“70周年”を迎えた大和ハウス工業が描く未来 創業100周年に売上高10兆円を目指す

創業者 故・石橋信夫氏の「想い」をつなぐ
大和ハウス工業(以下、大和ハウス)の業績が好調だ。2024年5月に発表した同年3月期の連結売上高は5兆2029億円と5兆円を超えた。
中期経営計画(22〜26年度)では26年度に売上高5兆5000億円、営業利益5000億円という目標を掲げているが、24年度の業績見通しは売上高5兆3700億円、営業利益4400億円のペースで推移している。
大和ハウスは、故・石橋信夫氏が1955年に創業。同年に発売した、鋼管(パイプ)構造の規格型仮設建物である「パイプハウス」は、「建築の工業化」を実現し、戦後復興から高度経済成長期へと発展する日本を支えた。以来、「世の中の役に立つ商品やサービスの提供」を原点に、時代に合わせて事業を拡大してきた。
プレハブ住宅の原点ともいえる「ミゼットハウス」もその1つ。「3時間で建てられる」をキャッチフレーズに、戦後のベビーブームの需要に応える離れの勉強部屋として大ヒットした。このほか、同社の主導で本格的民間デベロッパー・大和団地を設立し、郊外における大規模団地(ネオポリス)の開発も行った。過去に開発した団地を再耕(再生)する「リブネスタウンプロジェクト」などの取り組みを通じて、“世の中の役に立つ” という視点は現在にも継承されている。
住宅から非住宅、さらに海外へも事業を多角化
創業者の石橋氏は創業100周年となる2055年に売上高を10兆円へ引き上げる「夢」を語ったとされる。5兆円はまさに折り返し地点だが、その勢いは加速している。売上高1兆円を達成したのは、創業から40年が経った95年度、その後は、12年度に2兆円、15年度に3兆円、18年度に4兆円を達成し、創業70年目前の23年度に売上高5兆円を達成した。直近の約10年間で3兆円近く増加しているのである。
その原動力となったのが、事業の多角化だ。戸建住宅・賃貸住宅・分譲マンションなどの住宅系事業にとどまらず、商業施設、事務所、工場、物流施設、医療・介護施設、環境エネルギーなど、幅広い事業を展開している。物流施設など、自ら物件を開発してテナントが入居した後に投資家などに売却する不動産事業や、データセンターの開発も手がける。
13年にはゼネコンのフジタがグループに参画した。デベロッパーとゼネコンの機能を掛け合わせ、物件の企画から設計・施工、運営・管理まで一貫して手がけられる点で、優位性が発揮されているという。
新規事業の種をまき、将来の柱となる事業群を創出
「創業100周年となる2055年に売上高10兆円」の達成に向けて、どのような布石を打っているのか。その成否を握るのが、将来の柱となる事業の創出であろう。海外事業による成長もカギになる。
大和ハウスグループはすでに25の国・地域(24年3月31日現在)に展開しているが、中でも米国の戸建住宅事業が好調だ。17年にスタンレー・マーチン社、20年にトゥルーマーク社、21年にはキャッスルロック社の3社を買収した。これらを軸に、地域に根差した事業拡大を進めている。
新しい事業を創出するための投資も積極的に行う考えだ。24年3月には、同社で初となるコーポレートベンチャーキャピタルファンド(CVC)の運用も開始した。大和ハウスグループの展開する事業領域や、関連する新技術など幅広い分野に投資するため、最大300億円の運用額を確保している。
社内起業制度「Daiwa Future100(ダイワフューチャーワンハンドレッド)」にも注目したい。将来の大和ハウスグループを担う人財の育成や、挑戦する組織風土の醸成を目的とするもので、こちらも、最大300億円を投じる。新会社の設立に当たっては、起案者自らが社長となり、事業化および事業成長を進める方針だ。

グループの総合力を結集して臨む「大阪マルビル」プロジェクト

大和ハウスグループの総合力を結集し、企業価値向上を目指す
大阪駅前にある「大阪マルビル」の建て替えプロジェクトが本格始動している。大阪市中心部のランドマーク的な超高層ビルとして76年に竣工し、その円筒形のユニークな形状や「回る電光掲示板」は多くの市民に長らく親しまれてきた。しかし、築後50年近くが経過し、建物・設備の老朽化などが課題になっていた。
4月13日から開催される2025年大阪・関西万博の期間中は、会場(夢洲)に直行するシャトルバスの発着場として大和ハウスグループが施設・土地を無償で貸与するという。
建て替えられる「大阪マルビル」はトレードマークの丸いデザインを継承する。展望スペースやミュージアム、ホテル、イノベーションオフィス、コンサートホール・舞台、商業施設など多種多様な施設が整備される計画だ。周辺の緑化推進や省エネ技術の活用によるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)、木材利用なども推進する。完成は30年を予定している。
「創業100周年に売上高10兆円」に向けてシナリオを描き、実現に向けて走り続ける大和ハウス。100周年を迎える30年後が大いに楽しみだ。
INTERVIEW

芳井 敬一氏
大和ハウス工業 代表取締役会長
(2025年3月31日まで代表取締役社長)
——創業70周年を前に、5兆円企業となりました。この数字をどう見ていますか。
売上高5兆5000億円、営業利益5000億円を目指すという「第7次中期経営計画(2022〜26年度)」を策定したのは新型コロナウイルスの感染拡大前でした。未曾有の課題に直面したにもかかわらず計画どおりに進んでいるのは、社員が頑張ってくれたからであり、お客様にご支持いただいているから。感謝の気持ちを忘れず、引き続きやるべきことをしっかりとやっていきます。
——「創業100周年に売上高10兆円」という、創業者の故・石橋信夫氏の「夢」を実現するためには、既存事業だけでなく、新たな事業の柱が必要だと思われます。海外事業の拡大もカギになりそうです。
現在は、戸建住宅、賃貸住宅、分譲マンション、商業施設、事業施設、環境エネルギーの事業を展開しています。国内では物流施設、データセンターの引き合いが強く、仕入れから開発、施工、管理までワンストップでできる強みを生かしてさらに成長したいと考えています。
海外では、米国のグループ3社(スタンレー・マーチン社、キャッスルロック社、トゥルーマーク社)が業績好調で、これらの企業がさらに現地企業をM&Aするなど、展開エリアが広がっています。欧州でも実績を上げ、2026年度には海外事業を売上高1兆円に拡大したいです。
——持続的な成長のためには人的資本経営が重要だと思われます。貴社における人財育成の取り組みについてお聞かせください。
失敗を恐れず、お客様のためになること、社会のためになることに積極的に挑戦してほしいと思っています。社内起業制度を開始しましたが、それが失敗の場になってもいい。そこから学ぶ経験を通じて、成長の機会にしてほしいです。
——2030年に完成予定の「大阪マルビル」の建て替えプロジェクトも進んでいます。
建て替えプロジェクトの概要を発表したところ、たいへん多くの反響があり、改めて「大阪マルビル」が多くのお客様に愛されていることを実感しました。「大阪の企業」としてその期待にお応えし、大阪のシンボルツリーにしたいですね。
——創業100周年まであと30年です。「夢」の実現に向けた手応えは。
数字の達成については手応えを感じています。それだけでなく、100年経って、社員やお客様、さまざまなステークホルダーの方から「大和ハウスはいい会社だね」と言われるようになりたい。ぜひ、私たちが描く未来、歩む未来に期待していただきたいし、その期待に応える発信をしていきます。