表示数稼ぎの過激投稿、ネットから消えぬ根本原因 私たちの「関心」が経済的価値を持つジレンマ

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

実際、Qアノンのような陰謀論者の多くは、SNSで陰謀論に何度も接触したこと――まさに陰謀論がエコーのように閉鎖的情報空間の中で反響したこと――で、これを絶対的真理と信ずるに至ったと指摘されている。

こうみると、アテンション・エコノミーがつくり出したエコーチェンバーは、政治的・社会的分断を加速させているだけでなく、偽情報の増幅にも加担しているということになろう。「虚偽しか聞かない者にとって、真実は存在しない」(G.Michael Parsons)との言葉は、この状況を端的に表している。

誹謗中傷も、アテンション・エコノミーがつくり出している部分がある。憎悪や怒りといった表現が、人間のアテンションを得やすく、拡散・共有されやすいことはよく知られている。先述の国連文書も、「怒り(outrage)はより多くのエンゲージメントを生み出す」と述べる。

暴力的な過激投稿は「花形コンテンツ」

フェイスブックの元社員フランシス・ホーゲンが持ち出した同社の内部文書「フェイスブック文書」によれば、同社はこうした事実を理解しながらも、ユーザーのエンゲージメント獲得のため、すなわちユーザーをFacebook上に長くとどまらせるため、こうした憎悪的な表現を優先的に表示するアルゴリズムを採用し続けたという。

ホーゲンはイギリス議会の公聴会でも、議員らを前に、同社のアルゴリズムが「憎悪を増幅させていることは疑いがない」と証言した。

フェイスブック誤情報チームのプロダクトマネジャーだった彼女の発言が偽証でないならば、憎悪に満ちた誹謗中傷的投稿は、プラットフォームのアルゴリズム・AIに愛でられ、促進されている側面がある。

別言すれば、クリック=反射を奪い合う「刺激の競争」において、深いエンゲージメント(粘着性)を作出する暴力的な過激投稿は、経済的利益を生み出すために不可欠な花形コンテンツであるといえよう。

そして、アテンション・エコノミーの下でこうした刺激物を延々と見させられる私たちの精神構造の変化にも、触れないわけにはいかない。

例えば、EUの欧州委員会は、2024年2月、デジタルサービス法(Digital Services Act,DSA)に基づき、TikTokを運営するバイトダンスが自らの動画に対するユーザーの依存症リスクを把握し、対応しているかについて調査を行うと宣言したが、そこで重視されたのは、精神的な健康や、子どもの基本的人権であった。

ジャーナリストのメーガン・レイも、刺激物を浴び続けることによる慢性的ストレスがユーザーの健康に与える影響を指摘している。

次ページ人間がどんどん人間を嫌いになっている?
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事