日本発「サーキュラーエコノミー」の可能性とは リユースのマーケットをデザインする機能

「現物を見ないで買う」オークションシステムとは
2025年、オークネットは創業40周年を迎えた。その歴史をひもとくと、まさにイノベーションの歴史だったと理解できる。代表取締役社長 CEOの藤崎慎一郎氏は次のように語る。
藤崎 慎一郎氏
「オークネットは私の父が創業した中古車販売会社に端を発します。当時、最も負担が大きかった業務が中古車の仕入れでした。時にオークション会場まで片道2時間をかけて行ったとしても、買えるときもあれば買えないときもある。だったら、店舗にいながらオークションに参加できたら便利じゃないか——そう考えたのが事業のスタートです」
言葉にするのは簡単だが、当時はまだインターネットは一般化していない。そこで、オークネットが開発したのは、車両情報をレーザーディスクに収めて会員企業へ配布し、電話回線で入札を集約する「遠隔同時競り」の仕組みだった。紙とリアル会場での取引を通信に乗せたのだ。
その後、1989年には民間衛星を活用して全国同時配信へ拡張。さらにインターネットの普及に伴い、オンライン化は大きく進化した。2000年代にはオークション会場とのライブ中継を経て、配信、入札、画像・検査データの管理をインターネットに統合。まさに会場に行かずに「店舗にいながら」リアルタイムで仕入れができる仕組みを確立したのである。
その利便性もさることながら、オンライン化によって公平性も高まったと藤崎氏は語る。「オンラインによって、皆が同一条件で参加できる仕組みも高く評価されました。今やオンラインでオークションの仕組みをつくること自体は難しいことではありません。大切なのは、現物を『見ないで買う』ことを当たり前にし、安心してオークションに参加できる環境を整えることなのです」。
そうした思いを実現するオークネットのコアコンピタンスを、「最適なシステム」「情報の信頼性」「運営ノウハウ」「会員制ネットワーク」の4つに集約することができる。
オークネット4つのコアコンピタンス
まず、BtoBオンラインオークションや査定支援、適切な画像認識を実現する「最適なシステム」群がベースにあり、継ぎ目の少ない運用で大量の出品・入札をさばく力を支えている。これに、対象商品の状態を可視化する検査・グレーディング(評価)、ブランドの真贋判定、IT資産のデータ消去といった「情報の信頼性」を担保する要素が重なることで、現物に触れなくても「見ないで買える」というオークションの価値を成立させているのだ。

さらに、取引の摩擦を下げて換金速度と仕入れ効率を高めるために物流、与信・決済までを含む現場起点のオペレーション設計を行う。そして、こうした運営ノウハウのうえに、国内外約4万社・海外取引70超の国へ広がる会員ネットワークが厚みを与え、需給の流動性維持に貢献している。
「これらの要素が相互にかみ合うことで、売り手・買い手の双方にとって安定的で持続的な流通が実現し、商材や地域が変わっても同じ品質基準で取引できる『場』が保たれるのです」(藤崎氏)
とりわけ「情報の信頼性」、すなわちオークネット独自の検査体制の確立が、さまざまな業界でのマーケットデザインにつながってきたことも忘れてはならない。オークネットのビジネスモデルの中核は明快だ。「検査」と「オークションシステム」を核に据え、「在庫を安全に高く売りたい」「現地に行かず信頼できるモノを仕入れたい」という売り手と買い手のニーズを確かな情報で結ぶこと。このビジネスモデルが、中古車に限らずデジタル機器やブランド品、花き、医療機器など多様な商材へ応用、横展開され、さらに査定支援や相場データ提供といった周辺ソリューション、メーカー・小売りの一次(新品)・二次(リユース)流通構築をBPOの手法で裏側から支援する「共創」へと裾野を広げた。

グローバル化も進んだ。70以上の国にわたる会員ネットワークが流動性を支え、海外では「Used in Japan(日本で使用・管理された商品)」という価値観が広がっているという。こうしたトレンドを踏まえ、世界各地へサービスを拡大。米国、デンマーク、香港、シンガポールには現地法人も有する。
85年の創業以来、事業の多角化、グローバル化を進めてきたオークネット。現在、グループには20社以上の事業会社があり、国内外で独自のビジネスモデルを拡大している。2000年には東京証券取引所市場第1部(現・プライム市場)に上場した(08年にMBOにより戦略的非上場化し17年に再上場)。中古品のリユースなどのサーキュラーエコノミー(循環型経済)に貢献する企業としても存在感を高めている。

