社長対談「東京電力がクラウド導入」実施の狙い 企業の電力ニーズ変化にどう応えていくか?
世界情勢を受け電気料金が高騰
法人需要家のニーズにも変化が
――電力をめぐる近年の状況を教えてください。
長﨑 2016年に、一般家庭も含めて電気が全面自由化され、お客さま自らが小売電気事業者を選べるようになりました。とくに首都圏は競争が激しく、当社も販売電力量が減少しました。
ところが、22年ごろから世界的に燃料費が高騰し、電気の市場価格も一気に高くなりました。このため、最終的な電気の供給保障を担う東京電力などの旧一般電気事業者のご契約に戻られるお客さまが多くいらっしゃいました。
宇陀 電気料金の高騰は非常に激しく、各国に深刻な影響がありました。例えばイタリアは22年11月の電気料金が20年1月の約260%、英国も約90%、それぞれ増加しました。
そんな中、日本はエネルギー政策が比較的うまくいき、26〜28%程度の上昇にとどまりました※1。改めて日本政府はうまく対応したと思いますが、それでも電気料金の上昇は避けられませんでした。
長﨑 世界情勢は相変わらず混沌としていますが、現在電気の市場価格は23年度後半ごろから落ち着きを見せつつあります。
このような市場の変遷を経て、特別高圧・高圧電力の供給を受ける法人のお客さまのニーズにも変化がありました。以前は安価な電気こそが最大の価値でしたが、最近は、少し価格が高くてもボラティリティーの小さい電気がいい、逆にボラティリティーはあってもいいので市場価格に合わせて価格水準が変わる料金メニューを選びたいなど、新しいニーズが出てきました。
もう1つ、カーボンニュートラルも大きなトレンドです。電気以外の化石燃料系エネルギーを電化したい、環境価値が証書化されたエネルギーを活用したいといったニーズも高まっています。
柔軟性と即時性、セキュリティーに強みを持つ
クラウド型システム
――こうしたニーズの変化に対して、電力会社はどのように対応すべきでしょうか。
長﨑 当社は、例えば市場連動型メニュー※2を導入してお客さまのニーズにきめ細かく応えられるよう工夫しています。具体的なメニューもさることながら、大切なのはスピード感です。
実は23年度の法人のお客さま向けのご契約は、受け付け開始から3日で売り切れるほど多くの申し込みをいただきながらも、当社内のオペレーションでは処理に時間がかかってしまう状況でした。
24年度の契約は、同じ轍を踏まないように、ご契約の申し込み受け付けから契約締結までを一貫して処理できるようオペレーションを改善しました。
また、申し込み受け付けデータなどの社内連携のしやすさや、お客さまへの速やかなサービス提供の観点から、ユニファイド・サービスが提供するクラウド型電力CISシステムを導入しました。
お客さまのご要望に対して、スピード感を持ってきめ細かくお応えしていくことこそ、私たちがご提供できる価値であると考えています。この一連のオペレーション改善は、先日、社長賞として社内表彰を行いました。
宇陀 柔軟性と即時性は、クラウドのメリットの1つです。また、導入もオンプレミスと比べて短期間でできて、かつ低コストです。
東電EPさまのケースは、電力業界のリーディングカンパニーだけに非常に大規模なプロジェクトでしたが、2社のメンバーがワンチームで推進したこともあって、約半年でシステム開発を終え、運用を開始することができました。以前のオンプレミス環境では約2年かかっていましたから、スピードが大きく異なります。
さらにクラウドはセキュリティーにも強い。日々進化するテクノロジーに適宜対応できるのは、大きな強みです。また、クラウドはサービス自体にバックアップを持っていますから、災害時の継続性も担保できます。レジリエントな環境を構築できるので、より安心してご利用いただけます。
――こうしたクラウドの特徴を、経営レベルが理解している必要がありますね。
長﨑 はい。クラウドの利点は、私が子会社のテプコカスタマーサービスでクラウド型CISを採用した頃から肌で感じるようになりました。それ以前は、私自身、クラウドの特徴を正しく理解しきれていなかったように思います。
しかし、システムを改革するにはまず経営者が学び、理解したうえで意思決定する必要があると考えています。そうすれば、経営層からシャワー効果で会社全体に理解を広げていけますから。
この背景もあって、今回のユニファイド・サービスのクラウド導入はスムーズに進みました。
宇陀 社会インフラは重厚長大かつ安全安定を要求される産業で、少し保守的な企業も多いでしょう。しかし、今のように変化が激しい時代は、変わらないこと自体がリスクです。
長﨑社長は、真摯に当方の話を聞いてくださり、コスト削減についてご理解なさったうえで、基幹システムにクラウド導入を決断された。経営トップの判断の重要性を改めて実感しました。この動きが、電力業界全体に与える影響は大きいと考えています。
また、当社は資源エネルギー庁から太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)の管理システムを長年にわたって受託しているほか、クラウド型CISも新電力の30社以上に提供実績があります。電力業界特有の業務に関する多くの知見を蓄積しており、かつサービスに反映しているところが当社の特徴と自負しています。
こうして培った技術力に加えて、需要家数に応じた従量課金のSaaSであることも強みです。最初に多くのニーズを見込んで自前で大規模なシステムを構築すると、市場に急激な変化があったときに対応しにくい。その意味でも安心して導入いただけます。
当社は設計・開発・試行・改善のプロセスを短期間に繰り返すアジャイル開発で、より円滑かつ着実に開発する手法を確立しています。
――商品(サービス)としての具体的な特徴は、どんな部分になりますか。
宇陀 当社のインダストリークラウドサービスは、Salesforceの基盤を使い、その上に電力料金の計算や広域連携のシステムを構築しています。
この基盤はSalesforceによって24時間365日管理・監視されており、当社サービスの安定性やスピード感から、セキュリティー対策、災害時の復旧に至るまでを支えています。Salesforceを通じたほかのシステムともシームレスに連携でき、一元化できることも特徴です。
再エネ100%に向けて電気の「地産地消」を支援する
――カーボンニュートラルも、企業の関心の高いテーマの1つです。
長﨑 当社の研究所でカーボンニュートラル施策を分析し、「かけるコストよりも社会的な便益が大きい施策」を調べました。その結果、EVを導入する、給湯器を電化にする、太陽光発電を入れるなどお客さま側の取り組みが多く挙がりました。
電力会社が発電した電気を届ける旧来のビジネスモデルにとどまらず、お客さまが自ら電源を保有するなどして、その発電した電気を自ら使う「電気の地産地消」の実現をサポートしていきたいと考えています。
宇陀 24年1月の能登半島地震では、被災地で多くの電柱が倒壊して、電気が止まりました。災害発生時、再エネ発電所を緊急対策電源として利用する仕組みがありますが、その要件を満たす施設は、被災地の中で能登半島北部にある約3500カ所のうちわずか1カ所しかありませんでした※3。
こうした教訓を得て国も動いており、再エネ発電所の地域活用に関してはすでに法整備されています。当社からもデジタル田園都市国家構想事務局に発電所の地域活用に関するご相談をしたり、EVの充電拠点として活用することなどを一部の地方自治体の首長にご提案したりしています。企業の「再エネ利用率100%」へのサポートも可能かもしれません。
カーボンニュートラルは世界的な課題。電力会社の皆さまと連携しながら、このテーマで日本が最先端の国になれるよう支援していきます。
※2 市場連動型メニュー:スポット市場価格の変動に連動する料金プラン。スポット市場価格として参照する価格は、顧客の電気の使用場所が属する供給区域を基に卸電力所が公表した値を用いる
※3 ユニファイド・サービス調べ