幻に終わった「核禁条約会議」オブザーバー参加 核兵器「先制不使用宣言」こそ核廃絶への第一歩
日本は、クリントン政権以来のアメリカ民主党政権が核兵器の先制不使用宣言を検討するたびに、宣言に反対する姿勢を示している。その理由としては、1999年8月6日衆議院外務委員会での高村正彦外相(当時)の発言が、今も繰り返される答弁の原型を成している。
「いまだに核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している現実の国際社会では、当事国の意図に関して何ら検証の方途のない先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に十全を期することは困難であると考えている」
バイデン政権が先制不使用宣言を検討した際、「日本政府は『先制不使用は中国などへの誤ったメッセージとなり、抑止力が低下する』(外務省幹部)との懸念を持っており、バイデン政権発足後、非公式にこうした懸念を伝えた」と報じられている(読売新聞2021年11月10日)。
宣言によって「抑止力が低下する」とはどういうことか。2022年の核不拡散条約再検討会議で、「核の先制不使用」採用を核保有国に求める最終文書案に日本側が反対した理由について、産経新聞(2022年8月24日)は次のように解説している。
「(宣言が出ると)安全保障を米国の拡大抑止(核の傘)に依存する日本にとっては、中国や北朝鮮、ロシアが通常兵器、生物・化学兵器の使用や侵略的な行動を躊躇しなくなる恐れがある」
要するに、アメリカには、核以外の攻撃、つまり、生物・化学兵器及び通常兵器による攻撃にも核で報復する可能性を残しておいてほしいというのが日本の立場だ。
日本の核武装に対するアメリカの不安
ここで、日本の反対がアメリカにとって極めて重要な意味を持つことを理解する必要がある。「抑止力の低下」についての日本の不安を無視して宣言をすると、日本が核武装に動き出すかもしれないとの危惧がアメリカ側にあるというのがキーポイントだ。
オバマ政権が2009年に先制不使用宣言を検討した際に、アメリカの議会が設置した「アメリカ戦略態勢議会委員会」が宣言に反対した理由は、宣言が核抑止の弱体化をもたらすとの懸念を日本などの同盟国が持っており、これを無視すると、これらの国々が核武装してしまうおそれがあるというものだった。
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オバマ政権末期に再度宣言が検討された際には、宣言をすれば不安に感じた日本が核武装するかもしれないとしてケリー国務長官が反対したとニューヨーク・タイムズ紙(2016年9月5日)が報じている。
結果的に、日本は核武装の威嚇によって、アメリカの核の役割低減政策を阻止していることになるのだ。
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