受験生だった人に伝えたい、合格・不合格という結果との向き合い方。塾講師歴23年の著者が考える、合否に”強く固執する”と嵌ってしまう罠の存在
次に、「フォークロージャー(早期完了)型」の生徒がいます。一見すると、受験に対して最も適性が高いように映るのはこのタイプです。彼らは明確な目標を持ち、勤勉でまじめに課題に取り組みます。しかし、実は自分の価値観や目標を自発的に探求するという過程を経ておらず、親や教師、社会が与える規範や期待をそのまま取り入れている場合が多いのです。こうした受験生は、合格して「自分の道」を歩み始めた矢先に「本当の自分の願望は何だったのか?」という問いに直面することになります。つまり、受験という「目標」を達成した後に、皮肉にも自分を見失い、人生の途中で再び迷い始めることもあるのです。
人は複数の型の間を“行ったり来たり”する
実際のところ、これらの「アイデンティティ・バランス型」(※マーシャの言葉では「アイデンティティ達成型:Identity Achievement」ですが、敢えて言い換えています)と「フォークロージャー型」の区別はそれほど明確ではありません。両者は常に入り混じりながら存在していますし、人間というのはそもそも絶えず変態を繰り返す存在ですから、その間を行き来もするわけです。
僕自身は発達心理学者たちがたびたび言及する、アイデンティティが「確立した」とか、発達が「達成された」という、人間として「できあがった」状態は、むしろ「死」を意味するのではないかと思っています。
人間が生きている限り、内面の葛藤や問い直しは常に続くものであり、「これで完成」と言えるような状態に達することはありません。誰もが一時的にはフォークロージャー的な自己像に安住したり、それを破壊したりしながら、自分なりのバランスを探し求めるというのが現実ではないでしょうか。
この春を迎えた皆さんには、自分自身の欲望とこれまで続けてきた勉強の動機がどのように絡み合っていたのかを、いま一度、冷静に見つめ直す時間を持ってほしいと思います。
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