サーキュラーコマースという新しい循環モデル
一方で藤崎氏は「サーキュラーエコノミーをコストと捉えるとなかなか浸透しません。モノの循環を理念で語るのではなく事業として成立させることが大切です。そこで私たちは、モノの循環を前提とした商品開発やリサイクルを含めた経済活動として『サーキュラーコマース』を提唱しています」と話す。
どういうことか。「例えば、私どもが蓄積している膨大な取引データを基に、リユースマーケットで受け入れられやすいような商品開発のアイデアを提案してもいます。あるいはリパーパスといわれていますが、使用の目的が変わり、当初のユーザーとは異なる層のニーズに対応することがあります」。すでに、EV電池を自律型の街路灯などに利用する取り組みが始まっているという。
「ほかにもさまざまな用途での利用が期待できます。電池を最後まで使えるプラットフォームをつくり、災害時のBCP(事業継続計画)に貢献するような地産地消のエネルギーソリューションも視野に入っています。マッチングによって利用のフェーズを拡大することができれば、それだけ環境負荷削減にもつながるのです」
そして最後がリサイクル。「デジタル機器でニーズが高いパーツなど、しっかりと動くのであれば最後まで使えるよう、お手伝いをします」。
こうしたサーキュラーエコノミーの実装を支えるのが、サーキュラーテックだ。
「サーキュラーテックとは、オンラインシステムといったデジタル活用だけでなく、入札や価格形成のルール作り、第三者検査や真贋・データ消去といった情報の信頼性、そして物流、与信・決済までを地味に積み上げ、取引の不確実性と摩擦を減らしていく総合力とも言い換えることができるでしょう」と藤崎氏。つまり、テクノロジー、運営ノウハウ、パートナー(会員・協業)の3層を束ね、循環の現実を動かすための原動力になるものだ。さらに、一次流通と二次流通を往復させる回路を企業と一緒に設計する。

