絵本の新たなる"物語"を開拓するEHONSの挑戦 大人の心にも届く「余白」を生かしたグッズ開発

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「EHONZ」の前で、おすすめの絵本グッズを持つ丸善丸の内店店長の篠田晃典氏(右)と店舗開発に携わる中﨑悠人氏(左)
EHONSで25種類以上のグッズを展開する『こまったさんシリーズ』のグッズ。2025年7月29日からはフェアも開催される
絵本や児童書の分野においてユニークな取り組みを実践し、新たな可能性を切り開いているのがEHONS(エホンズ)だ。丸善丸の内本店をはじめとする国内8カ所、および台湾1カ所で展開され、絵本の世界観をモチーフにしたグッズを企画・販売。主に20代から50代の女性を中心に強い支持を集め、SNSでもたびたび話題になるなど、2021年9月のスタート以来その影響力を着実に広げている。単なる「キャラクタービジネス」にとどまらない、“本屋発”だからこその「物語と読者との深い共感」を生み出す仕掛けに人気の秘密が隠されている。

本の文化を次の世代へつなぐ挑戦

EHONSを立ち上げた背景には書店員としての危機感と使命感があったと述懐するのは、児童書販売に20年以上携わり、設立前からコアメンバーとして参画する兼森理恵さん。現在も売り場の最前線に立ちながら、絵本に基づく商品の企画・開発・展開までを一手に担っている。

EHONS 商品開発担当(バイヤー) 兼森理恵 氏
EHONS
商品開発担当(バイヤー)
兼森 理恵 さん

「本屋という場所の価値を、改めて問い直したいという思いがありました。出版不況が続き、“仕入れて売る”という従来の書店のモデルは、売り上げにも集客にも限界が見えてきていたんです。とくにコロナ禍ではよりいっそう厳しい状況が続きました」

そうした逆風の中で生まれたのが、絵本の世界を立体的に伝えるグッズという発想だった。単なるキャラクタービジネスの発想ではなく、「グッズを入り口に絵本に出会ってもらう」という、書店ならではのアプローチだ。

「絵本というジャンルは、大人の記憶にも深く根差しています。読んだことがある人にとっては“再会”になり、知らなかった人には“新たな出会い”になる。そういった仕掛けができれば、絵本を手に取る人はもっと広がるはずだと考えたんです」(兼森さん)

書店発だからこそできるグッズ開発の極意

EHONS

EHONSでは現在までに、70冊以上の絵本作品に基づく約1200点ものオリジナルグッズを企画。プロジェクトが始動した当初はゴーサインが出るまで苦労することも多かったというが、兼森さんらの絵本作品に対する思い入れはだんだんと関係者らにも伝わり、今ではグッズ化を歓迎する作家も増えてきているという。

強みは、メーカーではなく書店が主導する点にある。一般的にグッズ開発はライセンスビジネスが中心で、キャラクターを切り取って商品化することが多い。だがEHONSは、その道数十年の絵本の専門家である書店員が読書体験を基に商品設計を行っている。

「大事なのは共感力です。これは本の販売と同じで、強く記憶に残るようなシーンや重要な場面を上手に商品化することで、読者の記憶に触れ、共感が生まれます。ただ見た目のかわいらしさだけでなく、『あのときの思い出がよみがえる』と思ってもらえるような商品にしたいのです」(兼森さん)

EHONS 商品開発担当(デザイン) 篠沢 美波
EHONS
商品開発担当(デザイン)
篠沢 美波 さん

商品開発に携わる兼森さんのアイデアを形にするデザイナーとしてフェアのビジュアルから商品の意匠設計までを担う篠沢美波さんは、EHONSが生み出すグッズの最大の特長は、物語の余白に寄り添うデザインにあると話す。

「絵本には、文章で語られない部分があります。その余白が、読む人の想像力を刺激するんです。EHONSのグッズは、作り手である私たちの一方的な思いだけを伝えるのではなく、そうした余白を感じ取れるような、受け手一人ひとりの感性に触れるような商品を作りたいと思っています」(篠沢さん)

林明子さんの名作『こんとあき』(福音館書店)をモチーフにしたハンカチには、絵本の冒頭で「こん」が作られる場面の型紙がデザインされている。これは物語の導入部分であり、同作の読者にとって印象的な場面でもある。

『わかったさん』のハンカチ

また寺村輝夫・永井郁子による読み物『わかったさんのおかしシリーズ』(あかね書房)のハンカチにも、各巻の冒頭に必ず登場する「クリーニング屋さん」の場面を表現。本題に入る前の何げないシーンだが、物語の入り口であり、「読者の記憶とつながる場所」であることから商品化した。また、絵本で使われているのと類似した色彩のみを採用することで、原作の雰囲気が伝わるよう工夫した。

「私たちは、『このグッズがあるから絵本を読みたくなった』と思ってもらいたいんです。ただかわいいだけでなく、物語の文脈を丸ごと感じられるグッズを目指しています」(兼森さん)

読者の再会と新たな出会いを支える場所へ

EHONSの売り場

EHONSが目指しているのは、単なる売り場の活性化にとどまらない。グッズという形で絵本の魅力を“翻訳”し、次の世代やかつての読者に手渡していこうとするものだ。

「絵本は、大人にとっても“心の拠り所”になりうる存在です。そんな絵本との新たな接点になれたらうれしいですね」(兼森さん)

今後は、より多くの人が絵本に出会う起点になることを目指している。「本屋でグッズを売る」という発想にとどまらず、異業種とのコラボレーションや地方展開なども視野に入れているという。

「絵本に関係ない人をどう取り込むかがカギだと思っています。料理、ファッション、カルチャーなど、さまざまな領域をつなげていくことで、絵本を取り巻く文化はより豊かになっていくはずです」(兼森さん)

EHONS兼森さんと篠沢さん

書店でありながら、グッズによって「読む」「感じる」「贈る」という複合的な絵本体験を提供するEHONS。その挑戦は、書店の未来だけでなく、読書文化そのものを再定義する試みともいえそうだ。絵本や児童書に宿る魅力的なコンテンツが、世界を大きく変えていく。

◆イベント情報◆
こまったさんのおはなしおりょうりきょうしつ
EHONS×あかね書房
寺村輝夫・岡本颯子『こまったさんのおはなしりょうりきょうしつ』フェア
心踊る♪こまったさんのファンタジック・キッチンへようこそ
2025年7月29日(火)〜8月26日(火)
EHONS各店にて開催

 

EHONSについて詳しくはこちら

EHONS TOKYO (@ehonstokyo)公式インスタグラムはこちら