3000人を看取ってきた医師「断っていい延命治療もある」、最小限の医療で実現する"自然な看取り"。「決断」する日のために知っておきたいこと

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最初は食事の介助が必要でしたが、1週間後には自分でスプーンを使って食べられるようになりました。余命1週間と言われた患者さんは、自分で食べられるくらい元気になり、退院して自宅に戻りました。

亡くなられたのは退院から1年ほどたってから。前日まで自分の口で食事をされていたそうです。

〝延命治療〟とは? 死について考える

病気やケガ、老化に伴う衰弱などにより、生命の維持が厳しい状況で、一時的に命をつなぐために行われる治療を延命治療といいます。

一般的には、身体機能が落ちてくると食事がとれなくなります。そうなると、病院では経鼻経管栄養や胃ろう、点滴などで栄養や水分を注入します。

すると、過剰な水分が体内にたまることになってだ液やたんが増え、吸引(気道や気管内にカテーテルを挿入して分泌物を除去する処置)が必要になります。

この吸引は患者さんにとって、違和感や痛みを伴うつらいものです。また、点滴の管がイヤで、自分で抜いてしまう患者さんもいます。そのような場合は点滴を抜かないよう体を拘束されてしまうこともあります。

この状態では退院は難しいですし、絶食の指示が外れることもありません。点滴と吸引が長期間続くと、口から食べる機能はさらに低下してしまいます。

なかには回復するケースもありますが、食べられなくなると絶食のまま過ごし、食べたいものも食べられず、そのまま亡くなってしまうことは珍しくありません。苦しみながら点滴を続け、口から食べることなく、つらい状況のなかで亡くなってしまう……。私はこれを「終末期の点滴の悪循環」と呼んでいます。

かつては、患者さんの意思や希望を確認することなく、1分1秒でも長く生きていられる治療を行うことが一般的でした。現在は、終末期は医療処置を行わないほうが楽に過ごせることがわかってきて、延命治療については患者さんや家族の意思や希望が尊重されるようになっています。

状態が悪化して看取りが近くなってくると、家族は延命のための医療処置を選択するのかしないのかの決断を迫られることになるのです。いざというときにあわてないために、延命処置がどのような内容なのか、それらのメリットとデメリットを知っておくことが大切です。

終末期に行われることが多い延命治療を紹介しておきます。

経鼻(けいび)経管栄養:細いチューブを鼻から胃へ通し、流動食や水分、薬を注入する。管を挿入するので違和感がある。管が嚥下(えんげ:飲み込むこと)を邪魔するので、口から食べられない。

自分で管を抜いてしまう場合は体を拘束されることもある。デイサービスやショートステイ、施設などでの受け入れ制限が多い。

胃ろう(PEG):内視鏡もしくは手術で腹部に小さな孔(あな)をあけ、そこからチューブを挿入して、流動食や水分、薬を胃に直接注入する。

経鼻経管栄養に比べ、消化管を使うので、口から食べることに近い状態。経口摂取との併用で、より自然に近くなる。

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