MIRARTHが描く「地域社会のタカラ」の未来像 「攻守のバランス」を重視し、持続的な成長へ
26年3月期から新たにスタートした中期経営計画では、成長投資の実行とともに、パーパスで掲げる「人と地球の未来を幸せにする」取り組みを加速させる。近年の歩みの振り返りと今後強化していくことについて、代表取締役の島田和一氏と、専務執行役員グループCFOの中村大助氏に聞いた。
存在意義の再定義が、事業構造変革を後押し
「企業としての存在意義が明確になってきました」。MIRARTHホールディングス 代表取締役の島田和一氏は、2025年3月までの前中期経営計画の4年間をこう総括する。
「事業構造変革期」と位置づけた前中計の期間中には、不動産の領域にとどまらずに広がってきた事業セグメントを「不動産事業」「エネルギー事業」「アセットマネジメント事業」の3つと「その他事業」に区分する、事業ポートフォリオの再編を実施。文字どおり全社の構造を変える改革を実施してきたが、とりわけ大きかったと島田氏が振り返るのは、22年10月に実施した持株会社体制への移行と社名変更だ。
「創業50年という節目で社名変更とホールディングス化ができたのは、今後も続く事業変革を進めるうえで大きかったと考えています。同じタイミングで、それまで掲げてきたビジョン『幸せを考える。幸せをつくる。』とミッション『共に創造する』を発展させたパーパス『サステナブルな環境をデザインする力で、人と地球の未来を幸せにする。』を策定し、当社の存在意義を社内外に示すことができました」(島田氏)
兼 グループ CEO 兼 グループ COO 兼 社長執行役員 島田 和一氏
不動産総合デベロッパーとして定着していた「タカラ」も「レーベン」も使わず、Mirai(未来)とEarth(地球)を由来とする「MIRARTH」を持株会社の社名としたことは、不動産事業の枠を超えて「未来環境デザイン企業」へ進化していくという宣言でもあった。
さらに、パーパスだけでなく、それを具現化するために、30年3月期を見据えたあるべき姿として長期ビジョン「地域社会のタカラであれ。」を23年10月に策定した。専務執行役員グループCFOの中村大助氏は、そうやって企業としての存在意義を再定義し、社内外へ示し続けたことで、組織としての強さが増してきたと話す。
「社名変更と組織再編を同時に行うには、非常に大きなパワーとスピードが求められます。コロナ禍の影響が色濃く残る中で、事業スピードを緩めることなくそれができたことは大きな成果であり、急激な変化に対応できる企業であることを証明できたと考えています」(中村氏)
体質改善と事業構造変革で「変化対応力」を向上
2026年3月期から新たにスタートした中計では、この「変化への対応力」をさらに磨いていく。島田氏はこう述べる。
「マーケットをはじめ外部環境がつねに変化する中で、その変化に耐えられるように体質を改善する必要性を強く感じています。事業は生き物ですから、現状維持では衰退してしまいかねない。持続的に成長していけるように、事業構造の変革に引き続き取り組んでいかなくてはなりません」
体質改善と事業構造変革。この2つを実現するため、新中計の3カ年を「攻守のバランスを重視した成長投資実行期」と位置づけた。中村氏は、グループCFOとして「外部環境の変化を踏まえ、時期的にも攻守のバランスをいかに取るかが重要だと考えています」と説明する。
「資源価格の高騰など、攻めてばかりではいられない状況になっています。しかし、守ってばかりでは成長を見通すことはできません。
そのため、新中計の財務戦略として、バランスシートコントロールを徹底し、外部環境の変化にも柔軟に対応できる筋肉質なバランスシートを構築することを挙げました。そうすることで成長投資と財務健全性を両立させ、さらなる攻めを可能にする基盤を整えていきます」(中村氏)
兼 グループ CFO 兼 専務執行役員 兼 サステナビリティ推進室長 中村 大助氏
こうした取り組みは、同社が経営の中核に据え、社会課題の解決やSDGsの達成に寄与する「ESG(環境・社会・ガバナンス)への積極対応」にもつながると中村氏は続ける。
「ESGは、変化をつなぐ取り組みだと思います。例えば脱炭素にしても、中長期的な視点に立てば、今以上の取り組みが必要になる可能性は十分にあります。社会課題や価値観の変化をしっかりと捉え、未来へとつないでいくことが重要です」(中村氏)