オークネットでは、サーキュラーコマースを進化させるため、テクノロジーや運営ノウハウを磨き続けている。
ここでは、その挑戦の現場を3つ紹介しよう。まずは、アカデミアの知見を活用したオークションシステムだ。
経済学的知見を活用した新オークション方式とは
オークネットのデジタルプロダクツ事業で扱っているスマートフォンは、もはや世界のインフラだ。オークネットは、その循環の入り口と出口を結ぶ。
ライフスタイルプロダクツ部門 VDM
デジタルプロダクツ事業本部 DM
一井 克彦氏
「私たちは検査・グレーディングを経た端末を年間200万台を超える規模で世界のバイヤーへつなげています」と語るのは、デジタルプロダクツ事業を管掌する専務執行役員の一井克彦氏。スマートフォンの場合、回収の入り口は、店頭でのコンシューマー下取り、企業や教育機関での入れ替えなどである。集まった端末は検査・検品で状態を見極め、グレードを付して市場へ送り出す。
この仕組みが機能するための重要な前提が2つあるという。「まずはセキュリティー対策です。預かるのは個人情報を含む端末。そのため国際水準の手順に沿ったデータ消去を行い作業の内容を可視化しています」。
もう1つは入札の公平性だ。ただし課題もあった。「オークションに参加する海外バイヤーは数百社にも達します。そのため時差の関係で有利・不利が生じていました。また、オークションには、大口のホールセール、小口でも時に高いプライスを入れられる小売店などが同時に参加しており、それぞれのニーズに応えることが求められてきました。そこで、これらの課題を同時に解決する手段を探していたところ、東京大学に知見のある研究者の方がいると聞き、まさに門をたたいて一から開発・設計に参加してもらいました」と一井氏は振り返る。そこでオークネットが東京大学エコノミックコンサルティング社と共同で開発したのが「マルチユニット・ハイブリッドオークション」だ。
「相場のわかりやすさという観点から、『同時競り上げ』方式を採用しながら、タイムゾーンの異なる会員が入札できるように、ほかの参加者は入札価格がわからない『封印入札』の追加入札期間も設けています。ハイブリッドにすることで、さまざまな参加者にも納得感のあるオークション設計が実現しました」と一井氏は説明する。
導入後の成果も早速、表れている。参加者からの「買いやすくなった」という声とともに、オークションへの参加社数も増えているという。
参加者の利便性を向上させる取り組みにも余念がない
「今後もさまざまな知見を生かしたサービス拡充を続けていきます」と一井氏。AIレコメンドで「欲しい在庫に出合えるスピード」を上げるといったように、参加者にとって利用しやすく、流通商品の価値の向上につながる仕組みづくりを進めていく考えだ。
グローバルを視野にバリューチェーンを拡充
これまで培った運営ノウハウを新たな領域で展開するチャレンジも始まっている。ファッションリセール事業はBtoBだけでなくBtoC、CtoBにも乗り出している。
25年7月、オークネットは子会社のギャラリーレアとオンラインブランド買い取り・販売サービス「ブランディア」を展開するデファクトスタンダードを統合し、「サークラックス」として始動。ギャラリーレアは、ラグジュアリーブランドの買い取り・販売サービスを展開しており、高価格帯商材を中心に、実店舗での接客力と専門性を強みに成長している。デファクトスタンダードは、中低価格帯商材を対象に、完全オンラインでの買い取り・販売により、時間や場所にとらわれないサービスを提供している。年間120万点超の取扱量を誇るBtoB領域との相乗効果も期待できるだろう。
同事業を管掌しサークラックスのCEOも務めるのが専務執行役員の齋藤康人氏だ。
ライフスタイルプロダクツ部門 DM
ファッションリセール事業本部 DM
齋藤 康人氏
「BtoCというポートフォリオが高いシナジーを生むと判断しました。強いBtoBがBtoCの強化につながり、強くなったBtoCによってBtoBをさらに磨き上げていくのです」
齋藤氏は併せて、オンライン取引を広げる前提として「プラットフォーマーが商品の信頼性を担保する」ことの重要性も強調する。インハウスで大量の商品を1点ずつ検査・グレーディングをすることで情報の質をそろえることも、オークネットの役割だと位置づけているのだ。
しかも、対象は国内だけの話ではない。「地球を1つの市場として見れば、日本で丁寧に使われ、厳格にチェックされたというUsed in Japan/Checked in Japanは、世界の買い手にとってわかりやすい判断材料になるでしょう」と齋藤氏。嗜好が異なる地域へ視野を広げれば、国内で動きにくい在庫も新しい需要に結び直せるという狙いもある。
すでに日本・欧州・米国・シンガポールの4拠点体制が整っており、今後も需要と供給の出合いを厚くしていく構えだ。BtoB領域で磨いた検査・等級・真贋判断の標準化をBtoC、CtoB領域でも徹底することで、海外でも多くの売り手・買い手からの支持を受け、業界基準となることを目指している。すでに、「プラットフォームのUI/UXの向上やレコメンド機能などのほか、新サービスも準備中」(齋藤氏)と、準備も怠らない。
蓄積した膨大な検査データ、その活用方法とは
デジタルプロダクツ事業、ファッションリセール事業と同様に、祖業である中古車ビジネスでも膨大なデータが蓄積されている。現在、オークネット傘下の検査会社AISでは、実に年間130万台、累計1700万台を超える中古車と向き合う。
モビリティ&エネルギー部門 VDM
オートモビル事業本部 DM
大畑 智氏
「これまで積み上げた検査技術と評価基準は多くの販売事業者から評価され、消費者向け中古車販売情報メディアでもAISの基準が使われています」と語るのはオートモビル事業を管掌する常務執行役員の大畑智氏だ。検査は最大324項目。外装・内装から骨格、機関系までを点検し、評価点と品質評価書で状態を可視化する。
こうした信頼性は、流通の厚みと直結する。その厚みが、取引データのさらなる蓄積につながっていく。
「新車は一物一価ですが中古車は一台一台状態や傷、走行距離に違いがあり、1日経つだけで価格が変動します。まさに百物百価といえるでしょう。色、年式、走行距離、そして評価点、すべてが価格に反映されるのでデータの質が重要になるのです」

