日本のものづくりDXを進めるには何が重要か エンタープライズデジタルツイン×Physical AI

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金森 崇宏氏、滝野 一征氏、ル フィリップ氏
日本の製造業のDX推進に新たな風が吹く。コンサルティングファームのアクセンチュアと、製造・物流現場の自動化DXを手がけるMujinが合弁企業「Accenture Alpha Automation」を立ち上げた。マネジメントから現場までをワンストップでカバーし、日本のものづくりDX推進を支援。日本のものづくりの未来が大きく前進することが期待されている。開催された「製造DXの新戦略 エンタープライズデジタルツインとPhysical AI最前線」のパネルトークでは、アクセンチュア、Mujin、Accenture Alpha Automationの3社が登壇。国内外の倉庫や工場内の改革の先進事例を紹介しながら、日本のものづくりの未来を探った。
主催:東洋経済新報社
協賛:Mujin
協力:アクセンチュア

日本のものづくり復活のカギは?

アクセンチュア 執行役員 インダストリーX 本部統括本部長 金森 崇宏氏
アクセンチュア
執行役員 インダストリーX本部
統括本部長
金森 崇宏氏

日本の製造業を取り巻く環境は、労働人口の減少や低賃金による若手人材の不足が目立ち、厳しさを増している。アクセンチュアの金森崇宏氏は「デジタルをテコに生産性を向上させ、給与を引き上げることで、かつてのものづくり人気を取り戻したい」と抱負を語る。それには、サプライチェーンを見直し、製造・物流拠点を集約することで設備数を最適化、稼働率を高める改革が必要になる。しかし、稼働率の引き上げは、品質問題やミスがあった際の「手戻り」の影響が大きくなるという副作用もあるので、属人的な作業のばらつきを抑えるための自動化も併せて進めなければならない。

だが、自動化の取り組みは、なかなか進んでいない。その原因は「計画の根拠となる現場からの情報の精度が低いため、計画が現実と乖離してしまうこと」にある。その結果、現場の裁量に頼ることになり、適正在庫も実現できないのだ。問題解決のためには、倉庫や工場内のさまざまな種類の自動化機器を協調制御できる必要がある。実現手段として、例えばデジタルツイン環境で統合制御する産業OSプラットフォーム「MujinOS」を活用すれば、各機器から収集した貴重な現場の情報をタイムリーに取得できるようになる。

これ以外にも、工場・倉庫の効率性、業務継続性といった異なるテーマを重視する複数のAI同士で議論させ、空間設計の最適解を導くエージェンティックAIや生成したレイアウトを3D仮想空間に出力し、現場に配置するロボットも仮想空間で教育できるデジタルツイン。人の作業映像から学習して精密作業を実行するヒューマノイド(人型ロボット)など、実用段階に入ってきた先端テクノロジーを紹介した金森氏は「テクノロジーを活用することで日本のものづくりは成長する」と鼓舞した。

Mujinが実現する倉庫・工場内物流の最適化

Mujin CEO 兼 共同創業者 滝野 一征氏
Mujin
CEO 兼 共同創業者
滝野 一征氏

物流センターの人手不足は深刻だ。製造・物流現場のDXを手がけるMujinの滝野一征氏は「産業用ロボットによる自動化は待ったなしだと思う」と訴える。

倉庫や工場内において、従来の大量生産時代であれば固定設備が能力を最大限発揮していたが、今は多品種少量生産が主流。そのため、汎用的なロボットを組み合わせて、ロボットアームがパレットから商品を取り出し、非固定設備である搬送ロボットに詰め替えるといったオペレーションのほうが、身軽で柔軟に変更可能な仕組みにできる。しかし、複数種類のロボットを動かすため、それぞれの専用制御ソフトを組み合わせる構成は、非常に複雑になってしまう。同社の「MujinOS」は、種類が異なる機器でも統合制御できる汎用的な自動化プラットフォームなので、複雑になりがちな制御系を格段に容易に構築することができる。

さらに、「MujinOS」を通じて収集される機器の稼働データが作業計画の精度を高める。また、入出荷実績や在庫量などをダッシュボードに表示することもできるので、物流業務に関する目標KPIの管理に役立つ。

