デザイン思考で突破する「中堅リーダー育成」の壁 工作機械大手オークマが挑む、企業変革の軌跡

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NEC×オークマ集合写真
社会情勢が目まぐるしく変化する中で、製造業には品質の高さだけでなく高度な課題解決力が求められるようになってきた。しかし、品質の高さを実現するために築き上げた組織のカルチャーは、必ずしも変化に対応できるとは限らない。柔軟かつ自由な発想を生み出せる組織へと変革するため、工作機械大手のオークマがNECの伴走支援を受けて取り組んでいるのが、中堅メンバーの育成だ。人材育成のパートナーにNECを選んだ理由、そしてどのような成果が出ているのか、両社のキーパーソンに話を聞いた。

「真面目なメーカー」がカルチャー変革を目指した理由

ものづくりの伝統を守りながら、時代に適合した組織への変革を目指す。

多くのメーカーが直面する課題でありながら、変革への道筋をどうつけるべきか、試行錯誤を繰り返す企業も少なくないだろう。

NC装置を自社開発する、世界的な総合工作機械メーカーであるオークマも、そんな企業の1つだった。2023年に、人材サービス企業から管理本部 人づくり革新担当部長(当時)として入社した執行役員の野﨑あゆみ氏は次のように話す。

オークマ・野崎氏
オークマ
執行役員 CHRO
野﨑 あゆみ

「社長をはじめとした経営陣には、『カルチャーを変えていきたい』という強い思いがありました。「『ものづくりサービス』の力で、社会に貢献する」というパーパスを実現し、これまでの生産財メーカーから会社を変えていくには、お客様の潜在的なニーズや課題を抽出することが求められます。そんなカルチャーへ組織を変えていかないと、事業そのものを変えることは難しいという危機感がありました」

オークマのコアコンピタンスは「実学主義」と「研究実践主義」。「あるべきもので、ないものは創る」という、独創的な技術を愚直に追求する精神を大切にしてきた。しかし、そうした真面目・愚直さといったカルチャーだけでは、大きな変革へのステップに進むことは難易度が高い。

「愚直に技術を追求する姿勢は当社の強みでもありますが、『それはうちのセクションができる仕事ではない』と頭から決めつけてしまったり、お客様の潜在的な課題を無意識に横に置いてしまうなど、新しい発想がどうしても出にくい環境になりがちです。そういうカルチャーを変えていくための環境づくりとして、まずいろいろなことを自由に考えられるリーダーを育成したいと考えました」(野﨑氏)

V字回復を果たしたNECの変革経験をフル活用

興味深いのは、組織変革の定石ともいえる「上から」ではなく、30代前半~40歳前後の中堅層を対象としたことだ。

「当初は部長クラスを対象にしようと考えましたが、上の立場にいると、無用な軋轢を生む可能性もあります。それならば、変わっても周囲に許容されやすく、しかも大きく変わるポテンシャルを持っている中堅層にアプローチしたほうが、より組織へのインパクトがあると思ったのです」(野﨑氏)

高品質な製品を長年にわたり供給し続けてきたのは、迅速な意思決定と一体化された組織の賜物だろう。ただし、一歩間違えると指示される側は受け身になってしまう。自ら意思決定を下す経験をしないまま、キャリアを積み重ねていくデメリットは大きいと野﨑氏は懸念した。

「だから、受け身になりがちな研修ではなく、自ら発言しないと進まないワークショップをやろうと考えました。とにかく『圧倒的な当事者意識』を持って、事業の未来を創るのは自分たちだと気づいてほしかったのです。『それは社長や経営層が考えること』と、ひとごとに捉えがちな意識を変えたいと思いました」(野﨑氏)

その考えを念頭に、当初は野﨑氏も人材育成を専門とする研修企業の支援を受けようとした。ところが、実際に複数社を比較検討した段階で考えを大きく変える。それはNEC自身が取り組んだカルチャー変革の話を聞いたことがきっかけだった。

「役員向けのオフサイトミーティングを通じて、NECという巨体を変えていった話が強く印象に残りました。一時期株価が100円を切るまで下がった状態からV字回復を果たすほど、役員を本気にさせるアプローチだったのだろうと感じたのです。同じ体験を、オークマのメンバーにもしてもらいたいと思いました」(野﨑氏)

