デジタル地域通貨がもたらす「地域の活性化」とは 地域の人と行動・人と人をつなげる「リング」

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スマートフォンアプリの普及などデジタル技術の進展を背景として、地域経済の活性化に寄与することが期待される「デジタル地域通貨」が注目を集めている。地域の人と人とをつなぐ「リング」にもなれる、その大きな可能性とはどんなものだろうか(画像:Getty Images)
デジタル技術の進化とともに、通貨は現金からデジタルへとシフトしている。特定地域でのみ使用可能なデジタル地域通貨は、地域内でのお金の循環を促し、地域経済の活性化に寄与すると期待されている。三菱総合研究所(MRI)の「Region Ring®(リージョンリング)」は、ブロックチェーン技術を活用した安全で効率的なデジタル地域通貨プラットフォームだ。「Region Ring」が地域経済の活性化にどう貢献し、地域の住民同士をつなぐ「リング」の役割を果たしているのか、MRIの研究員に話を聞いた。

安全&低コストを実現する「デジタル地域通貨」の普及

私たちにとって最も身近な通貨は、国全体および国外との取引で日常的に使用されている「法定通貨(国家通貨)」でしょう。この国家通貨とは異なる仕組みを持っているのが、特定の地域で使える「地域通貨」です。法定通貨を発行できるのは日本銀行と政府のみですが、地域通貨は自治体や民間企業などが独自に発行できます。地域の店舗やサービスなど、利用できる範囲を限定することで、地域内でのお金の流れが増加し、地域の経済循環を促進するため、地域活性化の目的で発行されるケースが多くなっています。

限られた地域でしか使えないことは、デメリットに感じられるかもしれません。しかし、全国で使える法定通貨は便利ではあるものの、地域外に漏出することで、地域内でのお金の流通量が減り、地域の産業の空洞化や消費の低迷を招くこともあります。地域通貨には、それに歯止めをかける効果があると考えられています。また地域通貨を通して地域内での消費を促進し、地域の企業や商店を支援することは、住民の地域貢献意識を高め、人と人との結び付きを強めます。さらに過度な競争のない環境が、共助や善意に満ちた健全なコミュニティづくりや再生の礎となり、地域全体の発展に寄与することが期待できます。

日本で地域通貨が最初に使われたのは1960年代初めと意外に古く、紙幣形式やクーポン形式などで流通していました。しかし現物の発行や管理には手間がかかってコストもかさむうえ、ユーザーの利便性にも疑問が残るものでした。

図1:Region Ring®

こうした課題を解決するため、近年はスマートフォンアプリやブロックチェーンなどのデジタル技術の進展を背景に、「デジタル地域通貨」が普及しています。それを可能にしているのが、デジタル地域通貨を簡単に発行できるサービスです。MRIが開発・提供する「Region Ring®」はその1つで、ブロックチェーンを活用し、地域通貨やポイントなどを発行、運用できるデジタル地域通貨基盤です。

ブロックチェーンとは、データの取引をブロックという単位にまとめて記録し、そのブロックを鎖のようにつなげて保存する技術のことです。データの改ざんが非常に困難なブロックチェーンを活用することで、デジタル地域通貨を安全に取引することができます。また、サーバーにすべての取引情報を集約する必要がないため、手数料や管理費用などのコストの抑制も可能です。

地域通貨や地域ポイントなどを1つのアプリで管理可能に

「Region Ring」の特徴は、ブロックチェーン技術を基盤とすることで、デジタル通貨、電子マネー、ポイント、デジタルチケットなどの付加情報を記録した「カラードコイン」を1つのプラットフォームで発行したり、同時に管理したりできる点にあります。これにより、ユーザーは「地域通貨・地域商品券」「地域ポイント」など複数のアセット(経済的価値)を1つのスマートフォンアプリで購入、発行、決済できるのです。また、「Region Ring」はデジタル地域通貨やポイントの価値を時間や条件に応じて変化させる仕組み「減価・消滅機能」で特許を取得しています。例えば、一定のプレミアムが付いた地域通貨が、利用されないままだとプレミアム分について価値が徐々に減っていく設定も可能です。

