不動産テック成長サービスの「物件仕入れ」技術 「勘と経験」がものをいう物件査定を半自動化
不動産投資をしたい人に向けて、物件探しから購入・運用・売却までをワンストップで提供するネット不動産投資サービス「RENOSY」。2016年のサービス開始以降、今やマンション投資の売上高&マッチング件数全国ナンバーワンを誇るサービスになった※。成長の理由はさまざまあるが、不動産投資家から見えにくい部分で着目したいのが仕入れ業務だ。
※東京商工リサーチ「マンション投資の売上実績調査(2024年3月調べ)」
不動産投資サービスにおける仕入れ業務とはどのようなものなのか。まず基本を押さえよう。
RENOSYは投資用不動産を仲介するのではなく、まずは自社で仕入れる。投資を検討している顧客が正しくリスクを理解したうえで投資判断ができるように、情報を精査し販売をする。
仕入れ業務のフローは、仲介会社からの物件情報を見て仕入れるかどうかを判断する「査定」、仲介会社と条件を詰める「交渉」、条件のチェックをする「仕入れ契約」、顧客向けに契約書や販売図面を作る「販売準備」、仕入れた物件の滞留状況を見る「物件管理」の5つ。整理するとシンプルだが、仕入れ部門全体で作業工程は約1000に及ぶ。
問題は、仕入れ業務の作業が大量かつ複雑であることだ。仲介会社から送られてくる物件情報は月に約8000~1万件。これをかつては査定チーム十数人で査定していた。作業負荷が大きいと、具体的にどのような不都合が生じるのか。グループ経営統括本部 Product Management本部のプロダクトマネージャーである馬場庸子氏は一例を教えてくれた。
「投資用不動産の取引価格は賃料ベースで決まりますが、売り主であるオーナー様の思いが入るなどして、周辺の相場より高く設定されるケースがあります。私たちが高く仕入れてしまうと、運用初期は家賃も高くなるのですが、運用途中で空室が発生し相場との乖離により家賃が下落すると、最終的に売却価格に影響を及ぼすおそれがあります。そうならないよう、査定の段階で見極めなくてはいけませんが、作業負荷が大きいと査定に時間をかけにくくなります」
販売図面の自動読み取り機能で、現場の負担を軽減
仕入れ業務の作業が大量かつ複雑になっていた要因は3つある。「フォーマットがふぞろい」「情報の不確かさ」「情報連携」だ。RENOSYでは、これらの課題を解決するため社内で独自のシステムを構築。効率的な仕入れ業務を実現している。
まずネックになっていたのが、最初に仲介会社から送られてくる物件の販売図面(PDF)のフォーマットがバラバラであることだ。業界には統一されたフォーマットがなく、仲介会社約12万社が独自に販売図面を作っている。そのため、かつては査定チームが販売図面を見て、物件情報をデータベースに手打ちで入力していた。執行役員 兼 Advanced Innovation Strategy Center室長の稲本浩久氏は次のように明かす。
「私が入社してすぐに取り組んだのは、OCRの技術を⽤いた販売図⾯の⾃動読み取り機能の開発です。1週間でプロトタイプを開発し、その後継続的に精度を改善しました。とくに苦労したのは物件名です。例えば価格なら『価格:〇〇円』と先頭に項⽬名が書いてありますが、物件名は項⽬がないケースが多く、いきなり『〇〇マンション』『△△ハイツ』などと書いてあるため、読み取りづらいんですね。改良を重ねた結果、今では読み取り精度が92%まで向上。現場の負担がグンと軽減されました」
賃料や災害リスクを予測、仕入れ価格を見極める
物件を適正な価格で仕入れるには、適正な家賃を見極めなくてはいけない。しかし、仲介会社から送られてくる情報だけでは判断が難しく、足りない部分は仕入れ担当者が自分で調べたり、勘と経験で補ったりしていた。
「同じ地域の同じ築年数の物件でも、建物が立っている場所や状況(近くに何があるか)によって仕入れができない場合もありますが、以前はそれらを仕入れ担当者が1件ずつ地図アプリなどでチェックをしていました。どこまで調べるか、調べた情報をどう解釈するかは属人的な部分があり、査定の精度にもばらつきがありました」(馬場氏)
この課題に対して、RENOSYは賃貸流通データに基づいて賃料を予測するAIを開発。さらに賃料を左右する各種情報を簡単に取得できるツールを作り、仕入れ担当者の負担を軽減した。
例えば、物件の災害リスクは自治体が発行するPDF形式のハザードマップを見て確認するが、住所を検索できないので、目当ての地図を探したり、地図上のどこに物件があるのかを調べるのに手間がかかる。
開発したツール「Hazard Map Checker」なら、住所を入力するだけで災害リスクを把握できる。さらに同社では地域、建物、設備、管理状態のスコアリング機能を開発中だ。実装できれば、ばらつきの少ない精度の高い査定ができるだけでなく、顧客に情報を提示することで物件に対する理解を深め、より安心して物件を購入してもらうことができる。
社内の情報連携にも課題があった。仕入れ業務の各フロー間のシステム連携が十分でなく、同じ物件の情報を次のフローで入力し直すケースが多かった。また、同じマンションでも部屋違いだと新たに入力する必要があり、部門の生産性を引き下げていた。
「建物情報のマスターデータでデータベースを構築。そこに収集した情報を加えて、一度データ化した情報を再利用しやすくしました。日本全国約700万戸のマンションのうち、当社とグループ会社のデータベースにおける保有データは現在342万戸にまで広がっています。一度取引したマンションは再利用できる情報が多く、再入力作業がかなり省略できるようになりました」(稲本氏)
業界のDX化を進めてオーナーの利益を追求
一連のDXで仕入れ業務の効率化が進んだ。稲本氏がシステム改修に着手した最初の1年間で、仕入れ1件当たり約15時間の工数削減を実現したという。
「事務作業のコストは、最終的にお客様にご負担いただくことになってしまいますが、効率化を図ってコスト削減ができれば、お客様の購入価格を下げたり、売却益を上げたりすることができ、投資の成功確率を高めることにつながっていきます」(稲本氏)
注目したいのは、DXを業界全体に広げようとしている点だろう。先ほど紹介した「Hazard Map Checker」など、不動産の査定や取引をサポートするツールは、「TechLab」(Googleアカウントでのログインが必要です)で一般公開されている。仲介会社や投資家、競合のサービス会社も利用することができる。その目的を稲本氏はこう説明する。
「社内の効率化が進んできた今、さらなる効率化を目指すなら、この動きを業界全体に広げる必要があります。例えば仲介パートナーや金融機関が同じシステムを利用すれば、電話や紙のやり取りが減ってお互いに効率化が進みます。いずれは私たちが開発した仕入れシステムを、サプライチェーンのプラットフォームとして社外に提供したい。TechLabのツール公開は、そのきっかけづくり。業界でDXの輪を広げて、お客様のメリットをさらに追求していきたいですね」
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