日本の高校で中国人留学生が増え続ける仰天事態 過当競争の中国と少子化ニッポンの利害が一致

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一方、袁列氏は「最大の原因は中国の『中考分流』です」と断言する。中考分流とは、2018年に導入が始まった新たな教育制度だ。増加する一方の大卒者が就職難に苦しむ現状への対策として、大学に進む学生の数を絞るのが目的である。

高校入試(中考)時点で、約半数の生徒が高校や大学への進学の道を閉ざされる。この制度のもとで中国では大学に行けそうもなくなった子どものため、親が海外留学を用意しているのだ。

ある西日本の高校に通う現役の中国人留学生王濤君(仮名)は、自分のクラスでは8人に1人が中国人だと教えてくれた。本人も、まさに「巻」と「中考分流」が留学の理由なのだという。中国でこの高校の評判を聞いて来日を決めた。

王君が語る中国の教育熱は、日本人の想像の遥か上を行く。

「幼稚園のとき、私がまだ泥遊びをしている頃に幾何学や関数を学んでいる子どもがいました。私が小学校や中学校に通っていたときは、みんな楽器やダンスなどの特技を持っていました」「春節で中国に帰ったときには、空港で幼稚園児くらいの子が円周率を100桁まで暗唱していました」

王君によると、日本での学校生活は充実していて、教師の面倒見もいいという。卒業後は首都圏にある某私立大学の理工学部を目指しているそうだ。

費用がアメリカの2割以下で済む

日本留学がブームとなっているのには、経済的要因もある。袁列氏によると、コロナの影響で、留学先として近場の日本が好まれるようになったという。国際情勢の不安定化で欧米を避ける傾向が強まったうえ、ここ数年円安が続いていることも日本の人気を高めた。「アメリカだと生活費など含めて年1600万円ほど必要ですが、日本なら多くても300万円です」。

中国からやってきた高校留学生は、基本的に日本の大学に進学する。受け入れ校にはたいてい協定校や指定校推薦がある。留学生の在留資格では高校卒業後に浪人生としては日本に残れないという制約もあるが、日本人と同じ入試に挑む生徒もいる。

「国語が苦手な生徒が多く国立大学合格は難しいが、優秀層には早慶などのトップ私立校に入学する人もいる」(袁列氏)という。ただ、前出の教師は、昔は私立有名大学を目指す留学生が少なくなかったが、最近は「意識が薄かったり、向上心が乏しかったりする生徒が増えた」と嘆く。それでも日本は大学全入時代なので、選り好みしなければ進学は難しくない。

年々悪化する自国の教育環境から子どもを救い出そうとする中国人保護者の増加、そして少子化のなかで生徒数確保が焦眉の急である日本の高校の利害は一致している。中国から日本の高校を目指す留学生はますます増えていきそうだ。

舛友 雄大 中国・東南アジア専門ジャーナリスト

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ますとも・たけひろ / Takehiro Masutomo

カリフォルニア大学国際関係修士。2010年中国メディアに入社後、日本を中心に国際報道を担当。2014年から2016年までシンガポール国立大学で研究員。

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