日本企業は倫理資本主義を実践できるのか? エシックス(倫理)と資本主義を考える(3)
ガブリエル:日本は私のロールモデルとなりました。10年にわたってこれほど頻繁に日本を訪れていなかったなら、私は今のような倫理資本主義の擁護者になっていなかったと思います。
日本に必要なのはリノベーション
1990年代以降、経済ショックが起こり、日本はゆっくりと衰退しているという危機意識が広まっていますが、私は日本とその歴史を見る中で、倫理資本主義的であることは1つの選択肢だと確信しました。アングロサクソン流になろうとすれば、衰退につながります。
日本に必要なのは、リノベーション(刷新)です。リノベーションには常にイノベーションが伴います。現代科学の知見に照らして根本的に現代化することによって、伝統的な慣習による考え方を刷新するのです。
神道や仏教といった宗教をはじめとする知的伝統、ソフトパワーの強み、建築、美学、世界の人々が興味を持つ日本製品、日本企業が生産した製品でなくてもよいのですが、そうした日本らしい要素を活かしてみてはいかがでしょうか。現代の科学や哲学における最高の知的水準まで倫理観を刷新して、次のレベルに引き上げる。さらに、日本の老舗企業のようにいろいろなものと融合させるのです。
私がいつも引き合いに出すのが、京都で花札製造から始まった任天堂の事例です。任天堂は常に新しい環境に適応し、直近の新型コロナウイルスによるパンデミックで大復活を遂げました。ロックダウンのときにはみんながゲームをしたので、勝ち組企業となったのです。
遠い昔に終わったものへの回帰ではなく、今も残っているものを現代化して刷新する。これからの日本の利益は、そこにあるのだろうと思います。これはアメリカナイズでは絶対にうまくいきません。
名和:日本には果たすべき役割があり、新しい方法で伝統的な考え方に立ち返ることができるというご見解は心強いですね。私たち日本人は自分たちがしていることをうまく伝えるのが苦手です。任天堂のゲームを輸出するのはいいことですが、その裏には思想がある。