大垣共立銀行が見据える「顧客接点変革」のカギ デジタル基盤強化で目指すデータドリブン経営

DXを加速させた「営業スタイルの転換期」
岐阜県大垣市に本店を構え、来年、設立から130年を迎える大垣共立銀行では、2024年度から始まった中期経営計画の中で「成長戦略」「人財戦略」「経営基盤強化」の3本柱を掲げ、それらを支える横断的な施策として「DX戦略」を推進している。

デジタル統括部長
小坂井 智浩氏
DX戦略の4テーマとして掲げる「顧客接点の変革」「プロセス改革」「デジタル基盤整備」「人財・企業風土の変革」は、営業スタイルそのものを変える挑戦でもある。同行は、“脱・銀行”を掲げ、銀行の常識にとらわれない、地域の利便性や活性化に資する数多くのサービスを実現してきたことでも知られている。年中無休で稼働するATMの導入や、移動店舗サービス・ドライブスルー店舗、手のひら認証ATMなどもその一環だ。
一方で、同行デジタル統括部長の小坂井智浩氏は、変化の激しい顧客ニーズに応えるためには、考え方を転換する必要性があると語る。
「私たちが進めてきたプロダクトアウト型の発想から、今後はマーケットイン型の取り組みをベースとした、コンサルティング型の営業に転換していく必要があります。お客様に刺さる提案をするには、まずお客様を理解しなければなりません。そのためのデータ活用が求められていました」

デジタル統括部 課長
窪田 成臣氏
同部課長の窪田成臣氏も次のように加える。「DXとは、デジタルやデータを活用し、お客様や従業員の体験価値を向上させていくことにほかなりません。DXとデータ活用は切っても切り離せない関係だと考えています」。
しかし、理想と現実には大きなギャップがあった。データは社内に点在し、必要な情報を集めるだけでも容易ではなかった。加工や抽出にも手間がかかり、活用に至るまでのプロセスも整備されていない。社内業務の効率化も、顧客接点の高度化も、すべては「使えるデータ」が前提だが、その活用基盤が整っていなかったのだ。
「住宅ローン分析」で見えた、現場の限界と課題
データを活用したいのに、使うすべがない。またもう1つの課題が、長年取引を続ける顧客の過去のデータが手元にないということだった。デジタル統括部の伊藤啓氏は、住宅ローンを例に挙げ次のように話す。
「住宅ローンは銀行の主力商品ですが、35年ローンを組んだ方が実際に何年で返済しているのかを調べようとしても、過去の情報が残っていなかったのです」。勘定系システムの更改を繰り返す中で、過去のデータが消失しており、完済時期の傾向すら正確に把握できないこともあったという。

デジタル統括部 調査役
伊藤 啓氏
「例えば、ローン控除が終わる10~15年目以降に返済が集中する傾向があるのでは、という仮説は立てられます。でも、それはあくまで推計であって、実データに基づいたものではありません」(伊藤氏)。このような状況では、商品設計やプロモーション戦略に生かす知見を得ることが難しい。
「例えば、大学生時代に口座を作ったお客様が、後にメイン口座として使っている可能性もある。そうした傾向を把握するには、長期的なデータを使った分析が必要不可欠です」(小坂井氏)。顧客のライフ・タイム・バリューを理解するには、数十年単位の履歴が必要だが、現行のシステムでは保持も抽出も困難だった。
同部の粟野修司氏も「営業会議のたびにデータを集めて資料を作成することが大きな負担になっていました。ダッシュボードで常時見える化できれば、その作業を軽減できるだけでなく、会議そのものが不要になることが期待できます」と語る。
データを活用したいという声が現場からも多く上がる中、中長期的に見たときにどういうデジタル基盤を作ればいいのか。その相談相手として、同行が選んだのがNECだった。

デジタル統括部 調査役
粟野 修司氏
「長年の付き合いがあることに加えて、製品ありきの提案ではなく、『何を目指すべきか』を一緒に考えてくれるという姿勢がありました」(小坂井氏)
実際にNECは、いきなりシステム構築に進むのではなく、「何をやりたいのか」という目的にフォーカスした話から、その内容をベースとして共に上流工程から検討する提案をしたという。
「どんなデータ活用のユースケースがありうるか、クラウドかオンプレミス(※)か。そうした議論をフラットにできる。しかも、『これしかない』と自社の製品を売り込むのではなく、他社のソリューションも含めて複数の選択肢を提示し、一緒に考えてくれる。そこに納得感がありました」(窪田氏)
※自社の施設内にサーバーやネットワーク機器などのITインフラを設置し、自社で運用管理を行う形態のこと
6つの案から導いた、ハイブリッド構成の「最適解」
NECの川畠輝聖氏がまず最初に提示したのが、6つの構成案だった。「お客様の環境と目的を踏まえ、複数案を提示しました。その中で、システムはクラウドとオンプレミスのハイブリッド構成が最適だと判断しました」と語る。