「未来を可視化」に悩む。自由な発想への課題

相談を受けたNECが、野﨑氏とともに企画したのが「“創る”ワークショップ」。約半年をかけ、各部署から集めた27名を対象に合計4日間実施した。全体のファシリテーターを務めたNECのカルチャー変革エバンジェリスト、森田健氏はその内容を次のように説明する。

NEC・森田氏
NEC
ピープル&カルチャー部門 兼 コンサルティングサービス事業部門
ビジネスアプリケーションサービス統括部
カルチャー変革エバンジェリスト
森田 健

「野﨑さんからは、『圧倒的な当事者意識』というキーワードと、『事業の未来を創る、仲間を創る、自身のキャリアを創る』というコンセプトをいただいていました。それをベースにプログラムを構成しました」

Day1のテーマは「現在のオークマを可視化する」。これはスムーズに進んだ。

「今の事業に関しては、やはり皆さんプロフェッショナルであることがわかりました。ビジネスモデルキャンバスを使用したのですが、非常に楽しそうで、かつ書き込む内容も発言もレベルが高く、それぞれ自社に誇りを持って仕事をされていることが伝わってきました」(森田氏)

ところが、Day2の「未来のオークマを可視化する」でつまずく。Day1と同様にビジネスモデルキャンバスを使うが、「ほぼ全員がフリーズした」と野﨑氏は振り返る。

「作った内容を見ても、今のビジネスモデルに『コンサル』と書き添えるだけなど、新しいことを考えたことがないがゆえの戸惑いが見られました。Day3をどうすればいいか頭を抱えました」(野﨑氏)

突破のカギになった「デザイン思考」の導入

その様子を見たチームは、当初Day2をさらに掘り下げる予定だったDay3のプログラムを急遽変更した。その手がかりとなったのは、NEC自身の経験だったと森田氏は明かす。

「役員とミーティングを繰り返したときも、同じように壁に当たったことを思い出しました。そのとき実施したのが、デザイン思考のワークショップだったのです」(森田氏)

ミッションクリティカルな課題に取り組んできたNECでは、1980年代から多様なデザインアプローチに取り組み、デザイン思考のスペシャルチームも設置している。その一員として活躍しているFuture Creation Design ディレクターの町田正史氏が「“創る”ワークショップ」の支援に加わり、Day3・Day4のプログラムに携わった。

NEC・町田氏
NEC
コンサルティングサービス事業部門
戦略・デザインコンサルティング統括部
Future Creation Design ディレクター
町田 正史

「Day1、Day2と異なり、オークマの製造現場を直接見て、どういう課題があるかを抽出してもらいました。自社なので実際には顧客ではありませんが、工場の現場でどんな困り事があるかを拾っていったんです」(町田氏)

すると、Day2の暗かった雰囲気が嘘のように、参加者は前向きに動き、積極的な提案が相次いだ。

「受講者の発表では、従来のモノ売りではないコト化したサービスが多く出てきました。Day2の段階では『ものづくりサービス』のイメージがつかなかったのだと思いますが、実は、彼らは普段から顧客のことをしっかり見ているということがわかりました。潜在的なポテンシャルを開放するのに、デザイン思考の手法がぴったりはまったようです」(町田氏)

Day3の様子。工場の現場がどんな課題を抱えているか、受講者自身の目で確かめるプログラム

「圧倒的当事者意識」の発露につながるフィードバック

最後のDay4は、NEC本社で実施。Day3で見つけた課題をビジネスモデルにし、価格をつけてプレゼンテーションをするピッチスタイルだった。これまでのプログラムをベースに内容を考える想定だったが、参加者は自発的に実際の顧客と接して『本当に自分たちが見つけた課題があるのか』『考えたサービスを導入する余地はあるか』『いくらくらいなら導入するか』を確認し、プレゼンテーションの内容に落とし込んでいた。

Day4の様子。Day1~3のプログラムを踏まえて、顧客へのプレゼンテーションを検討する受講者。

「積極性に驚きつつも、これまでのプログラム内容をビジネスに生かしたいという姿勢が見られ、ワークショップの効果を実感できましたね。Day4のプレゼンテーションは、それをまとめて発表する際には、ビジネスのリアルな反応を体験いただくため、NECの事業責任者にも参加してもらいました」(森田氏)

このフィードバックは、参加者にとって、とてつもなく大きなインパクトがあったようだ。ピッチを見守っていた野﨑氏は次のように語る。

「顧客価値を高めるために何が欠けているか、必要なポイントは何かといったことを非常にわかりやすく、かつシビアにフィードバックしていただきました。当社の社員はそういうやり取りに慣れていないので、どう受け止められているか一瞬不安になりましたが、みんなが驚くほど真剣なまなざしでフィードバックをくださる責任者の方々を見つめ、自分たちの成長を応援してもらえることにワクワクしながら聞いてくれていたんです」(野﨑氏)