これを掛け声だけで終わらせず、事業として実現させるため、島田氏は社会課題へのコミットを明確化したパーパスを、社員一人ひとりに浸透させることが大切だと力を込める。
「パーパスは、経営層が伝え続けないと形骸化してしまうと考えています。全社でつねに再認識し、その時々の社会課題を踏まえて理解を深める必要があります。そこで、24年10月にパーパス推進プロジェクト『MIRAI for EARTH』を開始しました。
グループ会社を訪問し、社員の皆さんに近い距離で私の言葉や想いを伝えるコミュニケーションフォーラムや、自社グループの施設や取り組みを視察する『MIRAI for EARTHツアー』など、さまざまな取り組みを行う中で、社員のパーパスに対する理解度が着実に深まってきたと感じています」(島田氏)
パーパス浸透を促進し「地域社会のタカラ」の体現へ
パーパスが浸透してきているのは、「MIRAI for EARTH」プロジェクトの充実にも表れている。パーパスを体現する「人と地球の未来を幸せにする」取り組みが、トップダウンだけでなくボトムアップで生まれるようになってきているのだ。
例えば、約8メートルの大型LEDビジョンを採用した「レーベンサロン秋葉原 エクスペリエンス」は社員のアイデアから生まれたという。
マンションギャラリーや住宅展示場を複数見て回るのは大変だが、秋葉原駅前というアクセスしやすい場所で複数の物件紹介に対応することで顧客の負担を軽減。さらに、資材や廃棄物を大幅に低減することで、環境への負荷も減らしている。まさに、サステナブルな次世代の「住まい探し体験」を創出したといえよう。
地域社会の課題を解決する取り組みが増えていることにも注目したい。福岡県うきは市では、廃校をキャンプ場として生まれ変わらせた「UKIHA RIVERCAMP(うきはリバーキャンプ)」をオープン。遊休施設を活用しながら、交流人口の増加など同市の地域活性化に寄与することを目指している。

また、東京都中央区では、同区立公園として初となるPark-PFI事業「中央区立桜川公園官民連携事業」の設置等予定者に選定された。公園の再整備によって安全で快適な憩いの場をつくり、子育て世代の居場所づくりや地域住民の公園活用促進といった既存の地域課題の解決を図っていく。
これら2つの取り組みはいずれも、自社だけでなく他企業と連携した取り組みとなっているのも特徴だ。
「従来、主軸としてきた不動産事業は、土地の調達から建設、販売まで自社のみで展開するのが当たり前でした。
しかし、外部環境が変化してきている今は、自社のみでの展開だと負担がどうしても大きくなります。また、多種多様な地域の課題を解決していくには、さまざまな企業や地域の金融機関、そして自治体とも密接に連携しなくてはいけません。
『UKIHA RIVERCAMP』や『中央区立桜川公園官民連携事業』のような官民連携の取り組みを増やしていくことが、長期ビジョンの『地域社会のタカラであれ。』の実現につながっていくと確信しています」(島田氏)
同社にとってそれは、未知の取り組みではない。再生可能エネルギーを活用したエネルギー事業やJ-REIT(不動産投資信託)、私募ファンドを運用するアセットマネジメント事業など、事業の多角化を進める中で、機動的な官民連携体制を築いてきた。加えて、不動産事業を長年展開する中で、地域の幅広いステークホルダーと関係を構築してきたノウハウも持つ。
「地域の課題に取り組むうえで最も難しいのは、地域に住む人たちや企業、金融機関、行政との信頼関係の構築です。当社グループは、再開発や建て替えなどを通じてそれを実践してきました。そうやって培ってきた知見を幅広い切り口で生かすことで、地域社会のサステナブルな未来に貢献していきたいと思っています」(島田氏)
とはいえ、理念だけでは実質は伴わない。社員一人ひとりが「地域社会のタカラ」となって事業体として成長させるのは「そんなに簡単ではない」(島田氏)と冷静に見極めるからこそ、体質改善と事業構造変革、そして「MIRAI for EARTH」を通じたパーパスの浸透に努めていく。
「30年3月期に長期ビジョンを体現し、当社グループの社員一人ひとりが地域社会に資する存在となるためにも、新中計の3年間が非常に重要だと思っています。人と地球の未来を幸せにする未来環境デザイン企業として、地域社会から評価される企業集団となれるよう、体質改善と事業構造変革に取り組んでいく考えです」(島田氏)



