NXグループのDX推進を加速させた「重要な一手」 DXプロジェクトリーダー育成「5つの壁」解消法
グループの課題を解決するDXに「必要な視点」
物流は生活や経済を支える重要な社会インフラだ。しかし、少子高齢化や働き方の変化に伴い、物流業界の課題は山積みとなっている。いわゆる「2024年問題」によるトラックドライバー不足や、ECの急激な発展による荷物量の増加、サプライチェーンの高度化・複雑化にも対応していかなければならない。
そうした状況を踏まえ、日本の物流業界をリードするNXグループを統括するNIPPON EXPRESSホールディングス 執行役員の天白淳氏は次のように話す。
「デジタル化が急速に進む中で、新たな社会課題やこれまでになかったニーズが次々に生まれています。物流のあり方そのものの変革が求められる中で、DXはNXグループの重要課題を解決するためのエンジンの1つと位置づけています」
描いたのは、業務の効率化や既存事業の改善といった「守り」と、付加価値の創造を進める「攻め」を同時に進める両利きの「DX戦略」。これまでグループ各社で個別に進めてきたDXの取り組みを相互に連携させ、グループ価値の最大化を図るのが目的だ。
「まったく新しい取り組みですので、まずはグループ全体のDXで目指す姿を描き、そのために何をするべきかを洗い出していきました。そうやって『DXロードマップ』を策定する過程で、DXプロジェクトを担うリーダーの育成が急務だということに気づいたのです」(天白氏)
NXグループは日本通運を含む複数のグループ会社があり、従業員数は合計で7万8000名以上にも上る。大きな組織を横断する取り組みをどのように進めていったのか。DXプロジェクトリーダー育成に取り組んだDX推進部 次長の由井瑞穂氏はこう語る。
「NXグループにおけるDXや、DXプロジェクトを担うリーダーに求められるスキルについては、早くから定義づけを進めてきました。その定義を基にスピーディーに具体的な育成プログラムを構築するため、外部の知見をお借りすることにしました」
育成プログラムの根底にある「クライアントゼロ」の考え方
人材育成プログラムを展開する企業も含め10社以上の候補が挙がる中、選んだのはNECだった。その理由として由井氏は「当社の目的がNECから提案されたプログラムにしっかり反映されていたこと」を挙げる。
「人材の育成はあくまで手段であり、真の目的はグループ全体の変革です。変革をリードできる人材をどう育てるかが重要であり、スキルだけでなく考え方や姿勢まで体系的かつ実践的にトレーニングできるパートナーを探していました」(由井氏)
具体的にプログラムの概要を示したのが以下の図だ。DX推進における「5つの壁」をいかに解消するか、実践的に学べるようになっている。
このプログラムを提案したNEC 組織・人材変革デザイングループ長の笠井洋氏は、「いかに現場で実行できるようになるかを強く意識した」と話す。
「実際に変革ができなければ意味がないということを、これまでNEC自身が経験しています。変革を進めるうえで何が『壁』となるのか、他部門やグループ会社をいかに巻き込むかといったことを、われわれの経験を盛り込んで構成しました」(笠井氏)
NECは、自社をゼロ番目のクライアントとして先んじて課題に取り組む「クライアントゼロ」の考え方を重視している。DX人材の育成でも、自社で取り組んできた内容を基に、2021年から「BluStellar Academy for DX」を展開してきた。今回、NXグループに提供したのは、そのノウハウを生かした独自プログラム。明確な人材育成体系を策定するため、より細かくDXプロジェクトリーダーの人材タイプを定義する支援も行った。
このNECの支援について、由井氏は「人材タイプの定義をNECと共に実施したことで、客観的にNXグループに必要なDXプロジェクトリーダー像を考えることができた」と評価する。
「私たちに必要なDXプロジェクトリーダーに求められるものを考えるに当たり、NECの豊富な経験から意見がもらえてとても助かりました。また、全員にとって未知の領域の学びなので、絶対に参加者を孤立させないことが重要でした。そのため、主体的に参加できるワークショップや、個別にフォローアップする1on1をセットにするなどの工夫を行い、NECと共に解決することができました」(由井氏)
「クライアントゼロ」の考え方がもたらした価値
NECの伴走支援を受けたDXプロジェクトリーダー育成プログラムは、23年10月にスタート。最初は20名だったが、非常に評判がよかったことから規模を拡大。24年8月時点ですでに60名が修了しており、28年度末までに400名の育成を目指している。
