ナレッジワーカーを強化する生成AIの活用とは 企業の競争力を高めるAIエージェントの開発

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生成AIの目覚ましい進化は、ナレッジワーカー(知識労働者)の業務プロセスに変革をもたらし、未来の「働き方」を大きく変えていくだろう(画像:Getty Images)
生成AIをいかに効果的に利活用できるかが、国際競争力を大きく左右する時代となった。そのカギになるのが、ナレッジワーカー(知識労働者)の能力を引き出す生成AIツールの開発である。生成AIがどんな進化を遂げようとも、ナレッジワーカーの価値創造の力が、国や企業の競争力を決定づけることは変わらないからだ。「ララサポ®」事業を中心に、三菱総合研究所(MRI)が描く生成AI活用の未来像と、そこに向けて開発が進むツールやサービスについて、MRIの研究員に話を聞いた。

生成AIの進化とナレッジワーカーの未来

2022年秋以降、高度なチャットボットや画像生成AIが次々にリリースされ、生成AIは一気に本格的な普及期に突入しました。生成AIは、単に業務の効率化や日常生活の利便性向上に資するだけのデジタルツールではありません。国や企業の国際競争力を決定づけ、世界の産業構造や市場のルールなどを根底から変えていくようなゲームチェンジテクノロジーだと考えられます。

しかし日本国内に目を向けると、企業の生成AIの利活用はまだ限定的です。MRIが行った生成AI活用に関するアンケート調査(2024年)を見ると、生成AIの活用意向は高いのですが、実際に仕事に活用している割合は25.5%にとどまっています(図1)。セキュリティや著作権リスクなどに対する懸念から、利用禁止としている企業も少なくありません。

図1 仕事における生成AIの活用状況

MRIは2023年6月、虚偽情報・機密情報の漏洩リスク・法的リスクなどに配慮しながら、企業の競争力強化・価値創造に貢献する生成AI活用のトータル・サポート・サービスを開始しました。それが「ララサポ®(LArge LAnguage model SUPPOrt)」です。

ララサポのサービスが最も重視しているのは、企業の価値創造に重要な役割を果たす「ナレッジワーカー」の業務効率化や価値創造活動に向けた総合的な支援です。MRIが日本の人材ポートフォリオを分析したところ、図2に示したように、「創造性」と「分析的思考」を要求される業務領域(図中の右上の象限)の就業者数は全体の17%で、欧米(アメリカ25%、イギリス39%)に比べて明らかに少ないことがわかりました。この領域に位置する人々こそが「ナレッジワーカー」であり、具体的には経営職や企画職、営業職、専門・技術職などが該当します。

図2 日本の人材ポートフォリオ(2020年)

生成AIの進化のスピードは目覚ましく、今後どのような革新的技術・サービスが登場してくるのか、予見することは困難です。しかしどんな未来が訪れても、ナレッジワーカーが企業の価値創造の源泉を担う人材であることは変わりません。労働力の減少が顕著に進む日本が、国際競争力を維持・強化していくためにも、ナレッジワーカーの拡充とパフォーマンス向上は不可欠です。

これまでのAI技術は定型業務の効率化・自動化への貢献が中心で、非定型業務への活用は、作業的な性格の強いものを中心に限定的でした。しかし生成AIの登場により、非定型業務のうち従来は難しかった創造性や分析的思考が求められる領域のものにも、幅広くAI技術が適用できることが明らかになりました。また生成AIによって、ナレッジワーカーへの転身・リスキリングは容易になり、ナレッジワーカーの拡充も可能になってきます。これらを踏まえ、MRIはナレッジワーカーの業務を支援するさまざまな生成AIソリューションを提供しています。

独自の生成AIツールはシンクタンクDXの成果

MRIがララサポのサービスメニューとして提供している生成AIツールには、次のようなものがあります。

2023年4月にリリースされた「ロボリサ®」は、既存の生成AIの言語生成技術に誤情報検出の手法を組み合わせ、情報収集からレポート作成までの一連の作業を自動化したWebサーベイAIツールです。ご存じのとおり言語系生成AIは、誤った情報があたかも事実であるかのような文章を生成してしまうリスクがあります。そこでロボリサでは、情報源と回答との整合性を自動的に照合し、誤情報を検出する独自技術を採用しました。MRI内の実証で、情報収集作業に要する時間を8割程度削減することに成功。そのうえで外部企業への提供を開始し、すでに多くの利用実績があります。

2024年7月には、Web調査レポートを自動生成するAIツール「ベビリサ」のデモサイトを無償公開しています。ロボリサが、決まったテーマについて定点的に情報を収集・分析し、レポートにまとめるツールであるのに対し、ベビリサは組織の意思決定に必要な「調査業務」を幅広く支援することを目的としたツールです。利用者が調査の背景や目的を入力するだけで、ベビリサが自動的に論点を整理し、調査すべき内容をリストアップして、調査計画を提案してくれます。こちらもMRI内での実証の結果、一般的な調査業務に要する時間を約3割も削減できることが明らかになっていたものです。

このほかにもMRIは、アンケート自由回答を高精度に分類し意見集約を補助するツールや、AIと対話しながら提案書の草稿を作成できるツール、問い合わせに対し、既存のFAQ(よくある質問)に加え、業務マニュアルや過去の問い合わせログを基に最適な回答を自動生成するツールなど、ナレッジワーカー向けのさまざまな生成AIツールを開発し、外部企業にも提供しています(図3)。

