外資のイメージを覆す「グローカル企業」の正体 ビジネスモデルも組織も「サステナブル」を貫く
日本人がなじみやすい独自のカルチャー
「最初はものすごく戸惑いました」
2024年10月にジャパンカントリープレジデントに就任した青柳亮子氏は、シュナイダーエレクトリックに入社した2018年当時をこう振り返る。
外資系メーカーでキャリアを積んできた青柳氏にとって、仕事は「明確なプロセス」の下で行われるものだったが、シュナイダーエレクトリックは「誰に聞いても言うことが違った」のが理由だ。
ところが、半年くらい経つと、「あえてプロセスが固定されていない」ことがわかってくる。適切な提案でキーパーソンを巻き込めば、話がスムーズに進むのだ。手続きよりもスピードと質を優先しているのである。
「『それはこの人に聞いたほうがいい』といった社内のキーパーソン探しのネットワークづくりが非常に重要なんです。随時調整をしながら合意形成をしていくので、日本人にはなじみの深い雰囲気です。それに気づいてからは、やりやすくなりました。
一方で、必要なプロセスについてはこの6年で構築され、現在はバランスのよい体制となっています」(青柳氏)
だからといって、いわゆる派閥主義のような排他的なつながりではなく、他者の多様性を尊重するカルチャーが根付いているという。
「私がシュナイダーエレクトリックに転職した決め手でもありますが、たとえ海外法人勤務であっても、グローバルロールに就けるチャンスが平等にあります。実際、ボードメンバーの国籍や働いている地域は非常にバラエティーに富んでいます」(青柳氏)
フラットな組織を実感しているのは、青柳氏のようなトップマネジメントだけではない。
24年6月に日系メーカーから転職したセキュアパワー事業部 ビジネスディベロップメントリーダーの日下部優貴氏は、入社後に「大きなカルチャーショックを受けた」と話す。
「直属の上長がいるのに、いきなり頭越しにトップマネジメントに提案するメンバーがいて、本当に驚きました。上長も『聞いていないんだけど』と言いながらも許容しているんです。
もちろん、提案するからには結果を出さないといけないというプレッシャーもありますが、覚悟さえあればスピード重視で物事を進めていける環境があることを実感しました」(日下部氏)
「言いたいことが言える」のに個人主義ではない
日下部氏がカルチャーショックを受けたのは、前職で「もっと自分だけの裁量権で進められたら……」と悩んできたことの反動が大きい。ソフトウェアの製品企画に携わっていたが、連携戦略を考えるとどうしても部門間の壁がスピードの障害になることがあった。
「前職では、お客様の声が聞こえにくいことにも、もどかしさを感じていました。セールスやカスタマーサポートなどによって濾過されたフィードバックしか届かないので、むしろ社会との隔たりを感じていたんです。
はたして自分の仕事は社会に還元できているのだろうかという思いを強く持っていました」(日下部氏)
だから、シュナイダーエレクトリックの「Speak Up culture」な雰囲気は、“十分な呼吸ができる”ほどの解放感があった。
「ヒアリングがしたいと申し出ればセッションを設けてもらえますし、パートナー企業やディストリビューターも気兼ねなく意見を出してくれます。自分が関わる製品に対する生の声がこんなに響くんだと感じています」(日下部氏)
見逃せないのは、「言いたいことが言える」雰囲気がありつつ、個人主義に陥っていないところだ。「これまで持っていたいわゆる外資系企業のイメージとは違った」と日下部氏は話す。
「仲間意識がかなり強いと感じています。シュナイダーエレクトリックは多様な事業を展開していますが、一見関係なさそうでもそれぞれが何かしら関わっているんです。だからどんどん口を出しますし、助け合います。
細かいことでもためらわずに提案できる雰囲気が、『ほんの少しでも何かを変えよう』というイノベーションの源泉になっていると思います」(日下部氏)
取材時は入社してまだ5カ月しか経っていないという日下部氏も、すでにイノベーションを創出。担当する無停電電源装置(UPS)管理ソフトウェアの新版を国内向けに提供し、時間外運用停止の自動化やリモート管理によって顧客の運用コスト削減を実現している。
