LIXILが独大手Schuecoと協業で「窓の常識」刷新 (動画)建物の脱炭素化に貢献「高性能アルミ窓」

環境先進国ドイツ、建物の性能を左右する「窓」へ高い意識
山田 住まいをはじめとする建物にも「カーボンニュートラル」が求められる中、日本の住宅設備市場はこの課題にどう向き合えばいいか。そのキーとなるのが断熱性能の向上です。断熱性能が高い建物にするには「窓」が大きく影響してきます。環境先進国ドイツではどのような取り組みが進んでいるのでしょうか。
Engelhardt ドイツ政府では環境への配慮を重視した厳しい基準を設けています。CO2排出量の見える化も義務づけられており、環境負荷の少ない建物には優遇措置や補助金が適用されるなど政策の後押しもあります。そのため、ドイツでは窓の断熱性能に対する意識が非常に高く、断熱性能の高いアルミサッシが受け入れられてきました。

General partner and CEO Schueco International KG
ドイツのサッシ市場は、アルミが木材や樹脂と同等の高い断熱性を満たすよう独自に進化を遂げてきました。さらに、安価で普及している樹脂窓と比べて、より付加価値の高い窓として扱われています。そうした中で「Cradle to Cradle(ゆりかごからゆりかごへ)」と言われるようにアルミのリサイクルや、分離・解体が可能でリサイクルしやすい環境配慮設計などにより、今注目されるホールライフカーボン(建物のライフサイクル全体で排出されるCO2)の削減に努めています。


山田 ドイツがここまで窓の性能にこだわる背景には、どんな要因があるのでしょうか。
Engelhardt 環境意識の高さはもちろんですが、エネルギー価格の高騰も大きな要因となっています。断熱性能の高い窓は冷暖房費を大幅に削減できるため、経済的なメリットが大きいのです。また、サーキュラー・リノベーションと言われるように、中古住宅をはじめとした建物の資産的価値を高めていく動きもあります。例えば、窓のサッシを交換することで、工事の手間を抑えながらエネルギー効率を改善し、資源循環性を担保するなど、快適な居住空間とホールライフカーボンの削減を両立することを目指しているのです。

吉田 日本の住宅の断熱基準は、欧州、とくにドイツの基準と比べ低いとされてきました。実際、現行の省エネ基準に満たない住宅は全体の約90%に及ぶといわれています。ただ最近はドイツの高断熱住宅と比べても遜色ない、断熱性の高い住宅がようやく日本でも出てき始めました。 住宅の性能を上げるために重要になるのは開口部であり、欧州並みの断熱性能を持った窓も少しずつ増えています。
一方、日本ではオペレーショナルカーボン(冷暖房など建物が使われることによって発生するCO2)という観点がまだ強く、リサイクルのアルミなどを使うといった循環型の商品設計には至っていません。つまり、ホールライフカーボンの削減に寄与していくという視点が日本では不足していると感じています。

LIXIL 執行役専務 LIXIL Housing Technology 担当
1986年にトーヨーサッシ(現 LIXILグループ)入社。2007年、同執行役員 生産本部 生産企画部長 兼 海外管理部長。11年、LIXIL マーケティング本部 執行役員 商品統括部長。17年、LIXIL 専務役員、同社LIXIL Housing Technology Japan CEO(現)。2018年より現職
日本の窓は小さくなり、数も減少している
吉田 日本でも自然環境の変化による健康リスクの増大やエネルギー価格の高騰によって、断熱性能への関心が高まっています。現在、政府の働きかけもあり、新築の断熱性能は向上しつつあり、窓のリフォームに対しても補助金が出されています。
山田 断熱性能の向上はエコフレンドリーであると同時に、建物の資産的価値を上げ、エネルギーコストも削減することができるメリットがあるということですね。

