未来を創るマーケティング戦略とデジタル変革 変革を導くトップランナーから実践事例を学ぶ

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インターネット広告は、広告市場で最大の3.3兆円(2023年)の規模に拡大した。だが、クライアント企業はその広告費に見合う効果を得られているのだろうか。デジタルをうまく活用することで広告・マーケティングは、より大きな成果を効果的に引き出せるのではないか――。東洋経済シンポジウム「未来を創るマーケティング戦略とデジタル変革の力」では、インターネット広告の費用対効果を可視化、向上させる成果報酬化や、長期視点でユーザー(消費者)からもたらされる収益LTV(ライフタイムバリュー)の最大化を追求するマーケティングのあり方を探った。
主 催 東洋経済新報社
企画協力 マクビープラネット

基調講演
成果報酬マーケティングが未来を創る 広告業界の大変革

Macbee Planet 代表取締役社長 千葉知裕氏
マクビープラネット
代表取締役社長
千葉 知裕

「インターネット広告はマスメディア広告を上回る最大の広告媒体に成長し、さらに拡大を続けています。しかし、いくつかの課題も顕在化してきていて、無駄な広告費の原因になっています」。マーケティング支援を手がけるマクビープラネットの千葉知裕氏は、インターネット広告市場の現状をこう説明する。

課題の1つは、ボットやAIを使ってクリック数を水増しして過大な広告費を詐取するアドフラウド(広告詐欺)の巧妙化だ。さらに、個人情報保護の規制強化に伴ってCookie(クッキー)の使用許諾が義務化され、オンライン上のユーザーの行動を追跡して興味関心などの情報を収集することも難しくなったことで、広告のターゲティング精度は低下している。「顧客になりそうにないターゲットへの広告配信が増えるので、リード顧客などの獲得単価(CPA)が高騰し、広告の費用対効果が悪化するリスクの原因になる」と同氏。

こうした状況にマクビープラネットでは、Cookieに依存せずにユーザー(消費者)情報を収集する独自技術を開発。コンバージョンの数や質などの課題を解決する自社開発のデータマーケティングツールを幅広く取りそろえている。さらに、同社が蓄積しているデータや、コンサルティングを組み合わせ、ソリューションとして提供。広告の費用対効果低下のリスクを抑えた成果報酬マーケティングサービスを推進している。

成果報酬マーケティングは、消費者との契約成立など収益に密接した段階の指標改善を目指す。来店型ビジネスの広告運用で、ROAS(広告費に対する売り上げの比率)改善を目標にして、広告の費用対効果向上と事業成長を実現した事例を紹介。「来店率や来店獲得率にはこだわらずにROASの改善を第一に考えて、契約件数を増やすために来店の獲得件数・単価の引き上げを許容するという判断をすることで、費用対効果を向上させた。メディア側も広告売り上げが増えて、集客の取り組みを充実させられるので、ウィンウィンで最適化が期待できる」と説明する。

マクビープラネットは2015年設立。20年に東証マザーズ、24年には東証プライム市場への上場を果たし、成果報酬マーケティング市場のシェア4割を持つリーダー企業。しかし、当初は成果報酬型広告の重要性が、クライアント企業側になかなか伝わらなかった。そこで得意とするマーケティングの獲得領域に注力し、トップシェアを獲得した実績を背景に、再び『すべてのマーケティングを成果報酬に』というスローガンで訴求することにし、「成果報酬型の市場はまだ大きくはないが、マーケティングの費用対効果を追求するうえで今後は不可欠な手法になると考えている。広告の無駄・浪費をなくすことを通じて社会の最適化に貢献したい」と語った。

※同社調べ

パネルディスカッション
未来を創るマーケティング戦略とデジタル変革

パネルディスカッションでは、東洋経済新報社山川清弘氏の司会で、三井住友フィナンシャルグループの磯和啓雄氏、アクセンチュアの木原久明氏、マクビープラネットの千葉氏がビジネスのデジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)に伴って変化するマーケティング戦略のカギを握る「LTVマーケティング」を中心に議論した。LTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)は、取引開始から終了までの長期で企業が顧客から得られる価値のこと。デジタル化とLTVの追求はマーケティングをどう変え、次世代のLTVマーケティングに向けてどう取り組むのか、を聞いた。

三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO(チーフデジタルイノベーションオフィサー) 三井住友銀行専務執行役員 磯和啓雄氏
三井住友フィナンシャルグループ
執行役専務 グループCDIO(チーフデジタルイノベーションオフィサー)
三井住友銀行 専務執行役員
磯和 啓雄