フィードバックを通じて、プレゼン内容をビジネスに落とし込んだ際にどのような点を改善すべきなのか、多くの気づきがあったようだ

中には、「どうしたらそういう指摘やアドバイスができるようになるんですか?」とストレートに事業責任者に質問をぶつけた社員もいた。まさに「圧倒的当事者意識」の発露であり、野﨑氏も「ワークショップの効果は大きく、この機会を体験できた彼らの成長への期待は非常に大きい」と話す。

「NECはDay2のつまずきを踏まえて、プログラムをとても柔軟にかつ最適な形で変更してくれました。またプログラムを通じて、改めて社員のポテンシャルの高さにも気づくことができました。NECが実際にカルチャー変革を成し遂げた経験はやはり強く、実際に人を変えていく影響力がものすごいと感じましたね」(野﨑氏)

ワークショップを通じて感じた「変化の萌芽」

ワークショップ集合写真
Day4終了後の一枚

「“創る”ワークショップ」は3年計画での継続が決定している。「変えることに抵抗を持たないリーダー集団の形成」をさらに進めていく予定だ。

「現在の対象は、管理職になる前の次世代リーダー層なのですが、すでに課長職になった社員たちから『自分も受けたい』という声ももらっています。まだこれから取り組むべきことは多いですが、カルチャーが変わっていく萌芽が感じられますので、対象を広げて変革のうねりにつなげていくことも検討中です」(野﨑氏)

時代の変化に伴い、従来のビジネスモデルからの変革が求められる現在。とりわけ品質の高さが求められるメーカーの場合、業務プロセスやそれを支える組織、人材にも変革が求められる。

「変えたくても変えられない」、そんなジレンマを持つ企業にとってはなおさらだろう。自社の変革経験をフルに生かし、潜在的なポテンシャルを引き出すNECの伴走支援は、そんな難題に解決の道筋を示すものといえそうだ。

ワークショップを受けた社員の声

アイデアへの共感が、ポジティブな気持ちを促した

オークマ・近藤氏
情報システム部
近藤 真人

情報システムを通じて各部門と接していたものの、ワークショップに参加して、各部門のメンバーが考えていることがわかったのはとても新鮮でした。Day2のテーマが「オークマの未来」と聞いたときは、どう考えたらいいかわからず苦しかったのですが、Day3で製造現場に行ってみんなで話し合っていると、共感できる部分がたくさん出てきました。

Day4のフィードバックにも非常に刺激を受けましたし、本当に「オークマのものづくりサービス」が実現できそうな可能性を感じましたね。情報システムからも新たな提案ができそうな手応えがありましたので、積極的にチャレンジしていきたいと思います。

自由に話せる仲間が増え、DX推進の知恵も獲得

オークマ・秋元氏
商品開発部
デザインアーキテクチャ開発課
秋元 あゆみ

新機種の開発が主業務のため、新しいアイデアは日常的に考えてはいました。でも、自部門だけで考えているので、広がりに欠けるという課題感があったんです。ですから、ワークショップで社内の他部門の人たちと接したことで、共に新たなものを生み出そうと考える仲間が一気に増えたのは大きな喜びでした。

新たなビジネスモデルも、私は自分なりにいろいろ考えるのが好きだったのですが、アイデアが浮かんでもなかなか話せなかったんです。そういう話ができる仲間ができたこと、社内で話してもいいんだと思えたことは私の中で大きかったですね。

製品だけでなく、サービス化の提案イメージが湧くように

オークマ・永島氏
営業本部 大阪支店 明石営業所
永島 祥平

これまでオークマの強みはいろいろな人から聞いてきたのですが、足りないもの、やっていないことは何かを考える機会はありませんでしたし、「これはオークマでやることじゃないから外部に依頼しよう」と考えがちでした。

でも、Day3で現場に足を運び、NECさんに「今ある課題を見つけてみましょう」とファシリテートしてもらったことで、製品だけでなくサービス化して提案するイメージができるようになりました。今回生まれた他部署とのネットワークを生かしながら、社外での新たな繋がりにも敏感にアンテナを張って、営業活動を進化させていきたいと思います。

お客様を未来に導く、NECの価値創造モデル「BluStellar」