技術力で存在感、電池大手マクセルの成長戦略は 「新中計」で350億円の成長投資、新事業も注力

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マクセル 代表取締役 取締役社長の中村 啓次 氏
マクセル 代表取締役 取締役社長 中村 啓次
マクセルといえば、乾電池やカセットテープ、CD-Rなどの一般向け製品を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、今や同社の主力は企業向け製品。高い技術力を軸にしたものづくりで、モビリティや医療などさまざまな産業を支えている。さらなる飛躍を目指して、今年6月には新しい中期経営計画「MEX26(Maximum Excellence 2026)」(2024~26年度)を発表。はたしてどのような成長戦略で価値を生み出していくのか。中村啓次社長に詳しく聞いた。

新事業の創出と顧客開拓に手応えあり

――新中計「MEX26」(2024~26年度)で、26年度に売上高1500億円、ROE(自己資本利益率)10.0%という目標を掲げました。狙いを教えてください。

中村 啓次氏(以下、中村) マクセルは2019〜20年に経営的に厳しい時期を経験して、構造改革を行いました。それを受けてミッションやビジョンを再定義し、前中計(2021~23年度)は新たな成長を目指そうと、さまざまな取り組みを進めてきました。

定性的な面では、新事業を創出したり顧客の開拓活動を加速させたりするなど、プラスの手応えをつかめました。ただ、それが定量的な結果に表れるところまでは到達できませんでした。

ですが、前中計で注力した顧客開拓やマーケティング活動などによって、売り上げや収益のもとになるものはすでに確保できたと考えています。

加えて、新中計では前中計の2倍超となる350億円の成長投資を計画しています。われわれとしては大きな投資ですが、それをテコにして既存事業を成長させると同時に、新事業を指数関数的に伸ばしていければと思っています。

売上高、営業利益率、ROEの実績推移とMEX26

「アナログコア技術」が生きる3分野に注力

――既存事業の成長戦略を教えてください。

中村 伸びないマーケットで勝負していると成長は困難なので、成長性が大きいところにリソースを優先的に配置すべきだと考えています。もう1つ重要になるのは、マクセル独自の技術が付加価値として認められやすい分野を選ぶこと。

マクセルのアナログコア技術
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「アナログコア技術」とは、創業製品である電池や磁気テープを製造していた頃から培ってきた技術の総称

私たちは均一に混ぜ合わせる技術(混合分散)、均一の厚さで塗る技術(精密塗布)、かたちづくる技術(高精度成形)という「アナログコア技術」に強みがあります。

それが結果として、製品の品質の高さや信頼性という付加価値につながります。

マーケットに成長性があり、なおかつアナログコア技術を生かせる領域はどこか。その視点で探索して浮かび上がってきたのが「モビリティ」「ICT/AI」「人/社会インフラ」の3分野です。

例えば「人/社会インフラ」の分野では、高い信頼性・安全性が求められる医療機器に当社の電池が採用されていますが、さらなるシェア拡大を目指していきます。

注力3分野における成長事業
※1 DMS:Design & Manufacturing Service(設計・製造受託サービス)
※2 一次電池は使い切り、二次電池は充電して繰り返し使えるもの

――注力する事業の中でも期待が大きいものはどれでしょうか。

中村 どれも期待は大きいですが、1つ挙げると、個人的な思いもあるモビリティ分野の耐熱コイン形リチウム電池でしょうか。

2000年ごろに米国でタイヤバースト事故が多発したことを受けて、米国や欧州などでTPMS(タイヤ空気圧監視システム)の取り付けを義務づける法律が制定されました。これはタイヤの空気圧が低下するとドライバーに警告を出すセンサーです。

TPMSに使われる耐熱コイン形リチウム電池

問題はセンサー用電源に使う電池が耐えられる温度。タイヤの空気は冬に寒冷地を走ればマイナス40度になるし、空気圧が減って摩擦が増えると逆に100~120度の高温になることもあります。普通の電池だと、この温度に耐えきれないのです。

