神奈川県が「子育てするなら神奈川」を目指す理由 官民協働「こどもまんなかプロジェクト」とは?
官民協働で「安心して子育てできる神奈川県」を目指す
厚生労働省の人口動態統計によれば、2023年の出生数は過去最少だった。少子化は、言うまでもなく人手不足や経済成長の鈍化につながる。子育ての非当事者にとっても深刻な問題だ。
「神奈川県の23年度県民ニーズ調査では、『安心して子どもを生み育てられる環境が整っている』と回答した人は16.5%にとどまっています。子どものいない人や、子育てに直接関係しない企業を巻き込んで、安心して子育てができる社会づくりの機運を高める必要があります」と神奈川県 福祉子どもみらい局 子どもみらい部 次世代育成課の矢野靜嘉氏は話す。
その危機感から、同県および黒岩祐治知事は、こども家庭庁が「こどもまんなかアクション」をスタートさせた直後の23年7月に「こどもまんなか応援サポーター」に就任。「かながわこどもまんなかプロジェクト」を推進してきた。注目したいのは、全国に先駆けて県内の市町村を巻き込んだことである。
「23年11月には、県内33の市町村長を集めて『かながわこどもまんなかミーティング』を開催し、意見交換を行いました。各市町村長の子育て応援メッセージをフリップに書いてもらい、これらをもとにプロジェクトの特設サイトで一覧化しています」(矢野氏)
一覧化したのは、県民にわかりやすく内容を伝えるだけでなく、各市町村が互いの取り組みを把握することで、刺激を与え合う狙いもあったという。定期的に市町村と連絡会議を開催しても、取り組みのすべてを紹介するのは困難だからだ。
市町村単独ではなかなかできないPR動画も計10本制作。市町村の庁舎や県内の公共交通機関で発信し、「伝えにくいところにもPRできた」という声も寄せられている。24年度に入ってからは、企業や団体へのアプローチも開始し、その数は増加中だ。
事例の一部を下記コラムで紹介したい。「『こどもまんなかアクション』と聞いても、具体的なイメージが湧かない企業も多いと思いますので、子ども・子育てにやさしい取り組み事例をWebや動画で発信しています。こういった取り組みをしている企業のイメージアップを後押しすることで、例えば採用活動に好影響が出たといった効果につなげ、活動に賛同する企業を増やしていきたいと思っています」(矢野氏)。
ファンケル「子ども食堂での食育活動」
無添加化粧品や健康食品の製造・販売をしているファンケル。神奈川県が主催する「かながわSDGsパートナーミーティング」への参加を契機に、県内の子ども食堂運営団体とつながり、「子ども食堂での食育活動」を2023年5月に開始した。食や栄養に関する知識と、バランスのよい食を選択する力を習得する「食育」で、健やかな体づくりや未病の改善など地域・社会への貢献につなげることを目指している。
「内容に興味がないとすぐに飽きてしまいますし、情報が多すぎても理解が深まりません。回を重ねて、栄養の基本や発芽玄米、ケールについてクイズ形式で飽きずに学び、着ぐるみの『発芽ちゃん』をみんなで呼び込んで楽しい時間をつくっています。1社でできることには限界がありますので、思いを共有できる企業とお互いの強みを生かしたコラボレーション講座も実施しています。これからも、さまざまなパートナーシップを大切に活動の幅を広げていきます」(担当者)
フィード・ワン「こども参観日」
配合飼料の製造・販売をしているフィード・ワンは、従業員の子どもたちを職場に招き、親がどんな仕事をしているのかを知ってもらう「こども参観日」を開催している。取り組み当初は、家庭内でのコミュニケーションの活性化を促し、仕事へのモチベーションやワーク・ライフ・バランスの向上につなげることを目的としていた。しかし、取り組みが継続し、同僚の子どもと接したり、同僚が子どもに接する「家庭の顔」を垣間見たりする中で、従業員同士の理解が深まり、サポートし合う関係が強化される効果も出てきた。
子どもたちに一日社員となってもらうため、顔写真入りの社員証や名刺など親と同じものが持てるようにする工夫も。家庭に持ち帰って大切にする子や「大人になったらフィード・ワンで働きたい」と言う子もいる。「どんな企業でも取り組めるのが、『こども参観日』のよいところです。少しでもいろいろな企業へ広がってほしいと思います」(担当者)。
NPO法人WooMoo「産前から産後の継続した母子支援」
30年にわたり地域支援をしてきたみやした助産院を運営母体として2011年に設立。横浜市認可小規模保育園、横浜市補助事業親と子のつどいの広場、小学生以上の子どもの居場所事業を運営している。モットーは「うむまえ、うむとき、うんだあと」の切れ目のない継続した支援。
産前の妊娠期から産後の子育て期まで継続した支援活動を実施し、利用者からは「子どもの成長過程でどんどん変わる悩みも、継続して関わってくれたので安心して相談できましたし、『一人じゃないんだ』と思えました」などの声も寄せられている。「親子が孤立しないよう、支援が必要な段階で早期介入することが重要だと感じています。『こどもまんなかプロジェクト』で活動することによって、今まで以上に『子どもの思い』を大切に、素直な声に耳を傾けることができ、保護者とも共通の目標を持てるようになりました。今後は青年期(13~18歳)の支援も行いたいと思っています」(担当者)。
湘南ベルマーレ「みんなのたのしめてるか。」
プロサッカークラブを運営する湘南ベルマーレは、スローガンに「たのしめてるか。」を掲げ、「夢づくり 人づくり」をクラブミッションとしている。2023年に湘南地域の共生社会を推進するため、平塚市内特別支援学校4校と連携しながら、企業や団体、自治体などをつなぐ地域のハブとして「一般社団法人INCLUSIVE HUB SHONAN」を立ち上げた。24年11月に、年齢、性別、国籍、障がいの有無に関係なく老若男女誰でも参加できるイベント「みんなのたのしめてるか。」を開催した。
みんなが安心して楽しめるルールを考えてプレーする「ボーダレスフットボール」や手話体験コーナー、世界の医療団による妊婦体験なども実施。
「子どもたちが障がい者と当たり前のようにコミュニケーションを取ったり遊んだりしている姿が印象的でした。今後も、600社超のパートナーや多くのサポーターと共に、クラブの発信力や影響力を活用しながら、共生社会の実現に向けた取り組みをしていきます」(担当者)
これまでの子ども施策は大人たちが「子どものために」と考えてつくってきました。私たちはそれを変えて、「子ども目線」で施策をつくり、進めていこうと考えています。そんな思いから24年12月に「神奈川県こども目線の施策推進条例」を制定しました。そして、今は子どもたちとの直接対話も重ねていますが、目からうろこの連続です。