航続距離を伸長「改良型アウトランダーPHEV」登場 曲がり角にきた「EVシフト」に対する解決策

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新型アウトランダーPHEV
世界の自動車市場における「EV(電気自動車)シフト」の波は、2020年代に入って激化。欧米や中国と同様、日本市場も近い将来にEVが主流になると予想していた人は多かったはずだ。しかしEVシフトを目指してきた欧州メーカーは、完全EV化計画を撤回。数年前まで業界を席巻していた予想は、覆されることとなった。このような状況下で、悠々と、そして着実に進化を続ける国産PHEV(プラグインハイブリッドEV)とはどのような存在なのか──。
※経済産業省 製造産業局 商務情報政策局「自動車分野のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」

EVシフトはいったん止まり、主役に躍り出たPHEV

世界的な問題である「カーボンニュートラル」に対し、EVは世界中で瞬く間に車種数を増やし、多くのメーカーが販売増強を発表してきた。一方で、日本のメーカーはなかなか「EVシフト」の動きを示そうとはしなかったが、そこには、EVがまだ発展途上のものであるという読みがあった。

実際にEVを取り巻く状況はここ数年でその流れを変化させ、EV市場へ意欲的に参入した欧州メーカーは課題に直面。充電ステーションの普及には時間がかかり、航続距離に対する懸念も払拭できず、結果的にEV化のピークはまだ先であることが浮き彫りとなったのである。

このような現況に関して、三菱自動車の商品戦略本部チーフ・プロダクト・スペシャリストである五味淳史氏はこう述べている。

三菱自動車工業 商品戦略本部 CPSチーム 商品企画 チーフ・プロダクト・スペシャリスト 五味淳史氏
三菱自動車工業 商品戦略本部 CPSチーム 商品企画 チーフ・プロダクト・スペシャリスト
五味淳史
1978年生まれ。2003年入社。2010年より、先代アウトランダー開発の取りまとめを担当する

「カーボンニュートラル時代に対応していくことは、世界の自動車メーカーにとって非常に重要な問題です。三菱自動車としても、環境問題とエネルギー問題を論点として受け止め、答えを出していこうとしています。車両性能でCO2を削減していくことはもちろん、サプライチェーン全体も含めて、製造から廃車まで全サイクルのトータルでCO2を削減していかなくてはなりません」

そこで三菱自動車が打った手は、主力製品であるアウトランダーPHEVの性能や魅力をアップデートすることだった。アウトランダーといえば、2012年に発売された2代目モデルにPHEV仕様を追加して以降、日本のPHEVのパイオニアとして愛されてきた。

五味氏は三菱自動車におけるアウトランダーPHEVの存在について、こう説明する。

「これまで三菱自動車が培ってきた技術を惜しみなく投入し、優れた電動化技術と4WD技術を注ぎ込んだフラッグシップモデルです。24年10月にお披露目した新型は、上級車として恥ずかしくない品質にするべく、『洗練』と『上質』をテーマに開発しました。外観デザイン、内装の質感、EV航続距離などをさらに一歩踏み込んでブラッシュアップし、技術的な洗練という意味も含めて、歴代最高のアウトランダーにするのが狙いでした」

プレミアムSUVオーナーがうらやむ美点

実際の車両を目の当たりにすると、2022年版と比較して、質感の向上が強く感じられる。大胆なデザインの変更点こそないが、細かな改良により、フロントまわりを中心にひとクラス上の質感を手に入れた。さらに特筆すべきは内装の質感向上で、乗ればすぐにわかるほどのラグジュアリー感が車内に漂っている。

内外装の質感向上は、アウトランダーPHEVのテーマである「洗練」と「上質」を実現させるための重要なファクターだ。ただ長い歴史を持つ自動車メーカーほど、「走りの質感」、そしてその走りにおける「他車との違い」にもこだわりを持っている。三菱自動車といえば、かつてのパジェロやランサーエボリューションで培ってきた4WDを用いた走行性能の高さが、現在における同社の高い評価にもつながっている。

