エレクトロニクス企業「ダイトロン」の成長戦略 「DX」の大きな波がもたらす"新たな潮流"とは?
2000年代中頃から、世界的に提唱された「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」。「2025年の崖」問題に代表される日本の「デジタル途上国への転落」への危惧と、コロナ禍を受けて大きく進んだデジタル化により、「DX」の2文字を毎日のように目にするようになった。
その主軸を担うエレクトロニクス業界では、主な商材の1つである半導体における「2024年問題」が懸念されており、同年には供給過剰に陥ると見られていた。しかし今年7月に国際半導体製造装置材料協会(SEMI)が発表した世界半導体製造装置(新品)の24年央市場予測によると、24年の売上高は、過去最高の規模となる見込み。25年も市場は続伸する見通しだ。DX化が進むとともに、半導体や関連装置分野を中心とした、エレクトロニクス業界の重要性はいっそう増していくことが予想される。
同業界で、高水準の企画開発力とマーケティング力、製造技術力が評価されている技術立社、ダイトロン。第9次・第10次中期経営計画期間における売り上げ、利益はいずれも過去最高実績を更新しており、第11次中期経営計画の中で、長期ビジョンの定量目標の数字を上方修正し、国内外拠点のさらなる拡大に乗り出している。
今回は、これからの社会におけるエレクトロニクス業界の位置づけや同グループの目指す方向性を土屋伸介代表取締役社長に、人的資本経営やその基盤を毛利肇代表取締役専務に話を聞いた。
DXの大きな波を受けエレクトロニクス業界は一段と存在感を増す
DXという言葉が以前にも増して身近になり、AIの活用が日常化した現代。今後もDXがさまざまな分野や企業で進展し、相互に刺激を与えることで、進化のスピードはさらに増していくことが予想される。それに伴い、デジタル技術の進歩も加速度的に進むだろう。
土屋伸介氏は「最新技術を使いこなすのは若者だけという考えはすでに過去のものです。今では年齢やバックグラウンドにかかわらず、誰もが技術を適切に活用できる時代が到来しています。今後、こうした動きが加速し、より多くの人々がDXの恩恵を享受できる社会となるでしょう」と語る。
また、半導体をはじめとする電子機器・デジタルメディア・周辺機器への需要は今後も拡大が見込まれる。とくに、AI・半導体・IoTといった分野に加えて、データセンター・通信技術・オプトエレクトロニクス※などといったキーワードにまつわる領域が急速に成長していくだろう。こうした動向を受け、エレクトロニクス業界の影響力はいっそう強まってきている。
製造×販売の相互作用で業界内で独自のポジションを確立
エレクトロニクス業界において、とくに電子部品やモジュールの提供、半導体製造装置およびその周辺機器で強いプレゼンスを持つダイトロン。「グループの強みは、製造(メーカー機能)と販売(商社機能)の両方を兼ね備えた『製販融合』。この独自のビジネスモデルには、創業者である髙本善四郎の思いが深く反映されています。彼は1952年に電子機器の卸会社としてダイトロンを創業しましたが、早い段階で『技術力がなければ企業としての成長や継続は難しい』との認識に至り、メーカー機能の強化に注力してきました」と土屋氏は語る。
さまざまな顧客との対話を通じ、商社として取り扱う他社製品では対応できないニーズに直面するたびに、自社技術を用いて試行錯誤を重ねてきた。この経験が、単なる商社ではなく、技術開発や製品開発を併せ持つ企業へと進化するきっかけとなり、製造と販売の相乗効果を最大化する現在のビジネスモデルへとつながっている。同グループは、オリジナル製品を活用して顧客ニーズへの対応力を高める一方、他社製品を含む豊富なラインナップにより、商社としての提案力を維持しているのだ。
2021年に社長に就任した土屋氏が掲げているスローガン「技術立社」=「技術で立つ会社」からも、技術力をいかに重視しているかがうかがえる。また、24年1月にスタートした第11次中期経営計画では、国内で確立した製販融合モデルを海外拠点にも展開し、さらなる成長領域の拡大を目指す。これにより、グローバル市場において新たな価値の共創を推進する計画である。
海外マーケットの開拓と現場力の向上で過去最高実績を連続更新
ダイトロンは、社会の変化に対応しながら、メーカー機能として確かな技術力を持つD&Pカンパニーと、商社機能を持つM&Sカンパニーおよび海外事業本部といった各組織の連携を武器に業界を牽引してきた。第9次・第10次中期経営計画では、売り上げ・利益ともに過去最高を記録し、24年からの第11次中期経営計画では目標数値をさらに上方修正。長期目標である連結売上高1000億円も十分に射程圏内にある。
