中国出身の私がNHK朝ドラ《あんぱん》を見た結果 戦争描写に感じる「抗日ドラマ」「中国の歴史記憶」との相違点
さて、そうした「抗日ドラマ」の流れはいまどのように進化しているのだろうか?
2025年は日本にとって、「戦後80周年」、中国には「抗日戦争勝利80周年」の節目。9月3日(「抗日戦争勝利記念日」に当たる)には、北京・天安門広場で中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念式典が開催される予定だ。
こうしたなかで、すでに多数の「献礼剧(記念・国策ドラマ)」が準備されており、「抗日ドラマ」の制作も依然として活発だ。
過去には、手榴弾で飛行機を撃ち落とすような過剰に誇張された演出も多く、「抗日神剧(荒唐無稽な抗日ドラマ)」と揶揄されてきたが、現在では、そうした表現からの脱却を図り、ドラマ制作側も一定のリアリズムや人間の感情の複雑さを描こうと模索している。
抗日ドラマを取材も、多くの関係者は口を閉ざす…
私は今回、「抗日ドラマ」の進化について取材を試みたが、多くの学者やメディア関係者、中国で活躍している日本人俳優たちは「敏感な話題なので……」と口を閉ざした。
ある映像業界の関係者は、慎重に言葉を選びながら語った。「なぜ『抗日ドラマ』が多いのか。一つは審査が通りやすいからだ。でも今は、旧来のように日本軍の残虐さだけを描くのではなく、人間味やエンタメ要素も盛り込んでいる。カンフーや恋愛などを取り入れ、視聴率や興行収入も意識せざるをえない」。
もはや「抗日ドラマ」は娯楽の1つとなり、特に高齢者に根強い人気がある。実際の戦争を体験した世代は90代以上になったが、その記憶や語りを受け継いだ70〜80代にとっては、「抗日ドラマ」は歴史の再確認として受け入れられやすい。昼間や夕方に再放送されることが多く、退職後に家で過ごす大勢の高齢者の「日課」となっている。
反面、ある在日中国人留学生は、「私の祖父が毎日『抗日神剧』を見て大笑いしているのが理解できない。私はあんなドラマはつまらないと思う」と語っていた。

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