一般的で、スマートファクトリーの構築を一手に担っている専門の技術者集団を指します。日本では、メーカー自身がラインを設計することが多く、外注すること自体があまりないため、それほど大きな市場にはなっていません。当社はそこをチャンスと見ており、デジタルの能力を付加したラインビルダーとして企業を支援したいと考えています」(深堀氏)
同社には1万名を超えるエンジニアが在籍し、設計、開発、実験、生産技術、製造などのエンジニアリング領域に加え、ソフト開発、インフラ、AI、セキュリティなどのIT領域の豊富な専門スキルを持つ人材が各分野で企業の技術支援を行っている。彼らをチームとして編成し、製造業を支える態勢は、すでに整っている。これにデジタルのシミュレーション技術を組み合わせれば、バーチャル上で先に製品データや製造ラインを作り、修正を加えることでリアルでの手戻りを抑えて早期の稼働を実現することができる。
「コロナ禍では、海外のラインビルダーが製薬企業と歩調をそろえ、ワクチンの製造工程をデジタル上でシミュレーションし、通常では考えられない短期での出荷を果たしました。この方式の優れたところは、ソフトを書き換えれば別のワクチンの製造にもすぐに対応できることです」と深堀氏はデジタルツインの優位性を語った。多くの製造業が多品種生産への対応を迫られる中で、デジタルツインへの期待は高まっている。
それに加え、深堀氏が率いるコンサルティングチームが構想策定、グランドデザインの提案を行うことで、デジタルなものづくりをリアルと連携しながら上流から下流まで、すべて支援することができる。これが、同社が目指しているデジタルラインビルダーの姿である。
パートナーの力を借りて、ものづくりの強みに集中
現在は、稼働しているプロジェクトも複数存在し、新たな案件も頻繁に舞い込んでいる。「ある製造業のお客さまは、PLMを導入し、生産性の向上を実現したいと考えていました。しかし既存の生産ラインはデータを取り出す仕組みがなく、当社に開発を依頼されました。このプロジェクトではフルクラウド型のPLMを導入し、工場への展開も含めて数カ月で稼働することができました。通常、PLMの導入には2、3年かかることが多い中、約3カ月という圧倒的な短期導入を実現したことで、とても喜ばれました」(深堀氏)
もう1つの例は、製造ラインの構築サービスに踏み出すBtoBベンダーの支援だ。深堀氏は「ある製造装置のメーカーが、自社製品以外も含む製造ラインの構築サービスを始めようとしており、当社がパートナーとして参加しています。その企業は単品の装置の提供から、製造現場全体の支援へと脱却を図ろうとしており、当社がデジタルツインのシミュレーションを提供し、共同でエンドユーザー企業の製造ライン変革を進めています」と言う。
ただし、すべての製造工程をデジタルで自動化することは不可能だ。残された「人が必要な部分」にこそ、その企業の強みが集約されており、日本の製造業が世界で勝ち抜くためのカギを握っているといっていい。
深堀氏は、「お客さまには自身の強みに限られたリソースを集中していただき、それ以外の部分は可能な限り効率化、標準化をすべきです。私たちは製品設計から開発、製造まで製品ライフサイクル全体を支えるパートナーとして、次世代のものづくりをお客さまと共に進めたいと考えています」と語った。
生産性向上と人材不足という2つの難題への対応を同時に進めなければいけない現代の製造業にとって、パーソルクロステクノロジーが掲げる「デジタルラインビルダー」という構想は、これからの日本のものづくりに新たな方向性を示すものとなるだろう。