「地域通貨・地域商品券」に関しては、専用アプリをダウンロードし、クレジットカードや銀行チャージなどで地域通貨・地域商品券を購入後、加盟店で決済できます。アプリ上で現在地周辺の加盟店を探せる機能や、わかりやすい操作説明など、優れたユーザビリティが特徴となっています。

「地域ポイント」は、地域経済圏の形成や利用者の行動変容促進を目的に用いられる仕組みです。利用者はポイントプログラム協力店舗等で提示されるQRコードをアプリで読み取り、ポイントを獲得します。地域ポイントを活用したプロジェクトとしては、大丸有エリア(大手町・丸の内・有楽町)のオフィスワーカーおよび来街者を対象者として発行された「ACT5メンバーポイントアプリ」が代表例です。SDGs活動を促進する目的で、ユーザーがSDGsの情報を発信する拠点にチェックインしたり、SDGsに関連する活動に参加したりすると、SDGs特典の交換などに使える「ACT5メンバーポイント」が付与されました。発行主体は複数の企業で運営する「大丸有SDGs ACT5実行委員会」で、企業単体ではなく街全体でSDGsに対する人々の意識や行動変容を促すことを目指したのです。

図2:「Region Ring®」の仕組み

山陰地域の経済活性化を目指して地方銀行とタッグ

地域活性化から地球規模の社会課題解決まで、幅広い取り組みのコアになるソリューションを提供する「Region Ring」ですが、近年は全国でデジタル地域通貨としての活用が増えています。

MRIと山陰合同銀行は、鳥取県と島根県を中心とする山陰地域の経済活性化を目指して、2024年5月に「デジタル地域通貨事業に関する基本合意書」を締結しました。山陰合同銀行は、地域の自治体や小売店と連携して地域内消費を促進し、地域活性化を図るため、「Region Ring」を活用し、「さんいんウォレットアプリ」を提供する構想を推進中です。地域住民や観光客などアプリの利用者は、デジタル地域通貨やデジタル商品券、山陰共通ポイント「さんいんポイント(仮称)」などを1つのアプリでまとめて管理できます。

図3:さんいんウォレット(仮称)構想の全体像

また将来的には、偽造不可能な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ、NFT(Non-Fungible Token)を活用したアイテムの開発や、ブロックチェーン技術を利用して発行されるデジタル証券を公開募集するSTO(Security Token Offering)を活用し、出資者の名前をデジタル空間に記録する新たな資金調達など、新しい展開も見据えています。

山陰合同銀行が語る「Region Ring‎」導入の理由と期待

当行は、人口減少、過疎化、高齢化といった課題を抱える「課題先進県」の山陰地域で事業を展開しています。金融サービスを通じて地域経済の活性化を目指すだけでなく、コミュニティの再活性化や地域課題の解決を通じて持続可能な地域社会を創造することも使命としています。そこで、さんいんウォレット(仮称)構想の推進に当たっては、単なる決済ツールとしての活用にとどまらない、地域課題解決型のデジタル地域通貨で、地域に新たな付加価値を提供できる「Region Ring‎」を選びました。マルチアセット機能による効率的なプラットフォーム運営に加え、利用した分だけ自分が住んでいる地域がよくなるような地域通貨事業の推進を目指しています。

現時点で、当行が実施したニーズ調査では、利用者層はスマホの利用頻度が高い若年層から中年層の意向が高く、小売り・飲食・観光業など幅広い事業者からも好反応を得ています。さらに、特定の層だけでなくすべての市民に利用していただけるウォレットサービスを目指し、地域特有の施策を計画中です。

MRIからのノウハウ提供により、事業成功確度が高まることを期待しています。とくにMRIのデータ分析に期待しており、山陰地域の自治体や事業者、当行がデータに基づいた施策を実施できるよう支援していただきたいです。さらに、ブロックチェーン技術を活用したNFTやSTOなどの新たなビジネスも視野に入れており、サービスの拡張や新たなサービス展開も一緒に推進していきたいです。構想段階なので具体的な取り組み・施策について未確定部分が多いですが、大手キャッシュレスサービスにはない地域ならではの施策を展開していきたいです。
(山陰合同銀行より寄稿)