日本総合研究所 理事
EUビジネススクール(DBA)、英国国立ウェールズ大学経営大学院(MBA)修了。 早稲田大学法学部卒業。 上場建設企業において、現業部門を経験後、関係会社へ出向し経営企画・管理責任者として経営再建に関わる。帰任後は本社管理部門において連結経営管理・決算、グループ中期計画の策定を担当。2001年より現職にて、グループ経営、インフラ産業に関するコンサルティングに従事
では、こうした取り組みを日本市場でどう拡大させればいいのか。日本は現在、少子高齢化に伴う人口減少が進み、住宅市場は漸減傾向です。これまで日本は欧米と比べて新築が多く、リフォームが少ないとされてきましたが、今後新築住宅着工戸数が増えるのは難しく、一方でリフォーム市場は拡大していく見込みです。
人口減少と比べ世帯数の減少が比較的少ない中で、既存住宅をリフォームして住まわれる方は増えていくのではないでしょうか。当社調べでは、リフォーム市場の規模は2035年には約9兆円程度に収斂していくとみておりますが、窓市場に関しては拡大が見込まれます。一般社団法人建築開口部協会の窓改装市場調査によれば、2022年は569.7億円、23年は671.5億円と増加しており、足下でも拡大が続いています。
吉田 非居住分野の建物も含め、今後断熱性能の高い窓のニーズはますます増加していくとみています。 最近の住宅の傾向として、欧米の住宅の窓はどんどん大きくなっているのに対し、日本の窓は小さくなり、数も減少しているように思います。これは日本では住宅の断熱性能を上げるための方策だと受け止めています。オペレーショナルカーボンに偏重しているきらいがありますが、快適な住環境のためにも、ホールライフカーボン削減の考えの下、断熱性が高く開口部の大きい窓になっていくのが本来の流れだと考えています。

Engelhardt ドイツではリビングルームの窓を大きくして、日光を浴びながらゆっくり開放的に自宅で過ごしたいという考え方が浸透しています。断熱性の高い窓は、こうした快適な住環境の実現に加え、CO2削減や中古住宅市場の活性化、猛暑対策や電気代の削減などさまざまなメリットがあります。このため断熱性の高い窓は日本でも受け入れられるとみており、そのポテンシャルは非常に高いのではないでしょうか。
独大手との協業で日本の窓を新しいステージへ
山田 今回LIXILとSchuecoはパートナーシップをさらに強化することにしたそうですね。
吉田 LIXILは以前から「GREEN WINDOW」という考え方を提唱していますが、それをさらに加速させていきたいと考えています。Schuecoは欧州で価値の高いアルミサッシを提供しており、すばらしい技術と歴史を持つリーダー的な企業です。とくにビル用の窓については、断熱性能の要求レベルが限定されており、当社の商品ラインアップも不足していました。しかし、Schuecoの技術によって、これからは断熱性の高い高性能アルミ窓の提供が可能となります。


今後は住宅、マンション、ビル、店舗を問わず採用可能で、断熱性や気密性、意匠性に優れたSchuecoブランドの高性能アルミ窓を展開していきます。そこにLIXILの日本市場に関する知見とノウハウを生かすと同時に、循環型低炭素アルミの技術を融合させ、戦略パートナーシップを強化していきます。私たちは「日本の窓の常識を変える」ことを重視し、ホールライフカーボン削減に向けた取り組みを推進していきたいと考えています。

山田 アルミは素材としてのよさに加え、リサイクル率も非常に高いといわれています。
Engelhardt アルミは高性能な素材であるばかりでなく、半永久的にリサイクルできる素材です。古い建物からアルミを回収し、ほぼ100%リサイクルして使い続けられるのです。
山田 ただ、日本とドイツでは気候やカルチャーなど違いがあるのではないでしょうか。
吉田 確かにそうした側面はあると思います。日本では台風や地震の発生頻度が比較的高いです。日本はドイツより低緯度の位置にあり、南北に長く広がっているため、地域によって気候条件も変わってきます。気候風土に基づいた地域ごとの対応も必要でしょう。その一方、間取りやデザインについては、日本とドイツで大きな違いがあるわけではありません。欧州でいいとされるものを日本でも好む方は少なくありません。日本では窓の小開口化や少数化が一般的ですが、本来は大きな窓によって自然や景色とつながる暮らしが情緒的価値を生み、快適な住環境をもたらすのではないでしょうか。
山田 そうした意味で、日本市場を拡大するだけでなく、どう変革していきたいのか。今後の展開について教えてください。
Engelhardt 戦略的パートナーシップの強化は、私たちにとっても、日本市場全体にとっても大きな価値があると考えています。環境先進国ドイツで培った環境負荷低減に関するノウハウを提供することで、日本市場を変革していきたい。日本と同様にドイツでも気候変動の影響は甚大です。両社の経験を生かして、カーボンニュートラルの実現に向け、貢献していきます。

吉田 日本では窓の断熱性能の向上が非常に重要だと話してきましたが、Schuecoとしっかりとしたパートナーシップを組み、高性能アルミ窓を提供することで日本の課題を解決していきたいと考えています。また、政府の動きもあり、ホールライフカーボンの削減が今後日本でも急速に広まっていくとみています。そうした中で、私たちは日本市場をリードするような新しい波を起こしていきたいと考えています。
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