大人も癒やされる絵本の空間「EHONS」の魅力 急拡大する絵本グッズ専門店の次なる出店戦略
人気作品のグッズが一堂に集う「絵本の空間」
平日の昼下がり。東京・丸の内オアゾのショップ&レストラン棟にある丸善 丸の内本店の入り口をくぐり、エスカレーターで2階へ上がると、「EHONS」という大きなサインが目に飛び込んでくる。約20坪のスペースには、絵本から出てきたようなキャラクターグッズが所狭しと置かれていた。
取り扱われていたのは、絵本作家20名ほどの商品群。『めがねうさぎ』(ポプラ社)のせな けいこ氏や、ヨシタケシンスケ氏、柴田ケイコ氏など、そうそうたる人気作家の関連商品が一堂に会している。陳列されていたのは、付箋やメモ帳、ボールペンなど実用性の高い文房具類から、ぬいぐるみやアクリルスタンドまで多種多様だ。中には、おにぎりがすっぽり入る『パンどろぼう』(KADOKAWA)の「おにぎりぼうや」の形をしたポーチなど、物語を知っている人には、より楽しめるグッズも販売されている。それらの傍らには原作の絵本が置かれ、店内でキャラクターの魅力を感じてからでも絵本を手に取れる仕掛けだ。
いわゆるキャラクターグッズ売り場ではあるが、キャラクタービジネスから漂う“商業的ヒットを狙った戦略性”であったり、“消費者に媚びた印象”であったりがあまりない。これは、絵本が道徳教育の教材としての側面があることに由来しているのかもしれない。
そもそも長らく出版不況が叫ばれる昨今でも、絵本は売り上げが右肩上がりで推移している優良商材だ。少子化が進む中でも売り上げはここ10年で約300億円から約350億円へと緩やかに伸長しており(『出版指標 年報2023年版』出版科学研究所)、今後も堅調な成長が見込まれている。書籍小売業としては堅実な商品であるとともに、子どもという見込み客と本の世界をつなぐタッチポイントとしても有益だ。
ビジネスパーソンが多い丸善 丸の内本店でも絵本は良好な売れ行きを示していたが、EHONSができてからは売り上げがさらに伸びているという。
ただ、丸善ジュンク堂書店がEHONSを始めたのは、絵本の売り上げを底上げしたいという理由だけではなかった。
絵本をさらに魅力的なIPコンテンツへ推し進める
「書店は委託販売を軸とした小売業であり、物を仕入れて売るというやり方に限界を感じていました。自分たちでリスクを取ってでも新しい商品やサービスを生み出し、提案していくべきだと考えたとき、着目したのが絵本だったのです」
丸善 丸の内本店店長の篠田晃典氏は、EHONSを立ち上げた経緯をそのように語る。
「日本にはマンガやアニメ、ゲームなどさまざまなIPコンテンツが存在していますが、絵本もそれらと同じくらい大きなポテンシャルを秘めていると確信しています。海外と比べても、日本の絵本はクオリティーが高いんです。しかし、出版社ごとに異なる体制や過剰な出版物流通の問題から、実力を十分に発揮できていません。個々の作品をより丁寧に伝えれば、絵本はもっと魅力的なIPコンテンツとして輝くはずです」
30年以上も絵本作りに携わってきたという熟練の担当者の下、取り上げる絵本作品や開発するグッズを検討。文房具など実用的で着実な売り上げが見込める商品とともに、その作品が好きだからこそ心に響くようなグッズの企画も目指した。グッズも実用性を重視し、流行り廃りに振り回されないよう配慮している。
最大の苦労は、出版社ごとに異なる作家との契約内容だったと篠田氏は振り返る。全関係者が納得できるよう契約の締結に時間をかけた結果、2021年の開業当初に間に合ったオリジナルグッズは約30点だけだったという。現在はライセンス契約を結ぶ対象も増え、EHONSで取り扱うグッズは800点ほどにまで拡大。オリジナルとプロパーの比率も、当初は3:7だったものが、7:3へと逆転している。
結果、20代〜50代の女性の支持が高く、来店客の9割が女性だ。「かわいい」という声や、「昔読んだことがある」と懐かしむ声がショップのあちこちから聞こえてくる。丸善ジュンク堂書店の店舗の中でも、20km以上離れた場所からここを目指して訪れる人の割合がいちばん多くなっているという。
「グッズを見て、子どもの頃に読んでいた思い出がよみがえる……そのような商品も開発しているのが私たちの強み。また、ボールペンや便箋などの文房具は実績のある老舗国産メーカーを中心に製造をお願いしており、品質にも自信を持っています」
今後はEHONS単独での出店も計画中
現在5店舗を展開しているEHONSだが、今後も精力的に出店攻勢をかける構えだ。店舗開発に携わる中﨑悠人氏は、年内に3店舗、2025年には5~6店舗の新規出店を計画していると話す。
「近いうちにアジアへも出店する予定です。日本文化になじみ深い地域では絵本の売り上げもよく、関連グッズにも高い関心を寄せてくれるものと期待しています」
さらに篠田氏は、今後は30店舗の出店を目指し、書店の中のショップではないEHONS単独での出店も構想していると打ち明ける。
「EHONS単独で出店するのに最適な出店場所を探している最中です。多くの人が行き交うターミナル駅や観光地が理想的。子どもの頃に慣れ親しんだ絵本は男女どちらにもアピールできる商材なので、歩いていれば絶対に目に留まりますし、日本語がわからない外国人観光客にも強い訴求力があります。これまでにないショップということで、出店した施設への新しい顧客の集客が図れると考えています。EHONSというブランド価値をいっそう高めることで、施設のにぎわいをつくり、お客様により喜んでもらえる、そういう出店を今後進めていきたいので、リテール担当者様からのお声がけをお待ちしております」
誰もが一度は手にしてきたであろう、絵本というコンテンツ。大人になった今も、その魅力は尽きないようだ。
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