ベトナムIT大手「年平均27%」で急成長の秘訣 即戦力IT人材を豊富に育成する仕組みの凄さ

2005年の設立以来、20年にわたって日本でビジネスを展開する同社は、オフショア開発からエンド・ツー・エンドのサービス提供へと事業を拡大。直近15年間は年平均27%で成長し、国内5000人体制の構築を目指している。この急成長と人材獲得を支える同社の強みはどこにあるのか。ド・ヴァン・カック社長に話を聞いた。
日本市場で20年の実績、ベトナムIT大手「FPT」とは?
ベトナムを本拠とするFPTコーポレーションは、ソフトウェア開発、通信、教育、リテールの4事業を展開する企業グループだ。FPTソフトウェアを中核子会社として、世界30カ国・地域に約8万3000人の従業員を擁し、1100社超の顧客をサポートしている。
FPTジャパンホールディングスは2005年に設立され、今年で20周年を迎えた。同社社長のド・ヴァン・カック氏は、日本市場の位置づけと成長について次のように語る。
「日本企業との取引は、日本法人設立前の2000年から開始し、当初はソフトウェアの受託開発(オフショア開発)で信頼関係を築いていきました。以来、日本は当社グループの中で最も重要なマーケットであり、過去15年は年平均27%で成長を続けています。
とりわけ22年~24年の3年間は、40%という高成長を記録しました。25年度は31%成長、売上高1000億円を目指しています」
この急成長によって日本の顧客数は400社を超え、ビジネスの領域も広がっている。当初はソフトウェアのコーディングやテストを担う下流工程が中心だったが、近年は要件定義や基本設計、さらに上流の業務プロセス変革やビジネスコンサルティングの領域にも対応力を拡大。エンド・ツー・エンドのITサービスで、日本企業のDX推進を支援し、さらなる成長を目指している。
「年平均27%」急成長を遂げた背景
日本での高成長の背景を、カック氏は次のように語る。
「私たちは2000年前後に米国とインドへの進出を計画し、事務所も構えましたが、うまくいきませんでした。その後、当社は日本とのパートナーシップを模索したのです。日本の大手IT企業から小規模な案件を請け負い、実績を重ねていきました」

代表取締役社長 ド・ヴァン・カック氏
初めは少予算のコーディングやテストなどが中心だったが、その成果物が評価されて徐々に事業の規模が拡大し、IT開発ベンダーとしての日本でのポジションを確立。今や日本向けビジネスの売り上げが市場別売り上げの約4割を占め、グループ全体の成長を牽引している。
「当時の日本市場で私たちのビジネスがうまく進んだ理由の1つに、日本のIT業界における役割分担の明確さがありました。米国などはIT開発に上流・下流といった区別がなくプロジェクト単位での案件が多いですが、日本では細かく役割が分かれています。
そのため、当社が当時得意としていたプログラムのコーディングを速く低コストで進める能力が発揮しやすかったのです。そこからだんだんとノウハウを磨いていき、上流から下流まで対応可能な領域を広げていきました」(カック氏)
そして今、日本でFPTの開発力が注目されている背景として、グローバルなIT開発環境の変化がある。日本企業が長くオフショア開発先として活用してきた中国やインドに対して、ベトナムのIT開発力の価値が高まっているのだ。
「中国は経済成長に伴って開発人材のコストが高騰していることに加え、近年は地政学的なリスクも浮上しています。一方、ベトナムの人材コストは比較的安く、数も潤沢です。
また、日本企業のIT開発は途中の仕様変更が多い印象がありますが、当社を含むベトナム企業は柔軟に対応できていると思っています。ベトナム人は日本人と同様に勤勉です。そうしたところも日本企業のニーズと相性がいいと感じています」(カック氏)
「即戦力のIT人材を育成」独自の教育システムの強み
日本だけでなく世界中でIT人材が不足しているといわれる中、なぜFPTは優秀なIT人材を多数確保できるのか。
その理由は、同社グループが展開している教育事業にある。ベトナム国内において自社で教育機関を運営し、即戦力となるIT人材を育成しているのだ。
「FPTグループでは、小学校から大学まで一貫した先端教育を提供しています。中でもFPT大学は毎年約1万人が卒業するベトナム有数の私立大学で、そのうち約3割がFPTグループに入社しています」とカック氏は語る。

