生成AIの時代に求められる「新たなスキル」とは 可能性を最大限に発揮するための「2つの条件」
生成AI「活用できない人」が抱える2つの要因
まるでライターが書いたかのような文章が、数分で自動生成される―ー
次々と世に登場する新たなテクノロジーの中でも、生成AIの登場はとりわけセンセーショナルなものだった。すでに多くの企業・団体に生成AI活用によるビジネス変革支援を実施するグラファーCEOの石井大地氏は「多数の企業・団体と話をしていますが、生成AIについて『知らない、触っていない』と言われることはまずありません」と明かす。
ただし、多くのビジネスパーソンが使いこなせているかというと、そうでもないのが実情のようだ。グラファーで数千人のビジネスパーソンの生成AI利用状況を分析したところ、たとえ企業内に活用環境が整っていても、積極的に活用しているのは10~15%程度にとどまっていることが判明した。
では、「活用できる人」と「活用できない人」は何が違うのか。石井氏は「活用できない」理由は2つあると分析する。
「1つは、リテラシー不足です。生成AIで何ができるのかわからないので、チャットで生成できると言われても何を呼びかければいいのかわからないのです。ただ、これは根深い問題ではありません。スマホの使い方がわからなくて戸惑っているのと同じなので、少しコツをつかむだけで解決します」
生成AIの技術は日進月歩だが、あまりのスピードに追いつけないと悩む人は多い。だが、裏を返すと「できること」を理解すれば、いつでも追いつけるともいえる。深刻なのはもう1つの要因だ。
「生成AIの活用において大きな問題点は、使う側の『やりたいこと』が明確でないということです。当たり前の話ですが、生成AIは使い手に指示されたことしかできません。今や文章だけではなく、動画や画像、音声も生成できるようになっていますが、人間が『やりたいこと』を定義しない限り、その機能を十全に生かすことはできないのです」
「意思を持たない」からこそ、何を任せるかが肝
この「やりたいことの定義」を、石井氏は「欲望の言語化」と表現する。
「生成AIが意思や欲望を持たないというのは重要なポイントです。細かく指示をしないと望むアウトプットは出てきません。的確に指示ができれば、知識量や推論能力は非常に強力です」
「細かい指示」とは、生成AIに期待することをすべて言語化し、細部まで具体的な指示を出すことを意味する。それぞれ意思や欲望を持つ人間に対して、意欲や成長の余地を考慮し、あえて細かく指示しないということとは違う。では、細かく具体的な指示をすれば企業での生成AI活用がうまくいくのかといえば、それだけでは足りないと石井氏は説明する。
「企業で生成AI活用が思いのほか進まない理由でもありますが、どんな業務でもそれまでのやり方があるわけです。DXの推進がまさにそうでしたが、新たな技術やシステムを導入すれば、業務のやり方を変えなくてはなりません。必然的に人の働き方や配置も変えなくてはならず、組織変革が迫られます」
これまで人が遂行していた業務をAIが代替できるのであれば、AIに何をしてもらうかを考える業務マネジメントが人間の仕事になってくる。つまり、人とAIのリソース配分を最適化し、業務フローを見直す必要が出てくるのだ。
「インターネットが登場したときとまったく同じです。業務の性質が変わり、Webデザイナーやエンジニアの需要が急増しました。組織体制や採用、人事評価の基準が変わるだけでなく、店舗販売だけだったのがEC(電子商取引)サイトも開設するなど、それまでになかったサービスや業務形態を構築した企業が現れました。
生成AIでもこれと同じことが起こりつつあります。少なくとも、競合他社がうまく活用してビジネス変革をしているのに、自社は活用できていないという状況は大きなリスクになるでしょう」
自治体DX支援の経験を生かした伴走支援と人材開発
グラファーが生成AI活用によるビジネス変革の支援に乗り出したのは、そうした危機感を持つ企業からの問い合わせがきっかけだった。石井氏は次のように振り返る。