大阪の自治体での活用や万博関連の取り組みも

大阪地域では、りそな銀行とのプロジェクトが進んでいます。りそな銀行とMRIは共同で、大阪地域で地域通貨流通による経済活性化と地元コミュニティの発展を目指し、プラットフォームとして「Region Ring」を活用して、「大阪地域におけるデジタル地域通貨事業及びポイント事業」を展開しています。大阪府下の自治体が発行する地域通貨やポイント、商品券などのさまざまな機能を1つのアプリ上に集約し、利用できるウォレットサービスを提供します。

これにより、例えば「市単位で使えるデジタル地域通貨」と「府内全域で使えるポイント」を1つのアプリにまとめられるので、利用者は施策ごとにアプリをダウンロードする手間が省けます。また、自治体は施策ごとに窓口を準備したり、新たなプラットフォームを作ったりする必要がなくなるので、運用コストの削減が可能となるのです。まずは、大阪府内の各自治体で地域通貨を通じた経済活性化を進め、徐々に地域全体へと拡張していく計画です。

また、りそな銀行とMRIは大阪・関西万博の機運醸成やSDGsの達成を目指して、(公社)2025年日本国際博覧会協会が運営する「EXPO2025デジタルウォレット」のアプリサービスにおいて、「Region Ring」を活用してポイントサービスの「ミャクポ!」を提供しています。協力者(企業・団体等)が実施する万博機運醸成イベントへの参加や環境負荷軽減、健康促進などのSDGs達成プログラムでたまるポイントを交換することで、万博開催前から「ミャクポ!」をためることができます。そして「ミャクポ!」を限定グッズなどの景品や万博入場チケットなどと交換できるという仕組みです。サービス構築に向けてさまざまな企業・団体の協力を得ながら、ポイントをためる・つかう機会や場所を拡充しているところです。

地域内でのつながりを生む「リング」を目指して

地域活性化のソリューションとして全国各地で様々な使われ方をする「Region Ring」ですが、将来的には一度の決済で終わるのではなく、デジタル地域通貨を受け取った加盟店が、別の加盟店での仕入れや支払いに利用できるといった、より現金に近い形で地域経済を循環させる「転々流通」の実現も目指しています。

便利なサービスや技術の発展によりデジタル空間でのつながりは強くなる一方で、地域のつながりが希薄化している現在、「Region Ring」には通貨やその他の機能を通じて、人々や商店、行政の結び付きを強化する役割も期待されています。デジタル技術を活用することで、誰と誰がつながっているかを可視化し、導入いただく自治体や商店に対して新たな価値を生み出すようなご提案をすることが可能となります。例えば、地域通貨のデータを分析し、利用が少ない店舗に対して新しいつながりを生む支援を行うこともできるでしょう。

地域内でのつながりが強化されることで、住民同士の助け合いや地域全体の活力は高まります。人とのつながりが強い地域は、住民に安心感や満足感を提供し、結果として魅力的なまちとなるはずです。そうしたつながりのあるまちは地域外の人も引きつけるようになり、地域の発展にもつながるでしょう。このように「Region Ring」は地域を支えるプラットフォームとして、地域内でのつながりを生む「リング」として、さまざまな可能性を広げているのです。

河原 真哉(かわはら・しんや) 三菱総合研究所 地域・コミュニティ事業本部
河原 真哉(かわはら・しんや)
三菱総合研究所 地域・コミュニティ事業本部
2023年1月三菱総合研究所入社。新卒で金融機関に入社しFinTech子会社設立や海外VC/アクセラレターへの出向を通して大企業での事業開発に多数従事。その後シード期のFinTechスタートアップに転職しIT企業と連携したB2B2Cの金融事業立上げを行う。現在は地域・コミュニティ事業本部に所属し、地域通貨事業の事業企画を中心に事業計画作成や地域金融機関といった外部パートナーとの事業スキームの検討・構築中。

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