投資の新天地として「ポルトガル」が今注目の理由 経済成長とサステナビリティの両立実現へ
欧州危機から劇的な回復。GDPも高成長を見せる
ポルトガル経済は現在、成長軌道の中にある。2022年には国内総生産(GDP)は6.7%増と、35年ぶりの高い伸びを記録。23年の名目GDPは約2780億ドル、24年は2870億ドルを超えると予想されている。長期国債格付け「A−」も獲得し、市場からの信任も得ている。
10年の欧州債務危機(ユーロ危機)の影響を受けていたポルトガルは11年、深刻な財政危機に直面し、政府は欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)から合計約780億ユーロ(約10.1兆円/当時)の支援を受けていた。
14年に金融支援から脱却するが、その後も事態が収束するまでは約10年を要している。しかし、それこそが契機となり、大きな転換を図った結果実りの時期を迎えようとしている。
再生可能エネルギー約8割
先進産業で躍進する
ではなぜ今ポルトガルは再び成長軌道に乗ったのか。その筆頭に、再生可能エネルギーをはじめとする先進産業の発展が挙げられると、在ポルトガル日本国大使の太田 誠氏は説明する。
「ポルトガルは、電力需要の約8割を再生可能エネルギーで補っています。水力、風力、太陽光、バイオマスとどれも力を入れています」
年間を通して暖かで穏やかな気候が、安定的な再生可能エネルギーの確保に有利であることはいうまでもないが、併せて人材育成にも力を入れ、ビジネスとしての成長を後押ししている。
とくに充実した語学教育の提供による英語をはじめとした多言語人材や、DXの成長も期待できる最先端技術系の理工人材も豊富だ。欧米の中では人件費においても競争力があり、海外企業の進出やスタートアップの成長も順調であることから、テックビジネスの中心地として“欧州のシリコンバレー”としても注目を集め始めている。
「地政学的な好条件も成長を支えています。海は英国との最古の軍事同盟もあり安定した大西洋の玄関口、陸はヨーロッパやユーラシア大陸へとつながっています。空もポルトガル語圏諸国共同体(CPLP)で連携するアフリカやブラジルなどへ直行便が飛んでいます」(太田大使)
1970年代の民主化以降、一貫した外交政治姿勢を取り海外企業による投資や共同事業など国際化が進展している。ただ、こうした環境を構築してきた芯には国民性が大きな力となっている。
「知り合うほどにラテン系特有の友好的な国民性と対話を重視する誠実さを併せ持っています。既存の産業の新基軸への転換や、ニッチ分野のスタートアップにおける成長にも目を見張ります。ポルトガル企業によく見られる、未経験への挑戦に積極的な姿勢は、大航海時代から続くものでしょう。長期的に安定したビジネス関係を築ける国際意識の高い国だと感じます」(太田大使)
スタートアップ続々台頭
既存産業にも新風吹く
海外からの投資誘致やポルトガル企業の国際進出支援などを行う公的政府機関ポルトガル投資貿易振興庁(以下、AICEP)のCEOリカルド・アロージャ氏は、こうしたポルトガル市場の成長に確信を持つ。
「代表的な産業は、食品、航空機・自動車などの機械工業関連、薬剤関連などですが、どれも循環型経済を大前提に事業を成長させています。有意義な海外投資の多かった20年ほど前から循環型経済の構築を視野に入れ、風力発電や太陽光発電など公共投資をしてきました。低コストで実現し、海外からの注目も高いという特徴があります」
長く根付いていた産業も循環型経済の視点で成長させた企業が多いのも印象的だ。その様子を、スタートアップのある経営者は、「既存の物事を、新たな視点から捉え直すこと」だと表現する。
例えば、欧州の製造で大きな割合を占める自動車部品などの機械工業関連は、その技術をさらに航空機、宇宙工学産業にも展開しつつある。
1999年に設立されたCEiiAは、スクーターや自転車の共有システムから電気自動車、無人飛行機、宇宙衛星開発までカーボンニュートラルなモビリティを通して持続可能な社会づくりに取り組む。
A4F algae for futureは、栄養価の高い食料源、バイオ燃料、医療や健康分野への応用などが期待される藻類研究開発の先駆的企業で、すでに世界中の注目を集めている。