「ある企業では、生成AIを活用した事業変革を考えていました。しかし、社員がそれぞれ任意のサービスを使うと統制が取れないので、安全に活用できる環境を整えられないかというご相談を受けたのです」
ちょうどその頃は、生成AIを積極的に活用していた企業が、機密情報の漏洩を起こし問題となっていたタイミングだった。企業が安全に生成AIを使える環境を提供すれば、日本企業全体の生産性向上にも貢献できると考え、2023年春に「Graffer AI Solution」をローンチした。
サービスの特徴として挙げられるのが、生成AIを利用するためのプロダクトに加え、その利用を促進するための伴走支援や研修・人材育成まで一気通貫で行っている点だ。生成AIで何ができるか、どう活用すれば業務効率化・生産性向上につなげられるかを示したうえで、業務改革を進められる。そこで生かされているのが、創業以来自治体に提供してきたDX支援で得たノウハウだという。
「当社はこれまで約200団体の自治体にDX支援を提供してきました。多くの自治体でDX推進を妨げるのは、やはり組織と人です。トップはやる気なのに現場がついてこない、現場はやる気なのに管理職が及び腰といった課題は非常に多い。ですから、組織や制度を抜本的に見直して、リデザインすることを丁寧に進めていかなければなりません。その経験は、Graffer AI Solutionでも大いに生きています」
AIにできる業務は、この先コモディティ化する
つまり、伴走支援は「やりたいことを定義する」ために必要なものだといえよう。実際、その企業のやりたいことや課題をヒアリングしたうえでプロジェクトの計画作成や全社展開に向けた施策検討、推進メンバーのスキル装着に向けた育成といった支援も実施している。
もう1つの生成AI研修・人材育成は、AIを活用することで高い付加価値を出せるようになるための人材開発の意味合いが強い。
「経営者向けのワークショップで経営戦略のディスカッションをしているのも特徴です。単に便利なツールとして生成AIの活用法を伝えるだけでなく、経営戦略と人材開発を両輪で提供することで、中長期的な成長を支援したいと考えています」
このスタンスに賛同し、Graffer AI Solutionを導入する企業や団体が急増している。
食品卸大手の国分グループは全社で導入し、人とAIの業務配分変更を視野に入れて「デジタル技術の業務適用」を進めている。さまざまな研修機会を通じて、生成AIの有効な使い方を社内に浸透させているほか、グラファーの伴走支援を受け、業務の生産性向上や事業に役立てている。
また3500人以上の職員がいる近畿大学は、幅広い業務で生成AI活用による効率化を図っており、「Graffer AI Studio」に学内データを基にした文章生成や情報検索、データ処理が迅速にできる環境を整備。経営企画や広報、教務など幅広い業務で効率化を推進している。
「導入いただいている企業・団体に共通しているのは、多少の業務効率化や生産性向上ではなく、その先の新たな価値創造を見据えているところです。経営層とのディスカッションでは『もっと大胆な提案をしてほしい』と言われることも多く、生成AI時代の新たなビジネスを生み出そうという意欲も感じています」
その意欲は、ビジネスの最前線にいるからこそ感じる危機意識の発露でもあるのだろう。新たなビジネスで価値を創出して競争力を強化しなければ生き残れないという気持ちもあるに違いない。
「生成AIが当たり前に使われる時代になると、AIにできる業務の価値はどうしても減ります。AIでもできる業務をいくら人が頑張ってこなしても、価値を生むことはできません。これから重要になるのは、『やりたいこと』を見つけて適切に言語化するスキルです。そのための人材開発を、組織変革と両輪で進めていけるよう、Graffer AI Solutionにもっと磨きをかけていきたいと考えています」
今後、生成AIの活用を前提とした事業戦略の策定は、より重要度を増していくだろう。活用の軸となるリテラシーや経営戦略、人材開発のアップデートは、さまざまな企業において必要不可欠な取り組みだ。時代に合わせた経営資源の活用に向けて、組織・人を動かすノウハウを提供するグラファーのソリューションに注目していきたい。