もはやM&Aを企業戦略に標準装備すべき時代だ 10年後を見据えた非連続な成長を実現するには

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久木田 光明 氏、濱田 隆 氏
持続的に売り上げを伸ばし続けるためには、未来を見据えた「先読みのインテリジェンス」で経営戦略を描きつつ、激変する社会に対応した企業変革を断行しなくてはならない。では、何をすべきか。「M&Aの標準装備が必要だ」と提言するのはPwCコンサルティング合同会社でBusiness Model Reinvention(ビジネスモデルの再発明)支援の取り組みをリードする濱田隆氏と、M&Aコンサルティングのチームを率いる久木田光明氏だ。今、企業に必要なM&A戦略について両氏に聞いた。

「M&Aをイベントと捉えると、変化に対応できない」

――VUCA時代といわれる今、将来の予測が困難であるにもかかわらず、企業はトップラインを伸ばし続けなくてはなりません。どう経営戦略を描けばいいのでしょうか。

濱田 ビジネスを取り巻く環境は急激に変化しています。現在の事業をそのまま続けるだけでは、将来の変化に対応できる事業構造にはたどり着けません。これまでの延長線上ではなく、まったく新しい業界やビジネスモデルに挑戦していくことが求められます。

他方で、そうした企業変革に時間をかける余裕があるとは限りません。足元の売り上げも確保する必要があります。M&A戦略でスピーディーに事業ポートフォリオの再編を進めていくことが、経営戦略を描くうえでこれまで以上に重要になってきています。

濱田 隆 氏 PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー ストラテジーコンサルティング事業部
濱田 隆
PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー ストラテジーコンサルティング事業部
自動車、テクノロジー、通信、金融業界を中心とした幅広い業界にてデジタル技術を活用した事業の立ち上げ・拡大や先進技術評価等に従事。現在、ビジネスモデル再発明領域におけるPwC Japanグループのリーダーを務めている

久木田 従来は、シェア拡大のため同業他社を買収する水平型M&Aや、バリューチェーンを強化するために川上と川下の企業が統合する垂直型M&Aが中心でした。

しかし現在は、事業構造の変革や、自社だけではたどり着けない成長のために行うM&Aが増えてきました。企業を変革し、ビジネスモデルを再発明することを目的に、あえてそれまでと異なるポジションや領域にピボットする形です。目の前のマーケットだけでは成長の余地がないので、まったく異なるマーケットと掛け合わせて、新たな領域を切り開くことにチャレンジしようという機運も高まってきました。

久木田 光明 氏 PwCコンサルティング合同会社 上席執行役員 パートナー ストラテジーコンサルティング事業部
久木田 光明
PwCコンサルティング合同会社
上席執行役員 パートナー ストラテジーコンサルティング事業部
M&A戦略策定、買収対象企業の選定、ビジネスデューデリジェンス、統合後の統合プラン策定および統合実行支援(物流統合含む)など、M&Aや企業統合に関する実績を多数有する

――そうした新しいM&Aを経営戦略の選択肢に組み込むためには、何が必要なのでしょうか。

久木田 格段に柔軟性が求められるようになってきています。従来、M&Aは企業にとって大きなイベントでした。すなわち、具体的な機会や必要性が発生してからようやく動き出していたわけです。

しかし、それでは目まぐるしい変化に対応できません。随時新たな領域を模索し、企業変革やビジネスモデルの再発明を繰り返していく必要がある今、M&Aは恒常的な戦略オプションの1つに位置づけるべきだと思います。

濱田 M&Aという手段をいつでも使えるようにしておくことが、経営戦略を描くうえで重要です。例えば、当初はまったく検討していなかったのに、戦略を落とし込んでいく過程でM&Aが有効だと判明することもよくあります。

逆に、M&Aを検討したけれどもやはり既存事業変革などによるオーガニックな成長を選んだほうがいいとわかることもある。クライアントにとって重要なのは持続的な成長を実現できることであり、「M&Aありき」ではないわけです。PwC Japanグループであれば、M&Aによる非連続な成長も、コア事業の変革や新規事業の創出による成長も、どれでも支援できるため、無理やり1つの選択肢だけを押し付けることはありません。ですので、クライアントが幅広い選択肢の中からその時点のベストな判断ができるようにしておくことが大切です。

――PwCコンサルティングとしては、どのようなM&A支援をしているのでしょうか。

久木田 経営戦略との一貫性を保ちながら、柔軟かつ迅速なサポートができるのが特徴です。私たちは、日本有数の規模となる400名超の戦略コンサルタントを擁するPwCコンサルティングのストラテジーコンサルティング事業部として、戦略という軸でM&Aを見ています。そのため、新たなビジネスモデルや成長戦略を構築するのに何が必要かというところから落とし込むことができます。

加えて、PwC Japanグループには、コンサルティング以外にも、M&A、法務、税務、監査を専門とするファームがあり、世界約150の国・地域のPwCグローバルネットワークともシームレスに連携しているため、いざM&Aを進めるときも手厚いご支援が可能です。