中村啓次氏

この課題を解決するため、マクセルは耐熱性の高いコイン形リチウム電池の開発に取り組みました。当時、私は開発チームのリーダーを務めていました。

技術的なハードルが高かったのですが、エンジニアがいいアイデアを出してくれたおかげで完成。いち早く上市でき、TPMSに使われる電池として世界で約70%のシェアを獲得しています※3

約20年前に開発した製品ですが、将来性もあります。自動運転が普及すると、単に空気圧を測るだけでなく、タイヤからさまざまな路面情報を吸い上げることになるでしょう。

センサーが高度化すれば、現在のコイン形リチウム電池では容量が足りません。技術的な難易度は高いですが、タイヤの回転を活用して充電できる二次電池を開発できれば、自動運転時代に対応できるはず。夢が膨らみますね。

※3 マクセル調べ。2021〜23年、直接式において

注目の全固体電池は新たな用途を開拓

――新事業では、全固体電池に注目が集まります。

中村 基本的に電池は、プラス極の材料、マイナス極の材料、それらをつなぐ水や有機溶剤といった液体の3つで構成されています。液体は温めると蒸発し、冷やすと固まるため、使える温度に制約があります。

また、二次電池の場合は充放電を繰り返すうちに劣化します。さらに有機溶剤が漏れて火がつく危険性もあります。それらの課題を踏まえ、耐熱性や長寿命、安全性を向上させるのが、液体を使わない全固体電池です。

用途はさまざまで、例えばFA(ファクトリーオートメーション)ロボットは現状、関節部分の位置情報を一次電池でバックアップしています。しかし、アームが動くたびに一次電池とメモリをつなぐハーネスに負荷がかかって断線したり、年月が経つと電池が切れたりするリスクがあるため、定期的なメンテナンスが欠かせません。

メンテナンス要員の確保が必要で、ラインを止めるので生産性も落ちてしまう。ここに全固体電池を使えば電池交換の工数を削減することができます。

ほかにも、滅菌が必要な医療用デバイスや車載デバイス、さらにAGV(無人搬送車)など、耐熱性、長寿命、安全性が求められる分野での躍進も期待されています。私たちの試算によると、全固体電池の潜在需要は3000億円。2030年には10%のシェアを目指しています。

マクセルの全固体電池 新たなマーケット創出の展望

――全固体電池は将来性が高く、参入も相次いでいます。開発の進捗と、新中計での見通しを教えてください。

中村 マクセルの「アナログコア技術」は全固体電池でも強みを発揮しています。小型全固体電池については23年4月に20億円弱かけて量産体制を整え、現在は最終的な顧客承認を待っている段階です。新中計では、耐熱性能をさらに高めるよう開発を進めつつ、そして車載デバイスなどに使われる大容量化した中型全固体電池の製品化を目指します。

「人的資本」の強化に本腰

――「MEX26」では経営基盤の強化も打ち出しています。

中村 新中計では、事業共通の基盤として「人的資本」「DX」「知的財産」「サステナビリティ経営」などの非財務領域も強化します。とくに人的資本は重要です。時間を切り売りして対価をもらうことだけが働く目的になるとしたら、あまりにも寂しい。

一人ひとりが長所を発揮し、それぞれの長所を持ち寄ったチームで仕事に向き合うことが大切だと考えています。そのためにタレントマネジメントの推進や職能別教育の強化など、人事制度の整備に注力する予定です。また、目標達成のためには、難しい課題への挑戦も避けては通れません。失敗を恐れずにチャレンジできるような風土づくりも進めていきます。

――最後に「MEX26」にかける意気込みを教えてください。

中村 会社の価値は、なくてはならない存在になることです。現在さまざまなプレーヤーが、持続可能な社会の実現のために価値創造に取り組んでいます。その中でマクセルが必要不可欠な存在になれば、おのずと収益的な目標も達成できるでしょう。新中計期間中にしっかり結果を出して、2030年に向けて本格的な成長につなげていきたいですね。

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