プラットフォーム・テクノロジーサービス事業部門
データ基盤サービス統括部
データドリブン事業グループ
シニアマネージャー
川畠 輝聖氏
同社の福山雄斗氏も「活用ユースケースをお客様のDX戦略のテーマである『プロセス改革』と『顧客接点の変革』の2軸で整理し、コストや拡張性を含めて議論しました。一方的に『これがいい』というのではなく、納得感のある選択肢を提示することが重要でした」と振り返る。
最終的に採用されたのは、オンプレミスのデータレイク(大容量ストレージ)、DWH(データウェアハウス)と、クラウド上のアジャイル分析環境を組み合わせたハイブリッド構成だ。大量のデータを扱う領域はオンプレミスで安定性とコストを確保し、先端的な分析はクラウドで柔軟性を担保するという。
「データの活用においては大量データを取り扱うことも想定されます。分析などの際に非効率な処理をしても、オンプレミスなら費用が固定化されますが、クラウドだと基本的には従量課金制のため、費用が跳ね上がる可能性があります。せっかくデータ活用の機運が高まっているのに、ブレーキを踏まない環境にしたいと考えました」と窪田氏はその理由を語る。

第四金融ソリューション統括部
ソリューション推進グループ
プロフェッショナル
福山 雄斗氏
基盤は25年4月に稼働がスタート。CRM(顧客情報管理)データの取り込みも進行中で、9月以降はダッシュボードツールによる可視化が本格化する予定だ。「データ活用の事例を配信し、他部署からのリクエストも増えてきました。これからはデータ活用が当たり前の環境を目指します」と小坂井氏は語る。
伊藤氏は「分析だけでなく、必要としているところにデータを連携していくことができることも重要。例えば、残ポイントのあるお客様にウェブ接客ツールで通知するだけでも、お客様の満足度向上につながります」と語る。AIによる予測モデルの活用も視野に入っており、NECの知見への期待も高まっている。
デジタル統括部とDXセンターが描く次のステージ
同行では25年7月にIT統轄部とシステム部を統合し、「デジタル統括部」を新設した。DX戦略を中期経営計画の柱に据える中で、推進体制の強化をさらに推し進めていく。
「DXを掲げてはいるものの、それを横断的に運営・管理する部門がありませんでした。経営陣からも『テコ入れが必要だ』という声が上がり、統合を決断しました」(小坂井氏)
新設されたデジタル統括部には「DXセンター」も設置され、今後「DX委員会」の立ち上げも予定されている。「これからは、戦略だけでなく現場の動きを加速させる体制が必要です。だからこそ、NECには今後も知見を生かした提案を期待しています」と小坂井氏は語る。
むろん、単なる基盤構築にとどまらず、活用フェーズの広がりに応じた支援──。それが同行のNECへの期待だ。
「活用が広がれば、課題も複雑になります。AIやガバナンス、セキュリティなど、次のフェーズに向けた支援を継続していきたいですね」(川畠氏)
「本部や営業店の方が自律的に分析できるよう、データカタログなどの仕組みも提案していきます。使える基盤を『使いこなせる環境』に育てることが、これからの支援の本質だと思っています」(福山氏)
100年を超える歴史を持つ地域銀行が、次の時代に向けて踏み出したDX。その歩みは、基盤の整備から始まり、活用、組織、そして人財へと広がっていく──。NECはBluStellar(ブルーステラ)※を通じ、そのすべてに寄り添うパートナーとして、これからも共に走り続ける。
※「BluStellar(ブルーステラ)」は実績に裏打ちされた業種横断の先進的な知見と長年の開発・運用で研ぎ澄まされたNECの最先端テクノロジーにより、ビジネスモデルの変革を実現し、社会課題とお客様の経営課題を解決に導き、お客様を未来へ導く価値創造モデルです