ダイキンが「地球のエアコン」である森を守る理由 「植林にとどまらない」独自のプロジェクトとは
森林は、光合成によって空気中の二酸化炭素を吸収して酸素を生み出す。また、植物が葉っぱから内部の水分を水蒸気として放出することで、空気を冷やす効果も指摘されている。空気と空調の専門家であるダイキンが、森林を「地球のエアコン」と呼ぶ理由がここにある。
世界170カ国以上で空調事業を展開するダイキンにとって、「地球のエアコン」である森林が世界から消えゆく現状を見過ごすわけにはいかなかった。
ダイキンのCSR・地球環境センターの洲上奈央子氏は語る。「当社の主力製品であるエアコンは、人々の健康で快適な生活のために、なくてはならないものになっています。その一方で、エアコンは電力消費量が多く、世界の全電力消費量のおよそ1割を占めているといわれています。電力消費に伴って多くの温室効果ガスが排出されるだけに、温室効果ガス削減に対する当社の社会的責任は、極めて大きいと考えています」。
実際、世界のエアコン需要は伸び続けている。2050年には全世界のエアコンの稼働台数が現在の約3倍の56億台になるとの予測もあるほどだ。
「例えば消費電力の少ないインバーター機の普及など、事業を通じた取り組みは当然のこととして、ほかにできることはないか。社内で知恵を出し合い、たどり着いたのが各国の地域住民と一緒になって森林保全・再生に取り組むことでした」(洲上氏)。こうして2014年に「空気をはぐくむ森」プロジェクトを発足。世界各地で森を守る活動に乗り出した。
事業と社会貢献の両輪で気候変動に対応する
「空気をはぐくむ森」プロジェクトでは、グローバルに視野を広げ、森林減少の危機にあり、生物多様性が脅かされている地域に着目。日本のみならず、インドネシアやカンボジア、インド、中国、ブラジル、リベリアの世界7カ所で支援活動をスタートさせた。「支援を必要としているところを最優先に選ぶことができるのも、社会貢献として取り組むからこそできることです」と、洲上氏は事業と社会貢献の両輪で気候変動対応を行う意義を強調する。
「空気をはぐくむ森」プロジェクトのアプローチも、ダイキンならではの視点で取り組んでいる。単に木を植えるのではなく、森林が減っていく原因に目を向け、その根本となる社会課題の解決から取り組むのがダイキンのやり方だ。
では、植林だけにとどまらないプロジェクトの現場を見てみよう。支援地の1つ・インドネシアのジャワ島にあるグヌングデ・パングランゴ国立公園。ジャワ島では人口が増え続けており、農業と開発によって、この数十年の間に島の森林の多くが失われてしまったという。
洲上氏は支援を開始した当時を振り返る。「この地域に住む人々の多くは、国立公園内の木を伐採し、森林を切り開かずには生活を成り立たせることができない状況にありました。その背景にあるのは『貧困』という社会課題です。そうした課題を放置したまま植林しても、ダイキンが去れば元の状態に戻ってしまうことは容易に想像がつきます。森林を持続的に保全するためには、荒廃地に植林するだけでなく、今ある木を伐採されないようにすることも重要なのです。そのために、まず地域住民の生活基盤を確立し、環境意識を高める必要があると考えました」。
そこで国際NGOのコンサベーション・インターナショナル(CI)と連携し、地域住民が伐採に頼らなくても生計を確立できるように、農業支援を実施。さらに水道のなかった地域に森から水を引き、さらにその水で動く発電設備を導入して、「水」と「電気」をもたらした。
「これにより住民の生活は格段に便利になりました。農作物が生計を支え、水・電気をもたらし、生活が豊かになる。しかも、それまで毎日遠くまで水くみに行っていた子どもたちが、労働から解放されて学校に通えるようになったとも聞きました。森林の大切さを伝える環境教育も継続して行っています。地域に住む人々が森の恵みを実感し、森に関心を持つことで、『自分たちのために』森を守る大切さを理解したことが大きなポイントではないでしょうか。その結果、住民自ら森林保全や再生に積極的に取り組むようになっていきました。ダイキンの支援によって、これまで300ヘクタールの森林を再生し、テナガザルやヒョウといった希少動物が増え、生物多様性の回復も見られています」と語る洲上氏は「森林減少の根本的な原因に目を向け、現地の人々やNGOと連携して取り組んだ結果」だと続けた。
一方、日本では、北海道知床半島で支援を継続している。世界自然遺産にも登録されている知床半島を舞台に、多様性に富む原生森の復元運動に加え、世界自然遺産の価値を守り、伝える事業を支援している。それが知床を訪れるさまざまな人々や子どもたちに森林の大切さを伝え、森づくりの「次代を担う人材を育てる」ことにつながっている。
ダイキンの従業員からも参加を募り、ボランティアとして知床に派遣。「これまで225名もの従業員が参加しています。参加者からは、一度破壊された自然を再生するのがいかに難しいか、どれほど長い年月を要するか、身をもって学んだといった感想が聞かれます。うれしいのは、参加者から『今後知床だけでなく、日常生活や業務を通じてできる環境貢献を考えていきたい』という声が寄せられたことです。現地での活動はわずか4日間ですが、その後業務の中で、より省エネ効果の高い機器の開発に尽力したり、日常の中で省エネを意識したりするなどの行動につながることで、環境人材の育成につながっている」と洲上氏は実感している。
洲上氏自身も、こうした数字に表れない成果の重要性を再認識していると語る。「いずれの地域においても、森林保全を通じて地球環境の大切さを認識する仲間が増えていく、そうしたことが次につながると考えています」。
地域とともに地道に続けてきたからこそ、わかったことがある
「それぞれ地域社会に関わり、長期的なスパンで取り組んできたからこそ、森林を守るには10年では到底足りないことがわかってきました」と洲上氏。2024年、ダイキン100周年を機に、支援をさらに強化するべくプロジェクトⅡ期をスタートさせた。
現地主導の森林保全体制が整ったカンボジアなどに代わって、新たにエチオピアと沖縄県の西表島を支援地に加えた。「『森』の概念は、変わってきています。熱帯雨林や山林だけでなく、乾燥地の緑やブルーカーボンといわれる、海洋で炭素を吸収している海藻や海草、植物プランクトンなどの『海の森』の保全も重視されるようになっています」と、新たな支援地の選定基準を明かす。エチオピアは、気候変動や農地開拓で乾燥地が拡大し、土地の劣化が深刻化。また2021年に世界自然遺産に登録された西表島では、沿岸部の海草藻場消失や漂着ゴミによるマングローブ林への影響などが懸念されている。
「時とともにニーズや課題は変わっていきます。その中で、今この時に何がベストかを考え、さまざまな人の意見を聞き、柔軟に軌道修正しながら支援に取り組んでいくつもりです」と展望を語る。
「環境保全は、一企業だけでは到底できないし、また資金を出すだけで解決できるものでもありません。木を育てることと同じくらい、その担い手となる人を育てることが重要です。これからも森林保全を『自分事』として捉え、次代に森を守り続ける仲間を増やしていきたい」と洲上氏。「地球のエアコン」を維持し、メンテナンスしていくことも、空気と空調の専門家であるダイキンの使命であり、今後も継続してほしい。