まさかの《ロボットになる展開》も!? マンガが描いてきた「長嶋茂雄」の"超人伝説"
とはいえ、全編を通じて長嶋の存在感はさほど大きくない。金田正一が引退会見で「もっとも印象にのこる思い出の名勝負は?」と問われて長嶋との初対戦を挙げ、長嶋もまた金田に4打席4三振を喫したデビュー戦を振り返り、「ぼくのそだての親ですよ」と語る場面は印象的だが、キャラとしての活躍場面は意外に少ない。
同じ梶原一騎原作なら、『侍ジャイアンツ』(画:井上コオ/1971~1974年)のほうが長嶋のキャラが立っている。時は1970年。6連覇を成し遂げた川上監督は、いずれ監督の座に就く長嶋のために、スマートに洗練された選手ばかりでなく野性的な「サムライ」が必要だと考えた。そこでスカウトしたのが、殺人的ノーコンながらウルトラ豪速球で打撃のパワーも桁外れ、態度もクソでかの野生児・番場蛮だった。
番場が入団した秋のキャンプで、二軍の紅白戦が行われる。球審を務めるのは長嶋だ。公式戦ではないので簡易プロテクターで済ませていた長嶋だったが、殺人ノーコンの番場が投げると聞いて大慌て。「こ……この長島 妻と四児をやしなう身…………」「そうなるとこんなインスタントスタイルではアカン!!」と鎧のようなプロテクターで完全武装し、「ハハハ これでだいじょうぶ ザマアミロ」と呵々大笑する。

作:梶原一騎・画:井上コオ『侍ジャイアンツ』(講談社)講談社漫画文庫1巻p197より
二枚目半のキャラとしても描かれた長嶋
同作における長嶋は、スーパースターでありながら気さくな頼れる先輩で、時にコミカルな姿も見せる二枚目半のキャラとして描かれる。フロリダキャンプでの大リーグチームとの試合で、日本人をバカにする観客を黙らせる特大ホームランを放ち、「当年とって三十六歳 ご老体とはおもえない大リーガー顔負けのパワー!」と番場にいじられると、「ご老体とはなんだあ!!」とバットを持って番場を追いかけ回す。
阪神との試合で、捕手からサードへの牽制球を受けて走者にタッチ、際どいタイミングでセーフと判定されると、「そのウソホント? それはないニィ」とおどけてみせる。激しく首位を争う中日との試合前の選手食堂にハートマークのシャツで登場し、あぜんとする周囲をよそに「おねえさん サンドイッチね!!」と涼しい顔。

作:梶原一騎・画:井上コオ『侍ジャイアンツ』(講談社)講談社漫画文庫6巻p184より
もちろんコミカルなだけでなく、持ち前の野性のカンでいち早く危険を察知し、マウンドの番場を助けるシーンはいくつもある。
ハイ・ジャンプ魔球がバント・フライ作戦で破られたときには、落下してくる番場を肩車で受け止めながら打球もキャッチするという離れ業を披露。感謝する番場に「フフフ……一度こっきりだ………こっちも四児のパパ 三十六歳のポンコツがいつもこんな芸当やらかしていては身がもたんからな」「あまったれず なにがなんでも第二の魔球を完成しろ!!」と檄を飛ばす長嶋は(阪神ファンである筆者から見ても)すこぶるカッコいい。
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