明治が「DX人財」への危機感を解消した手法とは? 柔軟な対応でテクノロジー活用の実践力を強化
![NEC・明治集合写真](/mwimgs/b/0/-/img_b02adced37d6129c36e84f285a3e0a91188071.jpg)
ライフスタイルの多様化がDX戦略への危機感を募らせた
毎日の生活に欠かせない乳製品、菓子、栄養食品、医薬品など幅広い分野の製品を通じ、長年グループとして「おいしさ、楽しさ、健康、安心」の世界を広げてきた明治ホールディングス。その中でも食品事業会社である明治は、「食と健康のプロフェッショナル」として、幅広い世代の人々の生活の充実に貢献している。
他方で、人々の健康に対する価値観やライフスタイルは急速に多様化している。「ライフスタイルの多様化に対応するためにも、デジタルテクノロジーを活用すべきと考えています」と明治ホールディングス グループDX戦略部長の水口貴英氏は話す。
![明治ホールディングス 水口氏](/mwimgs/f/5/-/img_f5dc0e5329b055f28c8b2d6a8230d44e74283.jpg)
グループDX戦略部長
水口 貴英氏
「2024年に発表した『2026中期経営計画』の目標を達成するうえで、テクノロジーの活用が不可欠です。ただ、活用のためには、社員一人ひとりのDXに対する意識も変えなければなりません。
私たちはこの中計で、『変える』をコンセプトに掲げました。とくに、社員の行動を変えることが重要だと感じています。その中で、DXリテラシー教育を含めた人財育成に危機感を抱いていました」(水口氏)
水口氏がそう考えるのには、社員のデジタルリテラシーの不足を感じることがあったのも影響している。
「新型コロナウイルスが蔓延する以前は、積極的にツールを導入してデジタル環境を整備していました。しかし、フォローの体制まで整っているわけではなく、使いこなせない社員も一定数いるのが実情でした。継続的な教育体制を構築して、社員全員が自発的に日常業務でデータとデジタルテクノロジーを活用する風土を確立すべきだと考えるようになりました」(水口氏)
しかし、具体的な方向性がなかなか定まらなかった。明治ホールディングス グループDX戦略部 人財開発グループ長の武富啓佑氏は、当時を次のように振り返る。
![明治ホールディングス 武富氏](/mwimgs/b/2/-/img_b25e9f84b3e2cb8b2cd0fa3d82cdcf8b77338.jpg)
グループDX戦略部 人財開発グループ長
武富 啓佑氏
「まず、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が策定した『デジタルスキル標準(DSS)』を基に、明治として重点的に取り組むことを整理しようと試みました。
ですが汎用的な内容のため、いろいろなアイデアは浮かぶもののそれが正しいのかもわからず、判断に迷う部分がありました」
そこで何社かに相談する中で、信頼を寄せていったのがNECだった。
「固まったプランをいきなり提示するのではなく、課題を整理しやすいよう柔軟に対応していただきました。私たちのことを考えてくれているのが伝わってきました」(武富氏)
情報提供と「壁打ち」で、要件の明確化を後押し
NECには、「BluStellar Academy for DX」というDX人財育成プログラムがある。それにもかかわらず、相談を受けた段階でその提示はしなかったという。それはなぜか。NEC 第二製造ソリューション統括部 第三インテグレーショングループ アカウントマネージャーの西田大輔氏はこう説明する。
![NEC 西田氏](/mwimgs/e/a/-/img_ea7cc054348a60ed2b2dcda70727924166973.jpg)
第三インテグレーショングループ
西田 大輔氏
「プログラムの提供だけで終わるのではなく、ご支援した企業の方々が活躍し、業績の向上に貢献するのが私たちの役割だと考えているからです。
明治様の場合、人財育成の要件を固めるための情報を求めていると感じました。ですので、まずはNEC自身の経験を、成功も失敗も含めお伝えしました」
NECは、自社を最初の顧客とする「社内実践」の考え方の下、自ら最先端のテクノロジーを先んじて活用し、課題に取り組んでいる。
