東京ガスの変革「第3の創業」と生成AIの融合 データを生かしデロイト トーマツと組む挑戦

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デロイト トーマツ コンサルティング 下川 憲一氏、老川 正志氏 東京ガス 菅沢 伸浩氏、笹谷 俊徳氏
東京ガスは、事業環境が大きく変化する現在を「第3の創業」と位置づけ、テクノロジーの活用を推進している。中でも特徴的なのが、「利用者の数」と「課題解決の深さ」の2軸で展開している生成AIの活用だ。そのサポートをワンチームで行っているデロイト トーマツ コンサルティングとともに、東京ガスの生成AI導入のチャレンジについて語ってもらった。

PoCを3カ月で20件超実施し、生成AIアプリを開発

――生成AIがブーム化していますが、日本企業における活用の現況はどんなものですか。

デロイト トーマツ 下川 これまではコーポレート部門でAIを活用されるケースが多かったように思いますが、これからは企業の「ビジネスの中核」に組み込まれていくでしょう。例えば製造業の企業で、既存のフロントシステムにAIの機能を入れ、活用している事例がすでにあります。当社は、こうしたシステム構築やAI活用について多くの支援をしています。

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 AI&Data Unit Leader 下川 憲一氏
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 AI&Data Unit Leader
下川 憲一

東京ガス 菅沢 生成AIを含めデジタルを使ったビジネス変革はまさに今、世界中がチャレンジしているところですが、東京ガスも例外ではありません。現在を、渋沢栄一による1885年の創立時と、日本で初めてLNG(液化天然ガス)を導入した1969年に続く「第3の創業」と位置づけ、ビジネスモデル変革に挑戦しています。

2023年2月に発表した中期経営計画では、「エネルギー安定供給と脱炭素化の両立」「ソリューションの本格展開」「変化に強いしなやかな企業体質の実現」という3つの主要戦略を掲げました。 

当社の主要事業として、ガスと電気に次ぐ第3の柱をつくるべく「脱炭素・最適化・レジリエンス」の価値を提供するソリューション事業ブランド「IGNITURE」を立ち上げました。これらの実現にはデータとデジタル技術の活用が不可欠であり、もちろん生成AIも大いに活用しています。 

例えば、23年7月にはチャットベースの生成AIツールを導入し、社員の希望者全員にアカウントを配布しました。現在は3500名超のアカウント数になっています。

また生成AIのユースケース案を社内で募集し、200以上集まったアイデアの中から、インパクトや早期実現性などを考慮し、3カ月間で20件超の概念実証(PoC=新たなアイデアやコンセプトの実現可能性、得られる効果などを検証すること)を実施しました。 

効果が出やすいユースケースとして、RAG(検索拡張生成=生成AIの回答精度を高める)を用いた「回答・ナレッジ活用」のほか、お客さまの声を分析するなどの「評価・分類・データ変換」、一人ひとりの顧客属性に合わせたマーケティング施策を立案、実行するなどの「アウトプット作成プロセス自動化」といった3ケースがあります。 

これらのゴールデンパターンを見いだし、さらに実現する生成AIアプリ「AIGNIS」(AI+IGNIS〈ラテン語で炎〉の造語)を開発して、社内で活用を開始しています。

東京ガス 常務執行役員 CDO DX推進部、カスタマー&ビジネスソリューションカンパニー ソリューション共創本部長 菅沢 伸浩氏
東京ガス 常務執行役員 CDO
DX推進部、カスタマー&ビジネスソリューションカンパニー
ソリューション共創本部長
菅沢 伸浩

デロイト トーマツ 老川 「AIGNIS」に関しては、活用開始後から「もっとこんなふうに使いたい」「こんなこともできるのではないか」と、東京ガス社内からさまざまなご要望が多数寄せられています。次は、こうした声をくみ取りながら、成果を刈り取るフェーズです。

当社が東京ガスのサポートを始めたのは、ちょうどユースケースが集まり、進め方を検討されていた時期でした。デロイト トーマツは、すでに生成AIに関してさまざまなチャレンジを行い、ノウハウを蓄積していましたので、お役に立てると考えたのがきっかけです。

プロジェクト当初は例えばRAGなど技術的な領域や、日常的に使っていただけるように便利な機能の実装などを支援しました。現在は、具体的な使い方の周知など、ユーザーをさらに増やしていくための取り組みについてもサポートしています。

デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー 老川 正志氏
デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー
老川 正志

下川 生成AIの登場により、世の中の仕事がドラスティックに変化する。それはコンサルティング業務も同様です。当社はそこに危機感を持ち、技術面も含めた知見を深化させて生成AI領域にチャレンジする方針を、グローバルで決定しました。

日本国内でもCXOの直下にタスクフォースを立ち上げて、「コンサルティング業務で生成AIを活用するためにはどうすればよいか」をテーマとしてタスクフォースによる検討、アイデアを出し合っています。そしてトライ・アンド・エラーを繰り返し、培った実践的なノウハウをクライアントに提供しています。