実際に走らせてみると、コーナリング中は路面へしっかり追従する動きを見せ、軽快に走り抜けることができた。改良前との挙動の違いを感じることができたし、何より軽快さは運転する楽しさにつながる。

「高品質化する一方で、動力性能がついてこないと面白くありません。動力性能はバランスがいちばん重要ですから、ハンドリングやサスペンションなどすべてをやり直して、トータルで走行性能の改善を図りました。オーストラリアや米国など、世界中のさまざまな路面環境でテスト走行を繰り返しました」

さらに、三菱らしさの象徴である4WDについても五味氏はこう強調している。

「リアにモーターを付けて4WDにしたのが、弊社らしさですね。やはりEVというと4WDや走破性のイメージが薄いと思うのですが、リアにモーターを組み込んで4WD性能もフルに使えるようにしています。雪道や不整路で走破性能を出せるところも特徴です」

新型アウトランダーPHEV
今回はラフロードの試乗まではかなわなかったが、平坦路での加速はスムーズで非常に安定している。なるべくエンジンを回さず、モーターで走ろうとする車両特性もあって静粛性も高い。オフローダーにとって低速トルクは肝となるが、そこもしっかり押さえている。こういった部分は、他のプレムアムSUVのオーナーがうらやましいと感じる、このクルマの美点だ

三菱自動車が「世界をリードする」ためのモデル

新型で進化したもう一つのポイントが、改良前の83kmから102kmへと伸長されたEV航続距離である。この約20km増えた航続距離がポイントだと、五味氏は言う。

「正直、バッテリーを大量に載せれば同数値はいくらでも伸ばせます。しかし、バッテリーを大きく重くして、さらにコストをかけてそこをお客様にご負担いただくより、われわれとしては1日走って家に帰るとゼロになっているのが最適値だと考えています」

EVであればバッテリーが大容量であるほどいいが、PHEVではそういう発想にはならず、適切なバランスを定めるのが難しい。現状の最適解と考えたのが「102km」という数値なのだという。

「弊社の電動化技術は歴史が長く、1964年から電気自動車へアプローチを始めて、2009年には世界初の量産化EVとしてi-MiEVを発売しています。EVに対する知見はわれわれの優位点であり、今回のPHEVもEVをベースにしていることが特徴です。極力エンジンをかけずに、EVで走ることを基本としています」

EV航続距離がバランスよく向上し、内外装は三菱自動車のフラッグシップにふさわしいレベルとなった。それらに加えて走りの質感も高まり、力強く滑らかになった。結果的に、ひとクラス上のプレミアムブランドに興味を示してきたユーザーが、アウトランダーPHEVを選んでくれるようになったという。これは商品力強化が成功していることを端的に示す証明となっている。

新型アウトランダーPHEV
新型モデルの初期販売データを見ると競合車がプレミアムブランドに変わっている。「洗練」と「上質」を進化させたのはそれらと対抗していくためでもあり、実際にそうなったことに五味氏も満足している様子だった

新型アウトランダーPHEVは「洗練」と「上質」というテーマを掲げて、EVシフトを試みようとする国際市場へ踏み出した。技術力へのこだわりと新しい技術へのチャレンジは三菱自動車らしさであり、それは過去から連綿と続いてきた同社の特徴でもある。一方で、SUV中心の車種編成や他社との協力状況からは、世界市場で成功するための中長期的な視点も見て取れる。

他社のプレミアムSUVの実力は高く、引き続きEVへのシフトを精力的に進めている海外メーカーもある。しかし三菱自動車は、2025年とその先の時代へ向け、改良型アウトランダーPHEVによって世界をリードするための布石を打った。自動車業界全体を見渡してみれば、アウトランダーPHEVがさらに好調な販売結果を得ると想像することは決して希望的観測ではない。