オークネットではこれらのデータを活用したビジネスのサポートにも着手している。
その1つが評価データと取引履歴を組み合わせることで、価格の動きや売り時を予測し提案する仕組みだ。「AIを活用することで、適正な下取り価格を提示するプライシングサービスでの価格算出の強化やプライシング返信時間の短縮にも成功しています。また、相場検索におけるAIの活用にも着手しており、将来的には在庫の滞留や過度な安売りの回避につながるよう、『いま出すべきか』『もう少し寝かせるべきか』といった判断をサポートする仕組みも構想しています。ほかにも買い逃しがあるバイヤーには似た車の入荷通知を出したり、展示期間の長い在庫には売却を促す提案をしたり、海外で需要が立ち上がった車種には輸出向けの案内をするといったサービスも可能となる見通しです」。
市況の変動にもきめ細かく対応する。「今、値動きをいちばん揺らしているのは輸出。標準化した検査体制がベースにあれば、情報で比較が可能になり、国をまたいだ需要にも応えやすい」。そのためにも、AISの検査が取引の共通言語となることが大きな意味を持つ。
近い将来はダッシュボードの提供やスコア連動の保険・与信といった周辺領域もカバーする考えだ。同時に、大畑氏は健全性の担保もデータで強化する方針を示す。例えば、異常な入札挙動や高額損失の兆候を早期に検知する仕組みで、不正などのリスク抑制を目指す。「安心して参加できる土台を守りながら取引の厚みとスピードを高める施策を積極的に実施していきたい」と大畑氏はその先を見据える。

一次と二次をつなぎ新たな価値創出を支援
サーキュラーテックを磨きつつ、将来を見据えた取り組みも始まっている。オークネットは環境技術ベンチャーと業務提携。使用済みEV電池の性能・劣化診断によるグレーディング付与の取り組みを開始している。藤崎氏が語る。「EV電池に複数搭載されるモジュールごとに診断が可能なため、より正確な劣化度判定を実現しています。不要になったEV電池を持つ企業にとっては電池の残存価値が可視化されて売却機会が生まれ、電池の買い手企業にとっては安全性や性能の保証された製品を適正価格で調達できるというメリットがあります」。
そして、「Selloop(セループ)」だ。メーカーと並走し、下取り・グレーディング・物流BPO・再販・リサイクルまで、二次流通に必要な機能を組み合わせて設計・運用する。
注目できるのは、藤崎氏が語る「一次流通、二次流通の懸け橋となりたい」というコンセプトを、単なる理念にとどまらず、同社自身の成長戦略の核に据えている点だ。というのも、この橋渡しは商材を選ばない。これまで長年にわたり市場開拓力を磨いてきたノウハウによって、次のマーケットをデザインする。
「さまざまな新分野で、買い手はどこにいるか探すことを40年間やってきました」と藤崎氏。これまで見てきたように、その対象は日本国内にとどまらない。プラットフォームは世界のどこでも展開が可能なため、日本発の商品が世界の買い手へ、さらには「グローバルto グローバル」へ――国境をまたぐ循環ビジネスの広がりを見据えている。
世界の価値観の転換も追い風にする。

「これまでの生活様式を見直す機運が高まり、多くの人がサステナブルな社会を意識し、トレーサビリティーやリユースの活用による利用期間の最大化へと舵を切り始めています。この潮目の変化はブームではなくトレンドと捉えています。ですから私ども一次流通から二次流通、その先に至る循環、すなわちサーキュラーコマースを社会に組み込む伴走役としての役割を果たしていきたい」と藤崎氏は力を込める。
オークネットについて、特定の商材のオークションを生業としている会社というイメージを持つ人がいるならば、実態は大きく異なるといえる。
「私どもは、サーキュラーテックでマーケットをデザインする、と標榜しているように、さまざまな業種で、メーカー、リユース、リサイクルのプレーヤーの皆様とともに、新しい事業づくりを推進していく存在です。目の前にあるモノやサービスを新しい価値に変えられるかもしれない。多くの企業と連携することで、より面白いことができ、社会にも貢献できると信じています。オークネットと一緒にやれば、何かが生まれるかもしれないと感じていただけたら、それが何よりうれしいですね」と藤崎氏は結んだ。
世界市場を視野に入れた、オークネットのチャレンジが続く。