DX人財育成にも10年以上前から取り組んでいるため、武富氏と同様の悩みを経験してきたというわけだ。
「ほかの会社はどうしているのか知りたいという思いも強かったので、非常に参考となりました。また、さまざまな会社が参加する対話型イベント『BluStellarラウンドテーブル』に参加し、他社も同じような悩みを持っていることがわかってよかったです。そのおかげで、その場にいたNECのコンサルタントに不安や疑問をぶつけることもできました」(武富氏)
そうしてさまざまな角度から壁打ちを繰り返すことで、要件が明確化し、「MDM(メイジデジタルマインド)人財育成プログラム」の開始につながった。
「壁打ちや『BluStellarラウンドテーブル』への参加を通じて、思い描いていた構想を整理することができました」(武富氏)
プログラムのベースとなったのはNECの伴走支援
「MDM人財育成プログラム」は明治独自のプログラムで、「デジタルスキル標準(DSS)」に準拠し、DX人財戦略の策定からDX文化の浸透までワンストップで提供するNECの「BluStellar Academy for DX」をベースに構築された。
カリキュラムをゴールド、シルバー、ブロンズと3段階に分けたほか、実践的なスキルを習得するためハンズオン型の研修に設定。さらに、学んだだけで終わりにならないよう研修の最後に必ず成果物を作成する仕組みに整えた。
NECのBluStellarビジネス開発統括部でリードDXラーニングコンサルタントを務める正時文氏は、「実践力強化を重視した伴走支援型プログラム」だと説明する。
![NEC 正時氏](/mwimgs/2/1/-/img_217bc4293185b066b438bbaabd08199a68582.jpg)
リードDXラーニングコンサルタント
正時 文氏
「『BluStellar Academy for DX』は、企業が抱える課題や困り事に合わせて柔軟にカスタマイズできます。その中でも業務における課題に対し、NECのコンサルタントが講師として伴走支援しながら解決策を導き出すことに注力しています。
学ぶだけにとどまらず、身の回りの業務改善に取り組めるような実践力がおのずと身に付く設計にしています」(正時氏)
課題に即した実践力が習得できるように、幅広いオプションも用意。武富氏は次のように語る。
「明治には部署が多数あるので、対応できないツールがないというのは魅力でした。例えば、IT系のハンズオン研修を多数展開しているグループ会社と連携して、ローコード開発ツールの操作が習得できるプログラムもご用意いただいています」
組織風土改革の第一歩につながるプログラム
それぞれの現場で直面している課題が解決できるとあって、「MDM人財育成プログラム」は第1期から大きな反響を呼ぶ。用意した人数枠を大幅に超える応募があったのだ。成功の要因について、水口氏は次のように分析する。
「並行して草の根活動を進めていたのが功を奏しました。『MDM人財育成プログラム』を開始する前から自前で準備して、月1、2回のペースでデジタルツールの研修をオンラインで開催するようにしたのです。興味を引くコンテンツ制作を心がけ、小まめに呼びかけを実施したことで、毎回400人から500人集まるようになりました」
NECの伴走支援によってDX活用に向けた機運の醸成が進み、プログラムへの参加者が増える。それだけでなく、参加者の意識も高まるため、成果も出やすくなる。まさに、将来的な風土改革に向けた好循環が生まれているのだ。
「『MDM人財育成プログラム』は3期まで終わりましたが、社員から、よりデータサイエンスなどの専門的なスキルを習得したいという声が上がっています。検討を進めていくうえで、今後も引き続きご提案をいただきたいです」(水口氏)
急速に変化するテクノロジーに対応するには、スキルを磨く仕組みも進化させる必要がある。「一度定めたプログラムを続けるのではなく、随時見直して必要なタイミングで迅速にアレンジすることを大切にしています」と西田氏が話すように、最先端のテクノロジーを常時キャッチアップすることが、より重要になっていく。
「まずは社内で実践する」というNECの考えの下、テクノロジーそのものだけではなく、いかにそれをビジネスで活用するかという知見を持つ人財を育成するプログラム。今後、その必要性はさらに高まっていきそうだ。