まさかの《ロボットになる展開》も!? マンガが描いてきた「長嶋茂雄」の"超人伝説"
一方、水島新司の出世作『男どアホウ甲子園』(作:佐々木守/1970~1975年)では、長嶋は打倒すべき目標だ。
物語終盤、東大を中退し阪神タイガースに入団した主人公・藤村甲子園は、一度は二軍落ちを経験しながらも初勝利を完封で飾る。が、その試合を観戦していた長嶋に「フフフ……あの程度ならいつでも打てる……」と言われてカッときた藤村は、なんと翌日広島に向かう長嶋に新幹線のホームで勝負を挑む。
非常識な行動をたしなめる長嶋の言葉も聞かず、委細かまわず投げ込む藤村。すかさず王が差し出したバットを握った長嶋はボテボテのゴロを打つ。打ち取ったりと喜ぶ藤村だったが、実は長嶋は後ろの一般人らの安全を考え、わざとゴロを打ったのだ。

作:佐々木守・画:水島新司『男どアホウ甲子園』(秋田書店)秋田文庫18巻p138~139より
藤村が長嶋との勝負を焦ったのには理由がある。藤村のプロ入りは1974年、つまり長嶋の現役最終年だったのだ。
そこで迎えた甲子園での最後の阪神-巨人戦に先発した藤村は、ついに代打で登場した長嶋と対戦する。カーブのサインを無視して投じた渾身のストレートは、見事に長嶋のバットを粉砕。折れたバットを手にした長嶋は「あのなまいきな子が、ジャイアンツの恐るべきライバルになった!! あとはたのむぞ、ワンちゃん!!」と王に告げる。それが同作の最終回だった。
何から何まで長嶋のマネをする男がたどった道
阪神タイガースと南海ホークスのファンだった水島新司にとっても長嶋茂雄は別格のようで、代表作の1つ『野球狂の詩』(1972~1977年)には、「おれは長島だ!」と題されたエピソードがある。主人公は、同じ名字のミスタージャイアンツに憧れ、何から何までマネする男「長島太郎」。長嶋と同じような胸毛を生やすために毛生え薬を塗り、草野球のプレースタイルでも長嶋になりきる。
さらには同じプロ野球選手になるべく4年連続で東京メッツの入団テストを受け、長嶋の現役最終年についに合格。猛練習に励んだ彼は、徹底した長嶋のマネが結果にも結びつき、シーズン終盤、消化試合ながら「四番・サード」で出場を果たす。そして、後楽園球場で引退セレモニーを行う長嶋と同時に、無人の球場で彼もまた引退セレモニー(のマネ)をするのだった。

水島新司『野球狂の詩』(講談社)KC7巻p212~213より
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