
金融緩和からの出口戦略や財政の超過債務を理論的に研究してきた小枝淳子早稲田大学教授が、日本銀行政策委員会審議委員に就任する。任期満了を迎える安達誠司審議委員の後任として起用され、3月26日から5年間の任期を務める。

就任前に一般向けの著作が単著だけで10冊あり、新聞やテレビなどのメディアに頻繁に露出していた安達審議委員とは対照的に、小枝教授は一般向けの著作がなく、メディアにほとんどまったく露出してこなかった。そのため小枝教授の審議委員就任は、市場関係者の間でも、ほとんど話題となっていない。
事実、経済誌は小枝教授による寄稿も小枝教授に言及する記事もほとんど掲載してこなかった。『日経ビジネス』が小枝教授執筆の論文を2014年に一度掲載しただけである 。
しかし、小枝教授が審議委員に就任し、日銀の金融政策決定の9分の1を担うことは、いま日銀そして日本経済が直面している深刻なリスクを暗示している。そのことを小枝教授の経済学者としての経歴を辿って確かめてみよう。
経済学への入り口はイギリスの不況
小枝教授の人となりを知るのに格好の資料がある。30年前の1995年1月10日に、朝日新聞朝刊の「声」欄へ寄稿した文章である。
当時、小枝教授は18歳。父親の小枝至氏が英国日産自動車製造の副社長として赴任するのとともに移り住んでいたイギリスから帰国し、横浜市戸塚区の自宅で東京大学を目指し勉強する受験生であった。
「モノを大切に、英国人に学ぶ」と題した寄稿では、英国人の親友の家に招かれ、寝かせてくれたベッドが親友の祖母から母へ、そして親友のものヘと大事にされてきたものであり、「温かみ」が伝わってのに対し、日本では新品や「最新式」のものに価値を見いだしすぎていることを指摘し、モノを大事にする精神を育てることは、現代社会における大量消費・廃棄問題を解決するカギにもなるかもしれないーーと結んでいる。
18歳にして経済に深い関心を持っていたことを窺わせるエッセイである。
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