ロボットなど自動化機器の稼働データだけでなく、人による作業内容や、作業ごとに割り当てられている人員数などのデータも含めて把握すれば、どの業務を自動化すべきかが明確になり、限られた予算の中で、投資効果を最大化することにつながる。滝野氏は「競合相手より優位に立つためには、データを基にして最適なリソース配分をすることが何より大事になる」と語った。

海外の先進事例に見るものづくりの変革

アクセンチュア インダストリーX本部 マネジング・ディレクター Accenture Alpha Automation 代表取締役社長 ル フィリップ氏
アクセンチュア
インダストリーX本部
マネジング・ディレクター
Accenture Alpha Automation
代表取締役社長
ル フィリップ氏

ものづくりをデジタル化、自動化する産業政策「インダストリー4.0」を推進するドイツでは、自動車部品メーカーのシェフラーが、モーション・テクノロジー・カンパニーを標榜し、アクセンチュアや、さまざまなテックカンパニーと連携しながら、現実世界を仮想空間に再現するデジタルツイン、現実世界を認識して行動できるPhysical AIなどを駆使し、工場のスマート化技術を開発している。アクセンチュアとMujinが2024年に共同設立した、Accenture Alpha Automationのル フィリップ氏は「製造業は今、大きな変革が求められている。日本のものづくり業界のDXを支援したい」と語る。

大量生産から、多品種少量生産へシフトする家電業界では、中国のハイアールが、小ロット・多品目と、高品質・低価格・ハイスピードという背反した目標を同時に達成できるものづくりの体制を整えている。「例えば、インド向けにカレーに特化した冷蔵庫を4カ月後に500台出荷するといった、日本メーカーの常識からかけ離れた、困難なオーダーも実行できる」。それを可能にするのは、PLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)によって、モジュール化された形で管理する設計情報を再利用することで時間を短縮する設計業務、自動化が進んだスマートな製造現場だ。消費者ニーズを捉えた製品をアジャイルに開発、市場に投入することで、同社は家電業界トップクラスのマーケットシェアと高い粗利率を実現している。

「多様化した消費者のニーズにスピーディーに応え、安価に商品を届ける海外のものづくりは、事業モデルの転換といえる。日本の穏やかさは海外からのインバウンド客に支持される理由だが、ものづくり業界は穏やかな状況にはない」と、危機意識を喚起した。

ディスカッション
日本のものづくりDXを進めるには何が重要か

日本のものづくり現場のDXが進まないのはなぜか。金森氏は「日本の現場には、成功は苦労の末に自前で勝ち取るべきだという信念が強く、外部の技術やノウハウの活用を妨げている」と語る。社内人材の育成が滞る懸念も確かにあるが、「今は成功に向けて苦労させている間に人が辞めてしまう。早期に成果を出すことを優先し、賃金を引き上げることで、人材獲得を容易にする好循環を生み出すべきだ」と、外部人材の積極的な活用を訴えた。

フィリップ氏も「日本企業は完璧を求めすぎて、スピード感が失われてしまっている」と指摘。1年かけて完璧な商品を発売しても、その時には市場はすでに変化してしまっている今の時代には、ハイスピードで、積極果敢な仕事への姿勢が求められている。30年以上にわたり日本企業と関わってきたフィリップ氏は「かつての日本の企業や経営者は、今よりもずっとハングリー精神にあふれていた。世界で戦うには、もっと攻めの姿勢を持たなければならないと思う」と奮起を促した。

ものづくりのカギがハードウェアからソフトウェアに移ったことを受けて、滝野氏は製造DXの重要性を強調する。しかし、ただやみくもにデジタル化、自動化しても効果を得られないので、その前段階として現場のデータを収集・分析し、明らかになった課題を解決するための業務改善指標・目標を設定したうえで、自動化を設計することを推奨する。Mujinは、そのための現場向けのコンサルティングサービスを提供しているが、マネジメント側まではカバーしきれなかった。そこで主にマネジメント層を支援するアクセンチュアとタッグを組むことで「一気通貫の自動化支援が実現し、改革をスピーディーに進められる」とアピールした。