婦人靴の老舗が「理想のOMO」にたどり着けた理由 最大の強みである高度な「接客」を生かすために

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ダイアナ谷口氏とNEC鴇沢氏
デジタル化の進展やコロナ禍の影響で、消費者の行動は大きく変わりつつある。キャッシュレス決済も普及する中、小売業界で注目を集めているのが、実店舗とオンラインをシームレスにつなぐOMO(Online Merges with Offline)だ。しかし、実現のために何をするべきかわからず、停滞してしまう企業も少なくない。そんな中、NECの伴走支援を受けてOMO推進を加速させているのが、婦人靴老舗のダイアナだ。「理想のOMO」にたどり着くまで、どんなプロセスを経てきたのか。両社のキーパーソンに話を聞いた。

ECの普及で見えなくなった「買わない理由」

ダイアナは1948年創業。婦人靴・ハンドバッグを中心としたオリジナルブランドの販売・商品企画を行い、全国に83店舗を展開している。とりわけ「美足文化の創造に貢献する」との理念の下、一足一足手作りをしているパンプスは、シルエットの美しさだけでなく、快適な履き心地が特徴だ。取締役の谷口正氏は、その理由を次のように説明する。

ダイアナ谷口氏
ダイアナ
取締役
経営戦略統括部 管掌 兼 OMO推進室 室長
谷口 正

「パンプスは、サイズが合っていても幅がきつかったり、前に足がずれてしまったりすることがあります。ダイアナでは、フィッティングをしたうえでミリ単位の調整を行い、お客様の足の形に合わせてからお渡しをしています」

足の形は人によって千差万別。フィッティングといっても決して簡単ではない。逆にいえば、そこに顧客は価値を見いだす。「だから、固定のお客様がついている販売員はたくさんいます。その販売員と話したいから店舗まで足を運ぶ、とおっしゃっていただくことも少なくありません」(谷口氏)

一人ひとりに合った接客を強みとする販売スタイル。しかし、スマートフォンの普及によりネットショッピングがより身近なものになったことで、消費者の行動に大きな変化が表れたと谷口氏は話す。

「6~7年前から、店舗で商品をご覧になりフィッティングをしたのち、ECサイトで購入されるお客様が増えました。必然的に、お客様がどういう経緯で購入したのかがわかりにくくなり、販売員が独自に収集していた『買わなかった理由』も見えなくなってきました」

購買行動の可視化とともに、ニーズの裏返しである「買わなかった理由」もまた、顧客満足度向上のカギを握る重要な情報だ。加えて、実際にはフィッティングなどの接客がECでの購入を後押ししたとしても、販売員がその効果を感じられなければモチベーションが低下しかねない。販売側もオンライン(EC)とオフライン(店舗)をシームレスに連携させるOMOの取り組みを進め、消費者とのあらゆる接点を融合させたいと谷口氏は考えるようになる。

「しかし、どうやったらダイアナの目指すOMOが実現できるのかがまったく見えませんでした。どんな技術を使えばいいのか、そもそもどのような技術があるのかもわからなかったので、100社以上のITベンダーに話を聞きました」

OMOの支援実績をあえて重視しなかった訳

谷口氏がITベンダーに話を聞いたのは、ダイアナがテクノロジーを積極的に活用してきたことが背景にある。半世紀近く前の1980年にコンピュータを導入して全店をオンライン化し、ECサイトは2001年に開設。カスタマージャーニー管理やCRM(顧客情報管理)もいち早く取り入れている。

「さまざまな技術を取り入れ、つなぎ合わせれば『ダイアナのOMO』が実現できると考えたんです。しかし、さまざまなベンダーと話をした結果、そうした既存のシステムを改修する進め方では厳しいことが見えてきました。ただお客様との接点をつくるだけでなく、顧客情報を整理し直して、IT基盤のあり方も見直す必要があると気づいたんです」

求めたのはダイアナを理解し、かつIT基盤の「あるべき姿」をコンサルティングできる存在。NECをパートナーとして選定したのは必然だったと谷口氏は明かす。

「NECは技術への高い知見があるだけでなく、30年以上にわたってお付き合いをしてきましたので、当社のIT基盤についても深く理解しています。OMOはダイアナにとっても社運をかけた一大プロジェクトですので、長年の信頼が最大の決め手となりました」

とはいえ、不安もあった。NECはOMO支援で豊富な実績があるとはいえなかったからだ。

「でも、そこは逆に期待できるポイントでもありました。同じフィールドで強みを持つ人だけが集まっても、広がりは期待できません。真逆の考えを持つ人たちと取り組むことで、こちらも制限を設けずに要望を出せますし、それをプロフェッショナルの目線で適宜判断してくれるだろうと思いました」(谷口氏)