三井住友銀行(SMBC)のOlive(オリーブ)は、スマホアプリを軸に金融にとどまらない多様なサービスを展開している。Oliveは、SMBCグループに同業企業があるにもかかわらず、あえてオンラインに特化した証券会社や生命保険会社と提携するなど、ユーザー体験にこだわったデジタルサービスを提供。同行の新規口座開設は以前の2倍超のペースに増した。磯和氏は「デジタルで人間の『認知の限界』を突破できる。マーケティング分野では、行員らが管理できる範囲を超えて、一人ひとりの顧客を把握できたことで、支店をどこに、どんな形態で出すのか、といった店舗展開戦略も変えている」と語る。

アクセンチュア マネージングディレクター アクセンチュアソング執行責任者 兼コンサルティンググループ日本統括 木原久明氏
アクセンチュア
マネジング・ディレクター
アクセンチュアソング
執行責任者 兼
コンサルティンググループ日本統括
木原 久明

ビジネス×データ・AI×クリエイティブで企業の売り上げ増に貢献するアクセンチュアの木原氏は「今や、顧客は十人十色ではなく一人十色の時代。企業は多様かつ多面的な顧客(生活者)に個別化された価値を提供していく必要がある」と語る。従来は、ライフタイムバリュー(LTV:企業から見た顧客生涯価値)にばかり注目をしていたが、これからは、顧客側が企業に感じる共感価値、いわば「カスタマーLTV(cLTV)」にも同様に注目をしていくことが重要だと強調。アクセンチュアではcLTVを推計する手法の開発にも取り組んでいる。「定量化したカスタマーLTVと企業収益のLTVとの間にある関係性を解析すれば、新製品に対する顧客の反応をAIで予測していくことも可能になる」とした。

成果報酬型の広告・マーケティングを支援するマクビープラネットの千葉氏も「成果として、利益と深く関係するLTVは非常に重要な指標だ」と訴える。一般的なマーケティングは、顧客をいかに低コストで獲得するかという効率性を測るコンバージョン率や獲得単価を指標とするが、同社は、LTVを独自テクノロジーで精緻に予測、その最大化に向けて逆算する形で、顧客獲得に至るまでの認知や比較・検討といった過程のマーケティング活動の最適化を支援する。「LTVを指標にした、広告の費用対効果(ROAS)を向上させる成果報酬型マーケティングの実現にチャレンジしている」と語った。

LTVマーケティングの実現に向けた実践

東洋経済新報社 編集局会社四季報オンライン編集部編集委員 山川清弘氏
モデレーター
東洋経済新報社
編集局会社四季報オンライン編集部編集委員
山川 清弘

SMBCは、約10年前に顧客とのタッチポイントがスマホアプリになることを見据え、Oliveを開発するIT戦略部をスタート。ネクタイ・スーツ着用の銀行ドレスコードも撤廃して、外部からIT人材を招き入れた。服装自由化は本店全体に広がって企業カルチャーを変革し、スタートアップとの協業や新規事業の創出につながったという。新規事業の1つ、温室効果ガス排出量算定ツールSastana(サスタナ)は、取引先の困り事を解決するために開発され、ユーザー数は2000社超に広がった。うち4割を銀行取引がなかった企業が占め、強力な新規開拓ツールになっている。「IT戦略部の事業売り上げは、会社全体から見れば小さいが、顧客への訴求効果は高い。今後も顧客を満足させるソリューションを提供してカスタマーLTVを高めていきたい」(磯和氏)。

LTVを重視すれば、マーケティング戦略も変わる。LTVの低い顧客を多数獲得するよりも、数は少なくてもLTVの大きな顧客層を狙う方向に獲得戦略を変えるべきだということになるからだ。一方で、木原氏は「企業がLTVを追求するためには、顧客の多様なニーズに対応して幅広く取りそろえたメニューから、個別にソリューションを組み立て、1本のストーリーにして顧客に伝えるクリエイティビティーが必要。また、1年単位の予算上は将来の見込み益になってしまうLTVを、組織のインセンティブや力学にどう反映させるか、という高次のマネジメントも求められる」と乗り越えるべき課題を挙げた。

今は投資をしていない人も将来、投資資金を貯め、投資教育を受ければ、投資を始めて、証券会社の顧客になるかもしれない。千葉氏は「顧客の行動は時間を経て変わっていく。そのため、目先の顧客獲得数にばかりフォーカスしてしまうと、獲得単価が高騰したり、低LTVのユーザーが増えたりしてしまい、顧客企業が望むマーケティング成果は得られなくなる」と長期視点で最適解を見通すことの大切さを訴える。マクビープラネットは創業以来、蓄積してきたデータを使い、将来にわたる顧客の行動変化を分析し、LTVを指標にしたマーケティングを支援してきた。「LTVマーケティングは、クライアント企業がまだ見えていない価値を可視化する。目先の収益にとらわれない指標を設定して、費用対効果の高いマーケティングのあり方を伝えていきたい」と意気込みを示した。