老舗が万博で示した「ディスプレイ業」の真価 パナソニックグループパビリオンが「連日満員」

2025年大阪・関西万博
パナソニックグループパビリオンの先進性
55年ぶりに大阪で開催される国際博覧会となった、2025年大阪・関西万博。多くの国と地域の出展だけでなく、企業出展も見どころだった。その中で人気を博した1つが、パナソニックグループパビリオンだ。乃村工藝社は、同パビリオンの企画、デザイン、設計、施工を担当した。
プロジェクトが始まったのは、2021年。パビリオンのテーマには、パナソニック創業者・松下幸之助の「天分を活かす」という考え方をもとに、子どもたちの個性や感性を呼び覚まし、その可能性を解き放つことが据えられた。
乃村工藝社 上席執行役員の原山麻子氏は「当社でまず行ったのが、ワークショップを通して子どもたちの反応を徹底的に検証することでした」と振り返る。

同時に、パナソニックの各部署への綿密なヒアリングも敢行した。
「パナソニックには長年の歴史で培われた膨大な技術があり、そのいずれかを今回のテーマに即した形で最大限に活用したい思いがありました。お客さまの技術や製品、あるいは課題をとことんつかみ、お客さまにも引けを取らないくらい、そこに“入り込む”。 私たちはそれをベースに空間作りを行っています」(原山氏)
こうして子どもたちのリアルなニーズと、パナソニックの技術を徹底的にすり合わせ、その最適解として誕生したのがパナソニックグループパビリオン「ノモの国」である。

子どもたちに、自身の感性とその可能性に気づいてもらうという、これまでにないソリューションを体現するパビリオンとなった。 先進的なインクルーシブ設計も、当パビリオンの特徴。例えばパビリオン内の複数のゾーンからアクセスできる場所には、音や光などから受けた刺激を落ち着かせる、カームダウンルームを設置した。

「以前より当社では、強い光や音などの刺激をつらいと感じてしまう感覚過敏のある方々に着目し、そのニーズに合わせた空間作りを行ってきました。そのほか、目や耳が不自由な方に向けて、音声や文字によるガイダンスを、エリアごとにスマートフォンで受けられる仕様にしました。これまでの研究の蓄積を、万博の場で活用できました」(原山氏)
各種ソリューションによって、このような体験が難しかった子どもたちにも平等な施設を実現した。 同パビリオンは連日満員となり、SNSでは「子どもたちが自由に発想力を発揮し、新たな自分を発見できる空間」「本当の自分と見つめ合う時間になった 」といった声が寄せられた。
リピート率80%超、空間作りで感動を届ける科学
ディスプレイ業と聞くと、ただ空間を飾るだけのようにも思えるが、このように乃村工藝社の仕事はその範囲にとどまらない。そもそもディスプレイ業とは、どんな業態なのか。
それを表しているのが、一般社団法人日本ディスプレイ業団体連合会のウェブサイトにある説明だ。
(一般社団法人日本ディスプレイ業団体連合会 ウェブサイトより)
これを受けて原山氏は、こう語る。
「まさに床や壁、インテリアなどを物理的にデザインするだけでなく、人の感情や心の動き、コミュニケーションをデザインするのが私たちの仕事です。そこがディスプレイ業の伝わりにくいところなのですが、そこにこそ本質的な価値があるとも感じます」

原山 麻子氏
そんなディスプレイ業界のリーディングカンパニー・乃村工藝社が掲げるのが、「空間創造によって、人々に『歓びと感動』を届ける」というミッションだ。空間の力を生かして人々に歓びと感動を届けることで、顧客や社会の課題解決を図る。同社では積み上げてきた技術と経験、感性で実現してきたが、近年は“歓びと感動”へ科学的にアプローチする取組みにも力を注ぐ。
「現在それを担うのが、2022年にR&D部門として設立された未来創造研究所です。例えば、被験者の脳波を測定し、どんな空間でどのような心の動きが起こるかをデータ解析するといった研究を行っています」

多様なクライアントが抱える課題に入り込み、空間をさまざまな観点から“立体的に”デザイン。その結果リピート率80%超と、同社のディスプレイ事業の徹底した課題理解力と解決力、顧客との信頼関係を示している。
建物を壊すことなく、新たな価値を与える
社会課題が複雑化、多様化する現代にあって、今後ディスプレイ産業および同社に求められる役割は、いっそう大きくなりそうだ。
「今、日本では社会や人との関わりが希薄になっているという課題が顕在化しているように感じます。実際、日本の幸福度ランキングは高いとは言えないと思いますが、その背景には社会関係資本の脆弱さがあると言われています。その点私たちは、人の関わりと幸せを生むための空間作りを生業としているだけに、その解決に寄与できると考えています。
具体的な例を挙げるとすれば、高齢化社会の問題です。血縁者だけで高齢者を支えることが難しくなっている中、家族ではなくても近くにいる人たちが家族のように関わる『共助』の関係が課題解決になるとすれば、そこに空間作りが役に立つのではないかという仮説があります。未来創造研究所では、共助の関係をつくるにはどう人が集まり、どうコミュニティを形成すればいいかという研究も進めています」

一方、人口減や環境負荷をふまえると、今後は建物を一様にスクラップ&ビルドするのではなく、元の躯体を生かし思いや文化を継承しながら新しい価値を付与する「リファイン」の重要性が高まる。乃村工藝社をはじめとするディスプレイ業界の、今ある空間をニーズに合わせて工夫する力が発揮される領域だ。
同社では、自然と融合した空間へのニーズの高まりに応じて造園や建築の知見も強化し環境に向き合うなど、内装にとどまらない多様な視点から課題解決を図れる空間作りに努めている。
空間は、人の生活に密接に関わり、環境問題、紛争、社会の分断など深刻な問題が横たわる時代にあって、心の豊かさや、生活のあり方をも左右しうるだろう。ディスプレイ業界では、企業や社会の「場・集団・仕組み」としての課題に対し、ディスプレイ企業がハブとなって「空間」自体の観点から立体的なアプローチを繰り出す。こうしたアプローチで課題解決に導くケースは、今後も拡大していくだろう。
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