議決権電子行使プラットフォームがもたらす変革 ICJ設立20周年~日本の資本市場のインフラへ

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(写真左から)JPX総研 取締役 常務執行役員 平野 剛 氏、ICJ 代表取締役社長 今給黎(いまきいれ)成夫 氏、ブロードリッジ・ファイナンシャル・ソリューションズ プレジデント クリストファー・J・ペリー 氏
(写真左から)JPX総研 取締役 常務執行役員 平野 剛 氏、ICJ 代表取締役社長 今給黎 成夫 氏、ブロードリッジ・フィナンシャル・ソリューションズ プレジデント クリストファー・J・ペリー 氏
「議決権電子行使プラットフォーム」は、機関投資家が株主総会で議決権を電子行使できる仕組みだ。運営を行うICJは東京証券取引所の関係会社で、2004年7月に設立された。以来、20年余り、議決権電子行使プラットフォームを利用する上場会社・機関投資家は年々増加し、同プラットフォームは今や、日本の資本市場の重要なインフラの1つになっている。議決権電子行使プラットフォームのこれまでの実績や将来像について、関係者が意見を交換した。

20年を経て、上場会社、機関投資家に広く利用されるインフラへ

――ICJは2004年7月に設立され、20周年を迎えました。設立に当たってはどのような狙いがあったのでしょうか。

今給黎 株主による議決権の電子行使は2002年の法律改正によってスタートしました。ICJは議決権電子行使プラットフォームの運営を目的に、東京証券取引所(以下、東証)、日本証券業協会、およびブロードリッジ・フィナンシャル・ソリューションズ(以下、ブロードリッジ)による3社の合弁会社として2004年に設立されました。13年より東証50%、ブロードリッジ50%の出資比率となっています。

ICJ 代表取締役社長 今給黎(いまきいれ)成夫
ICJ
代表取締役社長
今給黎(いまきいれ)成夫

サービス開始は05年12月でしたが、翌年の06年にプラットフォームに参加した上場会社は109社でした。その後は年々増加し、現在は1839社が参加しています。内訳は、東証プライム市場の上場会社が1566社、スタンダード市場が241社、グロース市場が32社です。また、機関投資家は国内68社・海外約7000社、その他多くの管理信託銀行やカストディ銀行等も参加しています(いずれも25年3月31日現在)。

24年6月のプラットフォーム参加上場会社の株主総会においては、プラットフォーム経由で議決権行使が可能な国内外機関投資家の議決権個数は総議決権個数の約36%を占めました。20年を経て、資本市場にとって不可欠なインフラになったと自負しています。

平野 議決権電子行使プラットフォームが導入された背景には、機関投資家の間に議決権行使の姿勢が高まってきたことが挙げられます。

米国では1990年代、「従業員退職所得保障法(エリサ法)」で議決権行使が受託者責任の一環であると位置づけられました。国内ではバブル崩壊の過程で、株式の相互持ち合いの解消が進み、放出された株式が国内の機関投資家や海外の投資家の投資対象になりました。

上場会社と機関投資家の対話の重要性が増し、議決権行使のあり方が見直されるようになった一方で、国内では招集通知などの議案情報を郵送でやり取りしており、機関投資家が議案を検討するための十分な期間を確保できないといった課題も生まれていました。議決権電子行使プラットフォームの構築が急務であり、東証は、この分野で世界トップクラスの実績のあるブロードリッジと共に、合弁会社のICJを設立しました。

ペリー ブロードリッジは世界有数のフィンテック企業で、テクノロジーやオペレーションプラットフォームを通じて全世界で1日10兆ドル超の証券取引の処理を支えています。ニューヨーク証券取引所に上場し、S&P500の構成銘柄にも選ばれています。議決権行使ソリューションの提供についても50年以上の実績があり、15万以上の機関投資家、2億以上の個人投資家口座に対して議決権行使ができるサービスとグローバルなオペレーションを行っています。

ブロードリッジでは、当社の技術ソリューションを通じて、世界中で強固なコーポレートガバナンスと投資家の民主化を支援しています。日本市場は、堅実なコーポレートガバナンスと株主の参加によって成長できる、世界の重要な金融市場の一つであり、ブロードリッジの議決権行使技術と東証の日本市場に関する専門知識を組み合わせることで、コーポレートガバナンスの強化と株主民主主義の推進に貢献できることを誇りに思います。