「ダイアナのPMO」として課題とシステムをつなぐ

NECは、この谷口氏の「期待」にキックオフの段階から応える。店舗で接客をさせてほしいと申し出たのだ。「そんなベンダーは1社もなかったので驚きましたが、非常にありがたい提案でした」と谷口氏は振り返るが、NECにはどのような意図があったのか。NEC 戦略・デザインコンサルティング統括部 シニアコンサルタントの鴇澤雅之氏はこう説明する。

NEC鴇澤氏
NEC
戦略・デザインコンサルティング統括部
シニアコンサルタント
鴇澤 雅之

「どのようなケースであっても、まず行うべきは現状分析です。それを踏まえたうえで、『ありたい姿』とのギャップを抽出しなければ、課題は特定できません。とくに現場の業務は、店舗を見学するだけでは理解できないのではと思いましたので、お願いをさせていただきました」

実際に店舗で働くことによって、課題の解像度が上がったと鴇澤氏は続ける。

「販売員と同じ目線になれないと意味がないので、新入社員と同様のOJT研修を受けさせてもらったのですが、在庫整理がとにかく大変だと痛感しました。朝、何十箱と届く段ボールを開け、バックヤードの棚に靴を詰めていくのですが、サイズや色など、SKU(在庫管理単位)が非常に細かいのです。しかも店内の在庫状況に合わせて、適宜並べ直さなくてはなりません。店舗オペレーションの負担が、接客を圧迫している現状が見えてきました」

つまり、ダイアナの強みである高度な接客を生かすには、在庫管理などのオペレーション改革も必要だということがわかったのだ。そうやって抽出された高解像度な課題を基に、二人三脚で「ダイアナならではのOMO構想」を策定していった。

現場研修の様子
実店舗での研修の様子。業務を通じて現場の課題を洗い出していった

「目指したいOMOのあり方を描き、そのためにするべきことの優先順位をつけていきましたが、ダイアナだけではできなかったと感じています。これはシステムの問題、ここはダイアナの仕組みの問題といった具合にわかりやすく整理し、適切な『道案内』をしてくれました」(谷口氏)

単に外部から提案をするのではなく、ダイアナに常駐して「ダイアナのPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)」に徹したのも見逃せないポイントだ。

「課題を具体化し、取り組むべき施策としてロードマップに落とし込んでからは、NECの開発部隊が提案するシステムの設計や仕様検討に、ダイアナ側として対応しました。現場の課題と先端テクノロジーをつなぐかけ橋としての役割を担った形です」(鴇澤氏)

「顧客・従業員・取引先」の満足度を最大化するOMO

今後は、顧客属性ごとのアプローチを可能にする会員ランク制度のほか、スキルに依存しないデータ分析を実現するBIツールを導入。顧客満足度(CX)と従業員満足度(EX)の向上を目指すとともに、在庫計画の精度向上や在庫管理の効率化といったオペレーションの改革(OPEX)を実施。さらに、多数あるサプライチェーンのDX(SX※)も行い、強靭なバリューチェーンを構築していく計画だ。

※SX:Supply chain Experienceの略称。原材料の調達から製造、流通を通じてお客様の手に渡るまで、そして最終的にお客様の手元を離れるまでの体験価値を指す。

「NECの伴走支援を受けて、ダイアナの目指すOMOは『CX』『EX』『SX』の3つを最大化させるということが明確になりました。お客様はストレスなく、時間や場所を問わずにダイアナのサービスを受けることができ、従業員はお客様に最大限の価値を提供することで適切な評価が受けられます。そして、サプライチェーンを最適化することで、お取引先様の業績向上にも貢献できると考えています」(谷口氏)

まさに三方よしの取り組みであるOMOプロジェクト。2030年までの達成を目標としているが、谷口氏はそこがゴールとは考えていないと力を込める。

「時代はつねに変わっています。今出した結論は、2030年には化石となっていてもおかしくありません。だから、NECには最先端のテクノロジーやソリューションを常時提案してほしいと思っているんです。それが結果的にダイアナのビジネスに合っていないものでも、自分たちの考えをブラッシュアップするのに役立つということは、これまでの取り組みで何度も経験してきました」

顧客・従業員・取引先の満足度をさらに向上させるビジネスを磨き続けるうえで、NECの支援に今後も期待したいと語る谷口氏。現状を把握し、課題を抽出して「ありたい姿」をともに描き、実行までトータルサポートするNECの伴走力と、計画の実現を強力に後押しする技術力は、小売業で必須となってきたOMO推進でも存在感を発揮しつつあるようだ。

お客様を未来に導く、NECの価値創造モデル「BluStellar」