「TBS辞めた男」ABEMAで"危険な番組"作る事情 なぜ"命懸けで国境を越える人々"を撮り続けるのか

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大前さんにとって代表作ともいえる『不夜城はなぜ回る』。その中で彼にとって忘れられない思い出のエピソードがある。

「毎日深夜に、名古屋駅前でドラムを叩き続けているおじさんがいるんです。その前には遺影みたいなものが置いてあって。ドラムで奏でるものが怒りなのか、追悼なのかはわかりません。

そのうち夜が更けてくると、未成年と思われる子たちも集まってくるんです。おじさんはドラムを叩きながら、『ここに来るんじゃねえ! 家に帰れ!』『お前らドラッグとかやって俺の演奏を聞いてるんじゃねぇよ!』と怒りながら叫んでいて。

でも子どもたちは、『信じられる大人はこの人しかいない』とおじさんといるときはドラッグをすることもなく、ドラムを聴いていました。家出少女たちの居場所のような存在なんですよね。朝日が出ると、おじさんは子どもたちと一緒にゴミ拾いをして帰るんです」

この不思議な関係性を非難する“大人たち”もいた。

「クタクタのスーツを着た会社員風の男性から『ドラッグやってるガキが街を荒らしやがって!』と言葉を投げつけられることもありました。子どもたちはそれを見て『あんな大人になりたくない』と言っていた。

僕が『どう思う?』とドラムのおじさんに聞くと、『俺は別に何にも思わん。子どもたちのほうがまだ人間らしい。大人たちは下を向いて悪口を言うばかりだけど、子どもたちは憂いてはいても、まだ上を向いて世の中を変えたいと思っている』って。そう言ってドラムを叩いている姿にグッとくるものがありました」

残念ながら、この回が放送されることはなかった。理由はコンプライアンスに引っかかってしまったからだというが、もしオンエアされていたら“神回”になったかもしれない。

不夜城はなぜ回る
日本各地の山奥にも取材に行った。写真は、山形の雪山でロケをしたときのもの(写真:大前さん提供)

趣味で撮ろうとしていた企画が採用

2024年1月にTBSを退職した大前さんが手掛ける新作が、『国境デスロード』(ABEMA)だ。世界各国にある国境を命がけで越える人々の生活に密着するドキュメントバラエティー番組で、大前さんは企画・総合演出で参画し、『不夜城はなぜ回る』と同様に自ら取材現場に立ち、リポートを行っている。

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