世界最大級のコルク加工会社Amorim Cork Flooringは、コルク用途をワインの栓だけにとどめず、耐衝撃性や吸湿性などコルクの利点を生かし、建材や家具、飛行機の壁などへの活用に成功している。
どれもポルトガルが長く培ってきた技術や経験を土台としながらも、試行錯誤の末に革新的な飛躍を遂げているものばかりだ。
先端技術への投資促進でGDP向上への航路
こうした産業の成長を促進するため、AICEPは先端技術開発や研究所に対する投資の促進を図る。
「成長するには初期の試行錯誤とそのための投資が不可欠です。いったん資金が底に近づいたとしても、生産力が向上すれば初期投資を回収し再び上がることができる。私たちが目指すのは、この再び上がるスマイリー・カーブのグラフです」
さらに、業界や地域ごとの戦略を策定し、海外に発信。ポルトガルへの投資や共同開発に興味を持つ企業へとつないでいくことに力を入れていく予定だ。
「私たちの目標であるGDPの向上を達成するには、投資を呼び込まなければいけません。アジアに向かっていた投資がヨーロッパに戻りつつあるので、そこでポルトガルのプレゼンスを示していきたい。人財が豊かで、産業も技術も研究も世界トップレベルに近づきつつあるポルトガルを知っていただきたいです」
生命多様性も経済も育む
ブルーエコノミーの未来
最後にポルトガルの重要な市場の舞台である海に目を向けよう。海洋はポルトガル経済活動の中心であり、経済水域の広さはEU3位、世界20位。世界の経済水域の11%を保有している。
「海は、ただ生命を育むだけではなく、3つの側面を持つ空間だと私たちは考えています。生命多様性空間、経済活動の空間、そして投資の空間です」(アロージャ氏)
ポルトガルは、海洋資源を持続可能な利用をすることで、経済成長や雇用創出を図り、環境保護や生物多様性の保全を目指す「ブルーエコノミー」の実現に向けて、すでに走り出している。
来年、大阪で開催される2025年日本国際博覧会(EXP02025)のポルトガルパビリオンのテーマは、「海洋:青の対話」。
そして、その海は日本へとつながる。日本とポルトガルは、海と広く接する海洋国家という共通項がある。ポルトガルの循環型経済への取り組みの中でも、ブルーエコノミーについては日本の海洋活用にも示唆を与えるだろう。
「日本はポルトガルへの投資で、EU圏外の国として8位(同庁調べ)です。距離があるにもかかわらず、ポルトガルの優位性を理解している国の1つであることを示しています。とくに自動車産業、ビジネスセンター、建材、ゲーム分野、農産物、機械産業やケミカル、エネルギー産業への投資が盛んです。日本を代表する企業などとの共同事業も進んでいます。日本とポルトガルをつなぐ海を通した対話、そしてEXP02025で体感することでさらに日本との関係が深まることを期待しています」(アロージャ氏)
⇒ポルトガル投資貿易振興庁(AICEP)の詳細を見る
循環型社会づくりにビジネスから取り組むポルトガル企業
海洋の保全とサステナブルな活用を目的とした非営利組織。水槽のデザインにもこだわった欧州最大規模の水族館を通じ、ブルーエコノミー実現に向けた教育に尽力
グリーン水素開発をはじめとする、海藻や苔、藻を活用した医療、化粧品、食品、肥料、バイオ燃料の研究・開発を行う大規模施設を持つ
2017年創立したスタートアップ。廃棄物を最小限に抑える循環式養殖システムを開発。そのシステムで栄養価の高い魚コルビナ(イシモチ)の養殖に挑戦し、食料問題、海洋保全などに寄与
音を無数の点の移動でプログラミングすることにより、より立体的で躍動感のある音響の再現に成功したスタートアップ。ハリウッド映画などでも採用
7大学と通信系企業など産学連携のNPO研究所。研究予算1050万ユーロ(約17億円)をかけ、ITの技術開発とリサーチを行う。博士課程の学生を多く受け入れ、企業と共同で研究開発を行い、実用化にも貢献
伝統あるポルトガル繊維・衣料産業の発展を目的に、技術向上と開発に取り組むNPO組織。多様な実験設備で、商品の認証から新素材の開発、ITを活用したアパレル情報の透明化など欧州繊維業界のイノベーションを支える
カーボンニュートラルな社会づくりのためのソフトやサービス開発から電気自動車、ドローン、衛星までサステナブル・モビリティの開発と研究に取り組む
売上の90%以上を海外市場が占める、1870年設立のコルク加工企業。防音性や断熱効果、弾力性などコルクの利点を生かし、環境にやさしい建材などの用途開発に積極的