「ヒアリングから企画、ローンチまですべて主体的に関わることができるので、大きなやりがいを感じています。前職では限られた範囲の仕事を何年も続けていたため、成長や社会とのつながりを実感しにくく、自分の子どもの成長スピードを見て焦りを感じるほどでしたが、今は実感にあふれた毎日で本当に充実しています」(日下部氏)
現場の裁量権が大きい理由について、青柳氏はこう説明する。
「私たちが扱う電気機器や産業機器は標準規格が国ごとに異なることがほとんどで、ローカルの視点を重視しなければビジネスが成り立たない業界だったことも関係しています。社内では自分たちのことをグローバルとローカルを兼ね備えた『グローカルな企業』だとよく話しています」
全事業がサステナビリティにつながっている
グローバルで15万人を超える従業員を抱えながら、いわゆる“大企業病”に陥ることなくイノベーティブでいられる理由は何か。青柳氏は「アントレプレナーシップを持ち続けているから」だと説明する。
「2006年にCEOとなってから時価総額を約4倍に伸ばした現在の会長(ジャンパスカル・トリコワ氏)は、起業家マインドを持ち続けることが重要だと会議でもたびたび発言しています。
実際、トップライン(売上高)だけを評価する外資系企業も多い中で、シュナイダーエレクトリックはGM(グロスマージン:売上総利益)やCM(コントリビューションマージン:貢献利益)まで見るのがトップマネジメントの仕事です。入社前に『本当のPLマネジメントができる』と言われたのですが、それを痛感する日々です」(青柳氏)
PLは「損益計算書」と訳されるが、profit and loss(利益と損失)と考えると「PLマネジメント」が持つ意味の重さが伝わってくる。注目は、そうした収益にコミットするトリコワ会長のスタンスの下、約20年前からサステナビリティに取り組んでいる点だ。
「日本ではサステナビリティをコストと考える傾向がありますが、シュナイダーエレクトリックは明確にビジネスチャンスと捉えています。だから、すべての事業部がサステナビリティに関わっていますし、サステナビリティのKPIとして設定しているSSI(Schneider Sustainability Impact)は、経営陣のみならず従業員全員のインセンティブと連動しています」(青柳氏)
サステナビリティをビジネスと捉えているのは、取り組みへのスピード感を大切にするスタンスにも表れている。例えば、20年前から提供する電力使用を適切に制御するためのIoTプラットフォーム「EcoStruxure(エコストラクチャー)」は、他社製品との互換性をあえて確保。オープンイノベーションを積極的に推進してきた。
「シュナイダーエレクトリックは、『あらゆる人がエネルギーや資源を最大限活用することを可能にし、進歩と持続可能性を同時に実現することによってインパクトをもたらす』をパーパスとしています。
『Life Is On』とも表現しているこのパーパスを実現し、さらなるイノベーションやディスラプション(破壊的変革)を起こしていくため、ジェンダーや年齢だけでなく経歴や経験のダイバーシティーを推進していく必要があると考えています」(青柳氏)
だから、今まで以上に採用を強化していくと明かす青柳氏は、「変革をいとわず、チェンジエージェントになろうと考える人に、ぜひ飛び込んでほしい」と力を込める。
2024年2月には、新たなコアバリュー『IMPACT』をローンチ。IMPACTには、Inclusion・Mastery(専門技能)・Purpose・Action・Curiosity(好奇心)・Teamworkの6つが盛り込まれており、社員一人ひとりの評価もそれに基づいて行っている。
「自分のスキルや技術を高めるだけでなく、チームや部門を超えた協力を通じ、ぜひ大きな社会的“インパクト”を生み出していきましょう」(青柳氏)
不確実性の高まる現代社会で、変革に挑み、社会にインパクトをもたらす仕事のやりがいは大きい。成長をダイレクトに実感しやすく、社会への大きな挑戦に携わることのできるグローカルな組織こそ、真に働きやすい職場ではないだろうか。