「玉砕を許されなかった兵士」知られざる沖縄戦 『戦場の人事係』を書いた七尾和晃氏に聞く
──『戦場の人事係』に記されたエピソードはどれも重たいものばかりです。沖縄本島の各地をご自身で歩いて石井氏が残した記録の1つひとつを追体験しようとした七尾さんの覚悟や労力は、並大抵のものではなかったと思います。
沖縄戦に関して言うと、これまでに多くの著作が残され、今も「語り部」と呼ばれる人々が戦争の悲劇を伝え続けています。このこと自体は大変意義のあることですが、戦場で起きていたことやその時の人々の心をとらえるためには、もう少し別の手法があってもよいのではないかと考えました。私は沖縄戦および戦後沖縄に関して3冊の著作を出しましたが、いずれにおいても重視したのが「歩き継ぐ」という手法でした。
本書の上梓までに15年を費やした
『戦場の人事係』でいうと、石井氏に最初にお目にかかってから本書を上梓するまでに15年。その間に沖縄戦当時の彼の足跡を自分の足で確認しました。
彼や仲間の兵士たちがいつ、どのように転戦し、そしてどこでどのように命を落としたのかを、自分なりの体験として消化するためです。そのために、沖縄本島のあちこちにあるガマと呼ばれる真っ暗な自然洞窟に入り、そこでの当事者の思いを追体験しようと試みました。
また、「鉄の暴風」とも呼ばれた戦場を逃げ惑うことがどれほど大変だったかを自分なりに理解するために、沖縄本島を当時の足跡に沿って実際に徒歩で歩いてきました。
さらにそれだけでは十分でないと考え、当時、アメリカ軍の側がどのように作戦を進め、日本兵を掃討したかを確かめるために、アメリカの国立公文書館やスタンフォード大学フーバー研究所を訪れ、そこに残されていたアメリカ兵やアメリカ軍側の証言記録を集め、日本側の証言や記録と擦り合わせる作業を行ってきました。
そのうえで市井の人々に向き合い、その人たちの言葉を聞き、咀嚼しました。
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