当社が日本に進出して25年以上になります。以来、日本の金融機関がグローバル市場に、また世界の金融機関が日本に参入するサポートを行っています。

上場会社、機関投資家、双方にメリットのあるプラットフォーム

――議決権電子行使プラットフォームに参加することで、上場会社や機関投資家にはどのようなメリットがありますか。

今給黎 当社の議決権電子行使プラットフォームは、プラットフォームに参加する上場会社と機関投資家をエンド・トゥ・エンド、かつSTP(ストレート・スルー・プロセッシング:人手を介さず電子的に行うこと)でつなぐという非常にユニークなサービスです。

株主総会の招集通知から株主総会の議案をデータ化し、招集通知とともに機関投資家に電子的に届けます。機関投資家はそれを見て議決権の行使を電子的に行い、その行使結果が上場会社に届くという仕組みです。

機関投資家の議案検討期間は以前よりも大幅に拡大します。上場会社は機関投資家の議決権行使結果を株主総会直前まで毎日確認できるので、議案賛否の動向に応じて補足情報を追加で発信するなど、機関投資家に対してタイムリーな働きかけを行うことができます。

平野 議決権電子行使プラットフォームの利用により、機関投資家、上場会社ともに、ルーチン業務を軽減し、コア業務に特化できるようになります。

JPX総研 取締役 常務執行役員 平野 剛
JPX総研
取締役 常務執行役員
平野 剛

株主総会の時期、機関投資家は郵送で多いところでは数百以上もの招集通知を受け取ることになります。限られた期間でこれを評価することは容易ではありませんが、議決権電子行使プラットフォームなら、招集通知発送日の当日から指図を開始することができます。また、行使状況はサイト上でいつでも確認できます。このほか、ポートフォリオの管理、集計・レポート作成も容易です。

上場会社側も、招集通知などの発送業務の労力が軽減するだけでなく、行使結果の早期把握により情報発信など株主とのコミュニケーションに注力することができるようになります。

ペリー 議決権電子行使プラットフォームのカギになるのはデジタルテクノロジー、そして信頼性です。ブロードリッジは議決権行使におけるグローバルリーダーであり、世界のすべての市場を100%カバーし、サービスを提供しています。4000人以上の議決権行使の専門スタッフが世界中に配置され、5カ国に大規模なグローバル・オペレーション・ハブを有して、24時間365日絶え間なくオペレーションを運用しています。

当社は20年以降、グローバルで総額10億ドルを各国のコーポレートガバナンスの向上に投資し、今後5年間でさらに2億ドルを追加投資予定です。DORA(デジタルオペレーショナルレジリエンス法)などの厳しいオペレーショナルレジリエンスに関する規制を順守しており、ISO27001、SOC1、SOC2(クラウドサービスの国際セキュリティー認証)などの認証も受けています。当社は安定性や正確性を損なうことなく、革新を続けています。

日本の株主総会プロセスを進化させるために

――議決権電子行使プラットフォームをはじめ、上場会社や投資家向けのサービスをどのように進化させていく考えですか。

今給黎 議決権電子行使プラットフォーム以外の周辺ビジネスについても拡充していきます。

例えば、機関投資家向けの「SSPS(スチュワードシップ・ソリューション・プラットフォーム・サービス、株主総会議案一次賛否データ提供サービス)」は、各社の議決権行使基準(議決権行使ガイドライン)に基づいて、各議案を精査し、一次賛否結果をデータで提供するサービスです。最終的な判断は機関投資家が行いますが、保有全銘柄に対して一律の行使基準で賛否の一次チェックができるうえ、各種データが保存できるため議決権行使基準の見直しがスムーズになり、議決権行使作業全体の効率性もアップします。

上場会社向けの「Proxy Solution」は、過去20年の当社保有の議案データや議決権行使データ等を組み合わせて、議決権行使のシミュレーションや反対要因分析等を提供するものです。上場会社のIR、SR活動にご活用いただけます。

このほか、バーチャル株主総会サービスの「VSMプラットフォーム」も提供し、バーチャル株主総会のシームレスな運営を支援しています。

平野 JPX総研は2022年、日本取引所グループ(以下、JPX)の子会社として設立されました。JPXのデータ・指数およびシステム関連サービスを統合的に提供するのが大きな役割です。加えて、デジタル技術を活用した市場の効率性向上を担うことも期待されています。