従来のデロイト トーマツには、アドバイザリーのイメージが強かったと思います。現在はそれに加え、深い技術力や実践的なノウハウを組み合わせて付加価値を提供できることが、最大であり独自の強みになっています。

先行ユースケースを活用し導入をスピードアップ

――デロイト トーマツの支援について、東京ガスはどう評価していますか。

東京ガス 笹谷 従来のコンサルティング業務である課題整理から、実際に生成AIを実装して活用するフェーズのフォローまで、各プロセスで伴走してもらっています。

生成AIは指示を与えれば何かしら回答するので、とりあえず動くツールは作れます。ただ、そこから実際に現場の最前線で業務に生かせる状態にブラッシュアップし、活用するまでのギャップは非常に大きいです。

その点、デロイト トーマツにはユースケースの蓄積が豊富にあります。以前、3カ月間で20件超のPoCを実施した際にそれを強く感じました。当社が自分たちで一から立ち上げ、試行錯誤するよりも、既存のノウハウを提供してもらい活用することで、道筋を確実なものにし、かつ大幅にスピードアップすることができました。

生成AIは、テクノロジーのレベルも環境も、変化が非常に激しい分野です。当社が一方的に開発をお願いする形では、結局うまくいきません。ツールの開発中にも新技術が発表されるような状況ですから、最新の動向を踏まえて、しゃくし定規ではなく柔軟に動くことが重要です。

デロイト トーマツの特徴は、当社メンバーと1つのチームを組み、成果の最大化を目指しているところです。当社には、社内にノウハウを蓄積して、いずれは横展開できるようにしたいという要望がありましたが、ノウハウを囲い込むことなく柔軟に応えていただきました。

その結果として、「AIGNIS」は汎用性が高く、拡充や横展開の柔軟性が高い仕組みになっています。

東京ガス DX推進部 データ活用統括グループ マネージャー 笹谷 俊徳氏
東京ガス DX推進部
データ活用統括グループ マネージャー
笹谷 俊徳

AI活用で、経営者とマネジャーに求められること

――ビジネスの中核でAIを活用するために、経営者やマネジャーには何が求められますか。

下川 大きくは2つあって、1つ目は「思考の転換」です。生成AIを含め現在のAI活用は、自社のビジネス慣習や業務プロセスによる制約を考慮して行われています。例えば、「100ある業務のうち80は従来のデジタルツールと人の手で、残りの20をAIで」と考えるアプローチが多いように思います。 

しかしこれからは、AIを最大限に業務に活用することに焦点を当てる「AIセントリックなアプローチ」で、ビジネスモデルや業務プロセスの検討を行うべきでしょう。AIを使える部分には最大限活用することで、例えば業務の8割をAIに任せ、そのほかのデジタルツールで1割、人のリソースは残りの1割に集中投下するイメージです。 

2つ目は、「データへの着目」です。AIの精度は、データの量と質に依存します。今後は質・量ともに高いデータを資産とし、かつうまく扱えるノウハウを持つ企業が、ビジネスを根本的に変えることで、大きく進化させていけるでしょう。

菅沢 下川さんがおっしゃるとおり、どれだけ意味のあるデータを大量に集められるか、そしてそれを生成AIの特性も踏まえてどう扱うかが、AI活用推進の分水嶺であり、まさに当社が力を入れているところです。

例えば当社では、人事・経理領域などの間接業務を40~50%削減する目標を掲げ、キャリアアドバイザーAIを開発しました。これは、社員の業務内容や意識調査結果などのデータに基づき、社員が自身のキャリア形成に関する相談ができるツールです。人事部目線では、キャリア形成に関する社員のサポートを、生成AIが代替してくれるものです。

もちろん、生成AIに業務のすべては代替させられません。ハルシネーションのリスクもあるでしょう。だから、業務ごとにAIと人間の「ベストミックス」を探り当てていく必要があります。

マネジメントの立場からは、社員に生産性の高い仕事に集中してもらい、アウトプットの質を高める。そしてマネジャーは社員の生産性向上という観点から、最新テクノロジーの知識を身に付け、生成AI活用を推進していく。この2点が重要だと思います。

東京ガスの「変革実現に向けた生成AIに関する取り組み」全体像
東京ガスでは、生成AIの活用を、利用者の数、課題解決の深さの2軸で拡大中。「業務スタイル変革」と「ビジネスモデル変革」につなげることを目指している

老川 企業が独自でAIセントリックなビジネスや業務プロセスを実現することはかなりハードルが高いのが現状です。デロイト トーマツは企業のAI活用によるビジネス変革を支援したいと考えており、そのためにも引き続き社内でのノウハウの蓄積に取り組んでいます。

今後はコーポレート以外のビジネス領域でも、AI・生成AIが本格的に導入されていくでしょう。それに対してデロイト トーマツが的確なサポートをしていくためには、技術力の向上はもちろんのこと、これまで培ってきた強みを環境変化にあわせて進化させていく必要があります。

とくに、私たちの強みである「ストラテジー&オペレーション」をベースとした「業務のミッションクリティカル度などを考慮した、生成AI機能の設計・技術活用」のスキルが重要です。これからもこのスキルを磨き続け、クライアントにとって適した支援をしていきます。

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