FPT大学の特徴は、市場のニーズを反映したカリキュラムだ。「言語は、英語はもちろん、日本語や韓国語も学ぶことができます。IT技術に関しては、市場のニーズを捉え、いち早くカリキュラムに取り入れることができるのが強みです。
最近ではオートモーティブや半導体、ローコード開発の分野を加えました。FPTや他社で行うインターンシップも充実しており、即戦力となる人材を育成しています」(カック氏)。
このようにして、高度な専門知識と実践的なスキル、そして日本語能力を兼ね備えた人材がFPTグループに集う。「質」と「量」を両立する独自の人材育成の仕組みこそが、同社の競争力の源泉というわけだ。日本企業にとっては、単に開発リソースを確保するだけでなく、ビジネスを深く理解し共に成長できるITパートナーの獲得につながっている。
さらに、日本国内にも自社が運営する日本語学校を設け、ベトナムなどから来日した人材の日本語教育や日本文化への適応を支援し、定着化を図っている。そうして日本語を話し、商慣習を理解する人材を育成していることも、日本企業からの信頼を高めている要因なのだろう。
AI開発能力を強化、日本企業の成長のパートナーに
次なる成長に向け、FPTが現在注力している分野がAIだ。人材面では、データサイエンティスト、データアナリスト、プログラマーなどのAI人材をグローバルで約1000人育成し、日本にも送り込んでいる。
AI開発のインフラにも積極的に投資している。FPTグループはアジアにおけるエヌビディア社の戦略パートナー(NVIDIA Cloud Partner)として、同社のAI半導体であるGPUの優先供給を受けられるという。
その先端半導体を導入したデータセンターを開設し、AIアプリケーションの開発および運用基盤として「FPT AI Factory」を立ち上げた。すでに住友商事、SBIホールディングスと提携し、自国のインフラやデータ、人材を用いる「ソブリンAI」の発展を目指すことを発表している。これは、データのセキュリティやガバナンスを重視する日本企業のニーズに応えるものといえるだろう。

「日本企業には、仕様書が残されておらず、ノウハウが属人化しているレガシーシステムが多く存在します。そこで、生成AIを活用してその仕様書を書き起こす取り組みを進めており、これはDX推進の大きなカギになるとみています。
AIの進化がさらに進めば、私たちの仕事の一部を奪うことになるかもしれません。ですが、AIに指示を出すプロンプトエンジニアなど、新しいスキルを駆使した人材も求められます。AIを積極的に使いこなし、お客様のAI活用をサポートする存在になりたいです」
日本市場における今後の成長目標は野心的だ。まず人材については、2024年時点で約4000人の人員を25年度に1000人増員し、5000人体制の構築を目指す。1000人の内訳は、ベトナムからの採用、国内の新卒採用、そしてキャリア採用で3分の1ずつを見込む。
そして、人材の拡充とシステム投資の両輪により、FPTジャパンホールディングスとしての売上高は、1000億円の大台への到達が視野に入ってきた。
「当社は20年間、日本企業のIT開発をお手伝いしてきました。レガシーシステムのモダナイズから先端のAI活用まで、ITに関わるあらゆるニーズに迅速に応える能力を身に付けています。これからも日本企業のパートナーとして共に成長していけるよう取り組んでいきます」(カック氏)
技術力と豊富な人材を武器に急成長するFPT。IT人材不足に悩む日本企業にとって、日本市場に深くコミットする同社は、DX推進の強力なパートナーとなりうるだろう。