ICJとはこうした分野で連携していますが、JPX総研自身でも、投資家や株主との対話における業務効率化・情報量の拡充を進めることにより上場会社と投資家の建設的な対話を促進する観点から、子会社であるSCRIPTS Asiaを通じ決算説明会等の議事録の作成と英訳、国内外の投資家への配信サービスを行っています。また、投資家、証券会社と上場会社間のIR面談サポートサービスを展開する株式会社みんせつとの資本・業務提携を行っています。

ブロードリッジ・ファイナンシャル・ソリューションズ プレジデント クリストファー・J・ペリー
ブロードリッジ・フィナンシャル・ソリューションズ
プレジデント
クリストファー・J・ペリー

ペリー 日本における上場会社と投資家の関係が変化しつつあることを実感しています。上場会社の取締役会は、投資家への対処方法を見直し、より多くの価値を提供しようとしています。ICJは、こうした変化の中心に位置しています。

24年8月にはブロードリッジとICJで、日本の上場会社向けにESG評価分析ツール「ESG Access」の提供を開始しました。「ESG Access」は、当社が提供する上場会社向けのESG評価分析ツールで、800以上のさまざまな情報源から3億件以上のデータを抽出し、独自のアルゴリズムを用いて統合的な一つのレーティングスコアを算出します。上場会社は効率的かつ戦略的に自社の格付けや市場における地位の向上に注力することが可能になります。

またブロードリッジは、世界中の上場会社に対して、「Broadridge Investor Insights」のような、投資家と議決権行使の動向を包括的に把握できる分析プラットフォームなど、他のソリューションも提供しています。日本では、個人投資家による米国株の議決権行使への参加を求める動きの高まりが確認されています。当社の「US Proxy Solution」は証券会社の顧客ページに簡単に組み込むことが可能で、個人投資家の方々による世界最大の株式市場への参加を支援します。

日本の市場発展につながる利便性の高いサービスを創出

――今後、ICJをはじめ、3社ではどのような取組みを進めていくお考えでしょうか。

(写真左から)JPX総研 取締役 常務執行役員 平野 剛 氏、ICJ 代表取締役社長 今給黎(いまきいれ)成夫 氏、ブロードリッジ・ファイナンシャル・ソリューションズ プレジデント クリストファー・J・ペリー 氏

平野 JPXの企業理念は「公共性および信頼性を確保し、効率性、透明性の高い魅力的な市場をつくっていく」ことです。JPX総研はデータやテクノロジーの領域から、上場会社の価値向上の支援など、市場全体の機能強化・効率化につながるサービスの創造に取り組んでいきたいと考えています。そのためにもICJ、ブロードリッジ両社との連携をさらに強化していきます。

議決権電子行使プラットフォームについては、プライム市場上場会社ではかなり利用が広がっているものの、スタンダード市場、グロース市場の上場会社の利用は依然大幅な成長余地があります。ぜひ広く利用していただきたいですね。

ペリー 世界のイノベーションを日本の上場会社、機関投資家に提供するのが私たちのミッションだと感じています。日本の市場を知り尽くしたJPXおよびICJと提携し、当社の最先端の議決権行使のテクノロジーを組み合わせることで、日本の企業統治の強化、株主民主化の実現に貢献したいと考えています。また海外の機関投資家と日本の市場をつなぐお手伝いもしていきます。

今給黎 私が東証に入社した38年前、日本の証券市場は国際化の時代だと言われていました。以来、国際的な競争力をいかに高められるかを常に意識していたので、20年前にICJが設立されたときにも、ぜひ挑戦してみたい事業だと感じました。

社名の「ICJ」は「インベスター・コミュニケーションズ・ジャパン」の頭文字を取っています。単に議決権の行使結果をデジタルでデリバリーするだけではなく、法改正等にも迅速に対応しながら株主総会プロセス全体のDXを推進することで、上場会社と株主との対話、コミュニケーションをさらに促し、日本の会社の企業価値、ひいては資本市場の国際的な競争力を高める支援ができるよう、日々Innovative、Creative、Joyfulに取り組んでまいります。
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