さまざまなシナリオに対し、柔軟にPwCの専門性を組み合わせてワンストップ対応できるのが、総合コンサルティングファームとしての最大の強みです。

濱田 「あと数年間で数百億円の売り上げをつくらなくてはいけない」といったご相談も多いのですが、「こういうM&Aが選択肢になる」などの具体的な提案ができるメンバーもそろっています。しかも、異業種の会社を買収する場合、久木田が述べたようにM&Aコンサルティング以外の法務や税務、監査といったPwC Japanグループのメンバーファームと連携しているため、関連の法規や税制優遇措置にもスムーズに対応できます。

変革を軸に「価値創造の循環」を生み出す

久木田 特定の業界だけでなく、全業界を俯瞰したうえで幅広い掛け合わせを提案できるのは、PwCならではの強みだと思います。最近、注力しているテーマの1つが「クロスインダストリー」です。業界の垣根を越えて経営戦略を考えなければならない今、各業界のインダストリーチームが持つ深い知見を生かしつつ、柔軟に掛け合わせていくことを重視しています。

実際、自動車メーカーがテクノロジーのプラットフォーマーを競合相手と見ているように、業界やマーケットを超えて横断的に見るのはもはや常識になりつつあります。その中で私たちは、各業界の深い部分に目配りをしたうえで戦略を構築できるメンバーと、M&Aの知見を持つメンバーがしっかり連携しているのが大きな特徴です。

濱田 何よりも、「M&Aありき」ではなく、「変革」に軸足を置いて多数の事例を積み上げてきているので、対応のバリエーションも豊富に用意できます。例えば、買収した企業のデジタル化を加速させるために、さらなるM&Aも検討しつつ、買収した企業のリソースをスピーディーに洗い出して将来像を示し、短期間かつ低コストで課題を解決できたこともありました。

――M&Aという手段を適切に活用しつつ、最短距離で企業変革を成し遂げるということですね。

久木田 先ほど、「M&Aを恒常的な戦略オプションに」と話しましたが、それはM&A機能を標準装備することを意味します。つまり、標準装備することによって、事業ポートフォリオを時代やマーケットに合わせて柔軟に変革できるということです。

近年、それまで成長を牽引していた事業が頭打ちとなって売却する事例が増えています。しかも、事業のライフサイクルが以前に比べてどんどん短くなっています。しかし、事業としての価値がなくなったわけではなく、価値を最大化できるほかの企業が買うことで、社会全体の価値向上につながっていきます。

PwC Japanグループでは「Transact to Transform(ディールから変革が生まれる)」というコンセプトを提唱し、Transact(ディール=M&A)を継続的に実施することで変革と価値創造の循環を生み出す支援をしています。

その企業にとってノンコアビジネスとなった事業も、トランスフォーメーションして価値を高めてから売却し、そこで得た資金で新たなM&Aを実施してさらなる変革につなげていくのです。日本では、戦略的に事業の一部や子会社を切り出すカーブアウトにあまりなじみがありませんが、「M&A巧者」と呼ばれる企業は、そうした価値創造の循環に積極的に取り組んでいます。

価値創造の循環

M&Aは長期戦だから、モメンタムの維持がカギ

――M&Aというと「ケイパビリティーの補完」のみをイメージしがちですが、持続的な変革を促す「価値創造の循環」や「M&Aの必要性を戦略的に判断する」選択肢もあるということですね。では、実際にM&Aや事業ポートフォリオ変革に取り組もうとするとき、直面しがちな課題がありましたら教えてください。

濱田 M&Aに限らず、新しい事業を立ち上げていく際、取り組んでもすぐ成果が出ないケースはよくあります。半年程度でやめてしまい、「何度取り組んでも変革ができない」と悩む企業は少なくありません。

そもそも企業変革は長期戦です。確かに既存のビジネスを維持しながら変革をしていくのは多くの困難を伴いますし、社会やビジネスを取り巻くコンディションも随時変わります。しかし、その中で長距離走を持続しなくてはなりません。5年後、10年後を見据えながら変革を続けていく必要があるのです。

濱田 隆 氏、久木田 光明 氏

久木田 足元の売り上げ目標を達成し続けながら、変革を後押しするモメンタムを長期的に維持するためには、「M&A巧者」となることが重要です。なぜならば、巧者はつねに実践を続けていますので、私どもが「M&Aレディネス」と呼んでいるノウハウやケイパビリティーが蓄積されていくからです。金融機関から勧められて初めて検討するのではなく、繰り返しになりますが、企業戦略の一部としてM&Aを標準装備することが必須の時代になってきています。

濱田 PwC JapanグループはM&Aだけでなく幅広いサービスを手がけていますので、豊富な事例を示しつつ、クライアントの目的に寄り添って最適にカスタマイズした伴走支援ができます。ぜひそこにご期待いただきたいと思います。

久木田 「コンサルタントは空理空論ばかり言う」とよくご指摘を受けます。でも私は、第三者の立場から理想のビジョンを語り続けることも大切だと思っています。目指すべき未来を語り続け、戦略の策定から実現までご支援するのがPwCコンサルティングの提供価値だと考えています。

「ビジネスモデルの再発明」について詳しくはこちら