図3 MRIが提供するナレッジワーカー向け生成AIツール

これらに共通するのは、すべてMRIが、シンクタンク・コンサルティング事業での社内業務を支援するツールとして開発し、実業務で利用しているということです。MRIは2020年策定の中期経営計画で「シンクタンクDX®」を掲げ、最新のデジタル技術を業界に先駆けて取り込むことで、シンクタンク・コンサルティング事業の効率化、および提供価値の向上に取り組んできました。さらに、2023年10月には「生成AIラボ」を設立。シンクタンクDXをさらに加速させるべく、生成AIを社内で積極的に活用し、有効な活用法と、安全性やリスクに関する研究を進めてきました。ロボリサ、ベビリサなどのAIツールは、いずれもシンクタンクDXへの挑戦の中で生まれたものなのです。

繰り返しになりますが、情報セキュリティや著作権リスクなどへの懸念から、生成AI活用を躊躇する日本企業が多いという現状があります。さまざまな業務の中で実際に使ってみなければ、生成AIに起因する課題の本質を理解することも、対処法を導くこともできないかもしれません。そこからMRIは、自社が先進的に生成AIを取り入れることで、早期に課題に直面し、その対処をはじめリスクを含めた経験を積むことが重要だと考えるに至りました。ナレッジワーカーである研究員自らが開発し、実業務を通じてその実効性と課題を検証したツールだからこそ、自信を持って外部に提供していくことができるというわけです。

AIエージェントが日本を強くする

今後MRIが目指すのは、ララサポのラインナップをベースに、ナレッジワーカーの業務をより強力にサポートしてくれる「AIエージェント」を開発していくことです。

生成AIは極めて汎用性の高い技術で、情報検索・整理やアイデア生成、レポート作成、ソフトウェアのコード生成、実験計画の作成、シミュレーション支援など、あらゆるタスクをこなすことができます。AIエージェントは、複数のAIツールの機能を有機的に結び付け、人間が基本的なテーマや指令を与えるだけで、AIが自ら戦略を練り、最適な分析手法を用いて考え、複雑な課題を解いていくようなシステムを指します。

例えば何らかの分析をしたい場合、人間が「何を分析するか?」について指示を与えると、AIが分析計画を作成し、必要なデータベースや最適な分析手法を決定します。続いて分析用コードを生成し、バグなどがあれば自ら検出・修正したうえで、分析を実行し、さらにレポーティングまでを行ってくれます(図4)。

このようなAIエージェントを生み出すことで、研究開発計画の策定やマーケティング企画の提案など、ナレッジワーカーが日常的に取り組むさまざまな業務プロセス全体を自動化することができます。

図4 何かを分析する「AIエージェント」の動作

実効性の高いAIエージェントを開発するためには、生成AIに関する知見だけでなく、分析調査や研究開発計画、マーケティング企画などの目的ごとに必要な業務プロセスを熟知し、それにふさわしい生成AIの活用フローを構想・設計する能力が求められます。それはまさにMRIが、シンクタンク・コンサルティング事業の豊富な実績を通じて培ってきたものであり、他社にまねのできない優れたAIエージェントが生み出せると自負しています。

AIエージェントが普及していくことで、組織における仕事のスタイル自体も大きく変容していくことが考えられます。現状の多くの生成AIツールを活用するだけでも、ナレッジワーカーの雑務を軽減し、より創造的なプロセスに専念できるようになるでしょう。さらにAIエージェントを幅広く活用していくことで、これまでは複数の人員で分担しながら遂行していた業務プロセスを1人でもこなせるようになるかもしれません。中間管理職は不要になり、意思決定や事業展開を大幅にスピードアップさせることができるでしょう。将来的には、たった1人のスタートアップでもAIエージェントを最大限に活用することで、大規模な事業構想を実現できる時代が到来するとMRIでは考えています(図5)。

図5 生成AI時代に変革される仕事スタイル

労働力が減少すると同時に、経営環境の変化がいっそう激しくなるこれからの時代。限られた人材で、スピード感のあるビジネスを実現していくことはますます重要となり、ナレッジワーカーの拡充とその業務の効率化、そしてより大きな価値創造が、日本の競争力向上のカギを握ります。ララサポを中核とする生成AIツールとAIエージェントの開発・提供を通じて、MRIが究極的に目指す「日本を強くすること」に貢献していきます。

さらにMRI自身もシンクタンクDXを通じて、ナレッジワーカーである社員の価値創造の力を向上させ、政府への政策立案や企業への事業提案の質を磨き、社会課題解決を主導していきたいと考えています。

「ララサポ」「ロボリサ」「シンクタンクDX」は三菱総合研究所の登録商標です。
「ベビリサ」は登録商標出願中です。
高橋 怜士(たかはし・さとし)三菱総合研究所 ビジネス&データ・アナリティクス本部 全社DX推進グループ
高橋 怜士(たかはし・さとし)
三菱総合研究所 ビジネス&データ・アナリティクス本部
全社DX推進グループ
2007年大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了後、三菱総合研究所入社。金融機関向けのシステム開発、コンサルティングに従事。2015年からAI活用コンサルティング、文章生成AIなどの研究開発に従事。2021年からは技術チーフ(AIスペシャリスト)として社内AI活用やロボリサの開発も担当。2023年から自社のDX、シンクタンクDXを推進。
清水 浩行(しみず・ひろゆき) 三菱総合研究所 ビジネス&データ・アナリティクス本部 AIイノベーショングループ
清水 浩行(しみず・ひろゆき)
三菱総合研究所 ビジネス&データ・アナリティクス本部
AIイノベーショングループ
2003年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了後、三菱総合研究所入社。情報通信分野の産業振興・技術開発に携わる。その後、主に民間企業向けのビッグデータ活用や、AI・DX戦略立案・遂行に関するコンサルティング業務に従事。2020年から自社のDX、2023年からララサポの開発を推進。HCD-Net認定人間中心設計専門家。

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