Web3がつくる「生産者と消費者の新しい関係」 目に見えない価値を表現、保存できる世界観

データを持つ大企業に比べ、個人は弱い立場に置かれている
――Web3とはどのようなもので、具体的に何ができるのでしょうか。
渡辺 ブロックチェーン技術を活用することで、特定の個人や組織に依存せず、今まで可視化できなかったデータや価値がなかったデータを価値として保存したり、いつでもどこでも交換したりできるようになる。これがWeb3の特徴の1つです。
今までは世界を代表するような超巨大企業が、莫大な金額を用いてデータセンターを管理してきました。そのため、サービスの提供者である企業と消費者は分かれているのが一般的でした。
Web3は「誰でも参加できること」「データの検証が可能であること」「1つの個人や組織が管理していないこと」で、より相互的でオープンな人間のためのデジタル空間を作る役割を果たすことができると思います。
赤星 もちろん、企業に自分のデータを預け、好みや興味・関心に応じたサービスを提供してもらうメリットもありますよね。ただ、自分のデータを第三者に提供したくないと考える人も多くいます。複数の選択肢をつくれるのが、Web3の世界だと理解しています。

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員
渡辺 おっしゃるとおりです。金融の領域でいえば、昔は現金で支払うしかありませんでしたが、今はキャッシュレス決済が全国的に浸透しています。選択肢が生まれたという点で、生活者にとって非常にポジティブな変化だったといえます。
赤星 Web3の高まりを測る指標となるのが、暗号資産(仮想通貨)です。今後、仮想通貨の普及が進むと、現実世界とWeb3の世界をよりシームレスに行き来できるようになります。
具体的に、大きく変化する領域は3つあると考えています。1つ目は国際送金や企業間取引などの決済。2つ目は資産取引。ここでいう資産とは金融商品や不動産だけでなく、例えば好きなアーティストを応援した履歴や、アイドルと会える権利なども含まれます。
そうした目に見えない価値を、トークンとして保有できるようになるんです。すでにNFT(非代替性トークン:ブロックチェーン技術を使ってつくられたデータ)として取引されています。
そして3つ目が、DAO(分散型自律組織)的な働き方です。ビジネスパーソンが1つの企業に属するのではなく、自分のスキルやノウハウを生かして複数の組織で働き、報酬はブロックチェーン上で受け取るイメージです。
渡辺 エンターテインメントの領域でのブロックチェーン活用は特徴的ですね。例えば、アーティストが活動を開始した初期から応援し続けるファンとその活動は価値があると思います。しかし、そういった目に見えない価値を形にすることはできていませんでした。Web3によって、こうしたものをデジタル上で表現できるようになります。
消費者と生産者のあり方が大きく変わりつつある

スターテイル CEO
日本発のパブリックブロックチェーンAstar Networkや、ブロックチェーン「Soneium」の開発(ソニーグループと合同)を手がける
渡辺 Web3といえばファイナンスのイメージが強く、実際にさまざまなイノベーションが起きています。しかし、日常生活でブロックチェーンを使っている人たちはごく一部。ここにエンターテインメントの分野が交われば、爆発的にユーザー人口が増えると思います。
Web2.0が爆発的に成長した時は、SNSが果たした役割が大きかったですよね。それは「誰かとつながりたい」というエモーショナルな人間の欲求があるからで、Web3でその役割を果たすのはエンターテインメントだと考えています。
赤星 具体的に、どんな取り組みが行われているのでしょうか。
渡辺 知的財産(IP)の一部をNFT化して、複数の人が保有できるようにする取り組みはすでに始まっています。例えば、個人的にも応援している「Neo Tokyo Punks」というプロジェクトがあります。ショートムービーの作品に興行収入が生まれれば、その一部を貢献度に応じてNFTのホルダーに自動的に還元できます。
これにより、クリエーターと企業、消費者という3者で成り立っていたエンターテインメントの世界がミックスされ、消費者が生産者的な役割を担っていくこともあるでしょう。この仕組みはとてもフェアだと思いますし、消費者と生産者のあり方が大きく変わりつつあると感じます。
また、アイドル産業でも取り組みを進めています。これまでのアイドル産業は、多くのファンが熱狂しているものの、イベントが単発で開催され、イベントとイベントの間はファンとの接点が少なく熱狂の可視化と価値化ができていませんでした。
そこで、ファンの行動を継続的にブロックチェーンに記録し、曲を聴いたりキャンペーンに参加したりといった行動が多い、つまりエンゲージメントの高いファンにはトークンなど経済的なインセンティブを提供する取り組みを行おうとしています。
秋元康さんが総合プロデューサーを、僕が取締役の一人を務めるYOAKE entertainmentでは、2025年3月に総勢107人のアイドルが参加するイベントを開催し、延べ約1万1800人の来場者を集めました。

このイベントでは、アイドルがパフォーマンスを披露する楽曲や、今年を代表するファッショナブルなアイドルなどをファンの投票で決める仕組みがありました。
その裏側で使われているのが、われわれのブロックチェーン技術です。運営側でも、投票結果を改ざんすることはできません。Web3の技術を通して、世界中のファンが、国や言語の壁を超えてより直接的にアイドルを応援できるようになる。そんな世界を目指しています。
赤星 ファンとアイドルの関係が根本的に変わる、新しい可能性を秘めていますね。
急がれる、サステイナブルなビジネスモデル構築

赤星 当社がシステム構築を支援した事例として、クリエーター支援プラットフォーム「LIFE LOG BOX」があります。データを永続的に保管できるクラウドにクリエーターのコンテンツを保存して、ビジネスマッチングや、NFTを通した収益化を進めるものです。
その裏では、国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」を通じたクリエーターネットワークと、Web3の技術が組み合わされています。クリエーターはコンテンツを預けて簡単にポートフォリオ(作品集)を作成できるほか、IPを保護しながら映画祭への出品やマーケットプレースでの販売を行い、それを通じて収益を得られます。
例えば作品やアーティストのファンがコミュニティーをつくり、応援したり資金を集めたりできるようになれば、クリエーターのさらなる支援につながります。
渡辺 日本企業は、Web3をうまく活用しビジネスに還元する力を持っているはずです。ただし、Web3の世界は進化が非常に速く、他社の後追いで取り組んでも周回遅れになります。
また、せっかく施策を始めてもPoC(概念実証)だけで終わってしまうケースがよくあります。技術を深く理解しているプロフェッショナルを交え、収益を上げられるビジネスモデルをつくることが重要だと思います。
赤星 20世紀末ごろから、インターネットが爆発的に普及していったように、Web3も今後私たちの日常生活で当たり前に使われるようになるでしょう。Web3のインフラも、数段階パワーアップしていくはず。経営者はそこに向けて準備を始めなければいけません。そこに、われわれが伴走者として支援していきたいと考えています。
テクノロジーはもちろんのこと、ビジネスまでトータルでサポートできるのがデロイト トーマツの強み。日本企業に対して果たせる役割は大きいと自負しています。
ブロックチェーンやトークンは汎用的な技術で、いろんな業種、業界に活用できます。自分たちのビジネスにどう生かせるか、ぜひ検討していただきたいと思います。
NFTやデジタル通貨、DAOがカギとなるエコシステムでデジタルアセットが世の中に大きな価値をもたらす