思い込みは敵か味方か?“認知バイアス”が私たちを守る理由とは?「バイアスを持たないようにしよう」という努力は無駄である

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「そうじゃないんだけどな……」と思っても、部長が得意げに披露する「イマドキの女子高生論」を否定するわけにはいきません。結果として、その会議では何も決まらず、次回に持ち越しになったと言っていました。

この部長が勉強熱心なのはわかります。しかし、この前まで女子高生だった人や、女子高生と日々接している人から見れば、部長の女子高生についての知識は、世間一般で言われている借り物でしかありません。とくに、つい最近まで女子高生だった若手社員が持っている「本物の女子高生の知識」とはまったく別物です。

このエピソードならば、多くの人が部長の発言は何かおかしいと思うでしょう。しかし現実社会では、こうしたことが日々起こっています。世界の知識と自分の知識の区別がついていない人が、非常に多いと感じます。

「誰かの知識」と「私の知識」が混同してしまう

この話でお伝えしたいのは、「全部の知識を持て」ということでも「知らない部長はレベルが低い」ということでもありません。

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言うまでもなく、自分1人ですべての知識を持つわけにはいきません。社会の中では、専門家や当事者が知識を持ち寄り「知識のコミュニティ」を創ることで、多くの人がその集合知の恩恵を受けられます。ですから、世間一般の知識を活用することは、決して悪いことではありませんし、むしろ効率的であるといえます。さまざまな知識が求められるこの社会で生きていくためには必要なことでもあるでしょう。

しかし最低限、その「知識のコミュニティ」と、自分自身が持っている知識を同一視することは避けねばなりません。どんなに「知識のコミュニティ」に触れても、その知識があなたのものになるわけではないのです。

「何でも評論家」が、みなさんの周りにもいるかもしれませんが、それはインターネットやテレビで得た専門家の意見と自分の意見を無意識のうちに混同してしまっている人かもしれません。

大切なのは、人は「世界の誰かが持っている知識=私の知識」という認知バイアスを持つ傾向があることに、まずは気づくこと。その上で、自分が「もちろん知っている」と思っていたことに対して、「これはほんとうに自分の知識なのか」と振り返る習慣を持つことです。

部長が、「自分はほんとうに女子高生の気持ちがわかるのか?」と振り返ることができたら、企画会議ももっと建設的なものになったはずです。

今井 むつみ 慶應義塾大学名誉教授、今井むつみ教育研究所代表

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いまい むつみ / Mutsumi Imai

1989年慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。94年ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得。慶應義塾大学環境情報学部教授を経て現職。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。主な著書に『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)、『学力喪失』『ことばと思考』『学びとは何か』『英語独習法』(すべて岩波新書)、『ことばの発達の謎を解く』(ちくまプリマー新書)など。共著に『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書、「新書大賞2024」大賞受賞)、『言葉をおぼえるしくみ』(ちくま学芸文庫)、『算数文章題が解けない子どもたち』(岩波書店)などがある。国際認知科学会(Cognitive Science Society)、日本認知科学会フェロー。

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