「安心してスマホ使える」裏にある通信事業の葛藤 「通信事業のIT化」で今、選ぶべきパートナーは

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3Gから4G、そして5Gと、デジタル化の加速に伴い、ネットワークが複雑になってきている。今後6Gを見据えてさらにデータトラフィックの増加が確実視される中で、AT&Tなど欧米の通信事業者が導入を本格検討し始めているのが、グローバル通信インフラ大手・エリクソンの「クラウドRAN」だ。柔軟かつ効率的なネットワーク運用を可能にするというが、従来型のRAN(無線アクセスネットワーク)とどう違うのか。エリクソン・ジャパンの技術統括を務める滝沢耕介氏に聞いた。

欧米の通信事業者が採用、「クラウドRAN」とは?

エネルギーの転換や脱炭素、サプライチェーン強靭化、DXなど、ビジネスを革新に導くトレンドは絶え間なく登場する。そうしたトレンドの根幹を支える通信ネットワークとして今注目されているのが、「クラウドRAN」だ。

クラウドRANは、どんな環境でも動くソフトウェアアプローチを指すクラウドネイティブの思想を反映したソリューション。柔軟なネットワーク運用が可能となるため、うまく利用すれば新たなビジネスの萌芽になるともいわれている。

米大手通信事業者のAT&Tは2023年12月にクラウドRANへの移行を発表。5年間で約140億ドル(約2兆2500億円/1ドル=161円)の投資額に達する可能性もある※1として、通信業界に大きなインパクトを与えた。クラウドRANへ移行することで、アジャイルで柔軟かつ運用効率の高いネットワークを最速で実現する狙いがある。

ではなぜ、エリクソンはクラウドネイティブなRANを開発したのか。この問いに、エリクソン・ジャパンの滝沢耕介氏はこう話す。

エリクソン・ジャパン ソフトバンク事業統括本部 技術統括
滝沢 耕介氏

大手SIerを経て2007年にエリクソン・ジャパンへ入社。コアネットワーク部門および無線ネットワーク部門のコンサルタントとして従事したのち、17年より現職。

「モバイルのテクノロジーは、おおよそ10年スパンで進化してきました。例えば、日本での3Gの商用サービス開始が2001年、4Gが2010年、5Gが2020年です。しかしこの通信業界の進化スピードは、ITのそれと比べると遅いという見方もあります。もっとスピードを増すには、ITの進化を支えてきたクラウドネイティブの考え方を取り入れようということになったのです」

日本の通信業界の進化を握るカギは「IT化」

滝沢氏によれば、欧米ではすでにクラウドRANの導入で品質の向上を実現させている通信事業者もいるという。

「今まで、無線ネットワークのアップグレードは、年に1回程度が一般的でした。しかし、クラウドRANを導入したことにより、ハイペースでのアップグレードを実現させている通信事業者もいます」

短いスパンでのアップグレードは、従来のサイクルと比べて進化の幅は小さいが、その分リスクも低減できる。ユーザーに日進月歩のテクノロジーを提供するにも適切だ。問題は、「日本の通信業界が長年にわたって築き上げてきた文化に、クラウドネイティブなITの文化をどう入れ込んでいくか」だと滝沢氏は語る。

「いきなり異なる文化を取り入れるのは無理な話です。しかも、運用のスタイルはどうしても設備が展開されている場所によって変わります。今すぐクラウドネイティブな運用をしたほうが効率的な拠点もあれば、従来の専用ハードウェアの運用が適している拠点もあるでしょう。将来的には自動化を目指すにしても、しばらくはハイブリッドな運用が必要です」

通信事業者の中には、「できることならドラスティックな改革をしたいが、ネットワーク障害などが起こり、ユーザーのモバイル使用環境に支障が出れば元も子もない」と考える向きもあるだろう。また“クラウド”と冠がつくこともあり、クラウドネイティブなRANを導入するには今の無線ネットワーク(RAN)を仮想化しなければならないのではという疑問も湧く。

「よくいただくご質問ですが、今の無線ネットワークを仮想化することは必ずしも必要ではありません。クラウドネイティブなRANは専用ハードウェアを含む従来のRANやPCなどの汎用ハードウェアなど、ほかの選択肢にも柔軟に対応できます。展開されている場所によって専用ハードウェアのみで運用したいケースや、必要に応じて最新のハードウェアに入れ替えたいケースがあると思いますが、そうした多彩な展開に対応できるソフトウェアソリューションがクラウドネイティブなRANなのです」

クラウドRANは多彩な展開に対応できるソフトウェアソリューションだ

この運用は、開発とオペレーションのあり方を変えていくうえでも有効だという。これまで、開発はベンダー、オペレーションは通信事業者というすみ分けが常識で、責任分界点がはっきりしていたものの、新しい機能を導入するソフトウェアの受け渡しの際に、スピードが犠牲になってしまう面があった。

しかしITの世界では、開発担当と運用担当が連携・協力し、フレキシブルかつスピーディーにソフトウェアを開発するスタイルが定着している。通信業界にも同様の文化を取り入れることで、前出のように短いスパンでのアップグレードができるようになるというわけだ。

通信事業者とベンダーのパートナーシップが重要な時代

世界では通信事業者とベンダーが密に連携してスピーディーに改善を進め始めている

エリクソンは通信機器のベンダーとして、そうした「文化の変革」にも積極的なサポートをしている。例えばフィンランドの通信事業者であるElisaやオーストラリアの通信事業者であるTPGとは、ネットワーク検証のプロセスを自動化する計画を進行。TPGとの事例では、アップグレードのプロセスが70%高速化されている※2。手作業に費やす時間を短縮することで、プロセスの改善に集中できるようになってきたという。

「複雑化するネットワークに対し、迅速かつ柔軟な対応をするには、全体を俯瞰してクラウドネイティブなアプローチをすることが不可欠です。われわれのようなベンダーは製品やソリューションを個別に提供するだけではなく、通信事業者と長期的なパートナーシップを構築していかないと、エンドユーザーの顧客体験も向上させられません。そんなパートナーになれるよう、エリクソンはさまざまなサポートやソリューションを提供していきたいと思っています」(滝沢氏)

モバイルなどの通信ネットワークは、今やあらゆる産業に欠かせない成長エンジンだ。産業をしっかりと支え続けるうえで、リスクを伴うドラスティックな改革が必ずしも正解とはいえない。しかし、緩やかながら着実な進化を遂げるためには、既存のネットワーク資産を最大限に活用しながら最先端テクノロジーに適応していく必要があるだろう。エリクソンは通信事業者とともに持続可能な未来を開拓するパートナーとして、進化の道筋を描き続けている。

エリクソンが提案する通信業界の進化「クラウドRAN」の詳細はこちら

※の数値はいずれもエリクソン調べ(以下、プレスリリース)
※1 AT&T、エリクソンとの新たな協業により米国でオープンかつ相互運用可能なRANを加速
※2 TPG Telecom、エリクソンの新機能でソフトウェアとセキュリティのアップデートを自動化