実際にプログラムを受講したDX推進部 課長の牧信吾氏は「個々の参加者が進めているDXプロジェクトに、それまで気づかなかったさまざまな付加価値が見えてきた」と述べる。
「私は独自のBIツール開発を通じてNXグループ全体のDX案件の進捗を可視化するプロジェクトを担当していたのですが、さまざまな立ち位置のメンバーとグループワークを行う中で、活用のアイデアが次々に湧いてきました」(牧氏)
このグループワークで用いられたのが、参加者の担当するDXプロジェクトの全体像を描く「DXキャンバス」だ。育成プログラムの参加者は、それぞれのポジションでDXプロジェクトを担当しているメンバー。変革の内容や提供価値、競争優位性、コスト構造などを話し合うことで、現状の振り返りとブラッシュアップができる仕掛けとなっている。
「アイデアが独り善がりにならず、自分だけでは気づかないことに気づける有意義な時間でした。BIツールによるDX案件可視化は、当初DX推進部のみで展開する想定だったのですが、グループ各社のコミュニケーションツールにできそうな手応えをつかみました」(牧氏)
実は牧氏が主導したこの取り組みは、24年9月に始動している。グループ各社で展開されている約200件のDX案件の進捗状況や生産性向上効果、利益への貢献度などを一元的に把握できるようになったことで、タイムリーかつ効果的に先端技術の導入やグループ内への水平展開をすることが可能になった。※詳細は末尾
こうした成果は枚挙にいとまがない。育成プログラムを支援したNEC戦略・デザインコンサルティング統括部 シニアコンサルタントの三尾一矢氏によれば、参加者からは次のような声が寄せられているという。
「例えばDXキャンバスは、それぞれの現場でDXプロジェクトを伝える際に役立ったという声が多くありました。自分だけではない意見を聞くことで、効果的な言葉選びなど『伝え方』をブラッシュアップできたようです。
また、グループワークのメンバーを毎回入れ替えたのも好評で、『日常業務ではあまり知ることのできないほかの拠点や組織の取り組みを知った』『同じような取り組みをしている部門と実際に連携するきっかけとなり、“価値共創”を実感できた』といった声もいただいています」
部門間連携を通じて施策を加速
実際に他部門と交流することで、「部門間の壁」「まき直しの壁」の突破法を体験的に学べるDXプロジェクトリーダー育成プログラム。これを大きな組織の中で効果的に展開し続けるには、カギとなるステークホルダーをしっかり巻き込むことが欠かせない。NECは、自らの経験を踏まえその伴走支援にも力を注いだ。戦略・デザインコンサルティング統括部 シニアマネージャーの中田太平氏は、次のように説明する。
「組織内の横連携とよくいわれますが、一般的に社内やグループ会社内での部門間連携はそれほど行われるものではありません。そもそも一緒に仕事をする機会が少ないので、DX推進には各部門・グループ各社を適切に巻き込み、速やかな意思決定を促す必要があります」
研修を終えた参加者からは「各部門の文化の違いの理解や、物事を円滑に進めるためのコミュニケーションスキルの習得の重要性が分かった」「研修を通じて他部門のリーダーと関係を築くことができた」などのフィードバックが出ており、研修を通じて部門間の枠を超えた連携やプロジェクトメンバー間の関係構築が進むことが期待される。
今後、400名のDXプロジェクトリーダー育成を目指すということは、少なくとも400件以上のDXプロジェクトを走らせることを意味する。すなわち、それだけ新たな価値創造がなされるということだ。
「組織の枠を超えるのは、一般的にも大変な話です。NXグループは、2022年にホールディングス経営へ移行したことで、部門間連携が進んできましたが、大切なのは全体での取り組みを定型的に決めるよりも、DXプロジェクトリーダーが各部門やグループ各社、各拠点に分散してそれぞれが自律的に進めることで、顧客提供価値を進化させることです。それがロジスティクスを持続的に成長させ、収益性の向上につながると確信しています」(天白氏)
自律分散型で加速していくDX。前出のとおり、NXグループは、独自開発のBIツールでそれぞれの進捗を可視化でき、相互連携もしやすい仕組みをすでに整えている。そうした環境下で、全体を俯瞰し、課題を抽出して解決のための構想を描く力を持つDXプロジェクトリーダーの存在感がさらに増すのは間違いない。DX推進を加速させるこのプロセスは、とりわけ大きな組織で参考になる事例だといえそうだ。
お客様を未来に導く、NECの価値創造モデル「BluStellar」
NXグループ、BIツール導入でDXの推進を加速 ~約200件のDX案件を可視化、業務効率化と事業の競争力を強化~ | NIPPON EXPRESSホールディングス