「コロナ禍による巣ごもり需要やデジタル需要の増加に加え、グローバル化に伴う市場拡大や各部門の現場力向上が、業績向上の主な要因です」と土屋氏は述べる。北米やアジアでの強固な拠点に加え、23年4月にはオランダに欧州初の現地法人を設立。今後、各地域でのさらなる市場拡大が期待されている。それぞれの顧客ニーズに合った自社製品開発も積極的に進める考えとのことだ。
次なる目標は連結売上高1000億円の先。社内外の改革を進めながら着実に発展を重ねる
ダイトロングループは、社会の流れを味方につけながら独自の強みを生かして順調に成長してきた。土屋氏が目指すのは、連結売上高1000億円達成後の次のビジョン。資金面の安定的な基盤を築き、次の段階へと進む計画だ。「ハードウェアに加え、ソフトウェアの自社開発を進めてラインナップを充実させることで、ハードとソフトの両面でサービスを提供する環境を整えます。また、海外市場での売上高を全体の50%近くまで引き上げることを目標に、グローバル市場での躍進をいっそう推し進める方針です」と土屋氏は語る。
一方で、規模が拡大しても、創業以来、お客様一人ひとりに対して真摯かつ誠実に向き合い、目の前の課題を解決していく姿勢を貫く同グループ。土屋氏は「順調なときこそ、地に足を着け、堅実で確実な進歩を」と熱く語る。ダイトロンの今後に対する期待が高まる。
70年を超えて受け継がれてきたベンチャー精神でVUCA時代へ挑戦する
日々変化するエレクトロニクス業界においても、必要とされる人材の性質は他の業界と共通している。同社専務の毛利肇氏は、「不確実な社会状況だからこそ、変化する経営環境に対応するための情報収集能力、新たな発想やチャレンジ精神を求められる」と述べる。
ダイトロンの人材の強みは、各社員がすでにスキルを備えていることはもとより、研修を通じて社員一人ひとりにベンチャー精神(=ダイトロンスピリッツ)が根付いている点にある。この精神は企業文化として受け継がれており、若手の挑戦を支援する社風が定着している。毛利氏は、「私自身も入社以来、やりたいことに取り組ませていただきました。だからこそ、若手の意見にも耳を傾けたい」と語る。
また、同グループの成長を支える高い現場力も、ダイトロンスピリッツと企業理念「きびしい仕事 ゆたかな生活」つまり、就業時間中に手を抜かず、自分の仕事に全力を尽くす「きびしい仕事」と、業績の向上に応じて報酬を増やし、社員や株主などのステークホルダーに平等に還元する「ゆたかな生活」に由来するものだ。創業当初よりワーク・ライフ・バランスの強化に努めてきたからこそ、一人ひとりが高いパフォーマンスを発揮できる企業風土が形成された。
「一人の百歩より百人の一歩」全社員で同じ方向へ進んでいく
「社員はとても真面目であり、当社にはチームワークを重視する風土が根付いています。『一人の百歩より百人の一歩』の精神で、個々の卓越した才能による急進的な進歩よりも、全社員が協力しながら少しずつ確実に前進することを重視しています」と毛利氏は語る。同グループは人的資本経営に注力しており、研修・教育のために多額の予算を確保している。各社員の個人スキル、専門スキル、グローバル対応スキルの3つの観点から能力向上を目指し、研修制度を充実させる方針だ。
また、DEI(多様性・公平性・包括性)の推進にも注力しており、女性の管理職比率の向上、シニア層に対する人事制度の改革、障害者雇用のフォローアップ体制の確立などを中心に取り組んでいる。社内DXも人的資本経営の重要な柱の1つ。システムにおける作業効率の向上およびリプレースも進行中だ。現行システムの課題を洗い出し、現場の効率化に努めるとともに、DX認定の取得も視野に入れながら、時代の一歩先を見据えた経営管理のあり方を模索している。
個々人に適した研修と広報への注力でさらなる人材の強化を目指す
「『企業は人なり』という言葉のとおり、企業の成長には人材が必要不可欠。どれほど優れた仕組みがあっても、実践する人材によって結果は大きく変わります」と熱く語る毛利氏。今後も、ブランド力や知名度の向上に努め、採用活動においては、より多くの人材との接点を増やしていきたい考えだ。
組織全体の一体感を高める工夫として、企業文化を知る場を設けるとともに、トップとのコミュニケーションの機会を提供している。創業以来の理念を胸に、社内外の改革を着実に進めるダイトロン。エレクトロニクス業界におけるさらなるプレゼンスの向上が期待される。