対中関税がトランプの首を絞める至極当然の道理 アメリカの労働者には百害あって一利なし

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中国では今後、生産年齢人口が減少していくため、低賃金の有利さを発揮できなくなっている。したがって、いずれはこうした変化が生じるであろうが、それが追加関税によって加速されることになる。ただし、それは短期間で実現できることではないし、さまざまな摩擦現象を伴うことになるだろう。

サプライチェーンの「脱中国化」が起きる

そして、上述の事情はiPhoneに限ったことではない。アメリカの中国からの輸入に関して一般的に言えることだ。

2023年にアメリカが中国から輸入した主要品目は、以下のとおりだ(ジェトロ調べ、カッコ内は輸入総額に対する比率)。

・ ノート型パソコン(6.6%)
・ スマートフォン(5.1%)
・ リチウムイオン電池(2.2%)
・ 玩具(1.7%)
・ データの送受信装置(1.3%)

このように、電子機器と機器類が多い。これらの品目について、iPhoneと同じことが起きる。

こうした部門では、アメリカの製造業はファブレス化しているから、アメリカが中国からの輸入に対して高い関税を課すと、自国内での製品価格が上昇し、消費者にその費用が転嫁される。そして、長期的に見れば、サプライチェーンを中国からほかのアジア諸国に移していくことになる。

経済学では「関税をかけない自由貿易が望ましい」としている。これはイギリスの経済学者、デヴィッド・リカードの「比較生産費説」の議論に基づく、かなり高度な議論だ。

しかし、ここで論じている問題については、そのような面倒な議論を持ち出す必要はない。つまり、これは経済学以前の問題なのである。

リカードが論じたのは次のようなことだ。イギリスは羊毛もワインも生産できる。しかし、条件次第では、ワインは作らず、羊毛の生産だけに特化し、ワインは輸入したほうがよい。

驚くべきことに、ワインを製造するコストがスペインより低いとしても、それでも輸入したほうがよい場合がある。これが「比較優位」の理論だ。これはかなり高度な議論で、理解するのは容易でない。

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