大和ハウス工業が「脱炭素支援」で支持される理由 ZEB化でBCP(事業継続計画)や省コストも解決

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
大和ハウスの施工社員、xevoΣの外観、「コトクリエ」(大和ハウスグループみらい価値共創センター)の合成画像
政府は、エネルギー収支をゼロ以下にするZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を推進しているが、普及が進んでいるとはいえない。そんな中、ZEH率95%、ZEB率66.3%と大きな成果を上げているのが大和ハウス工業だ。なぜそこまでの結果を出せるのか。脱炭素化を加速させるビジネスモデルに迫った。

オフィスと住宅「脱炭素化」が進んでいるのは?

地球はもはや温暖化ではなく「沸騰」している――。数々の客観的事実が示す現状に、危機感を募らせていると大和ハウス工業 サステナビリティ統括部長の小山勝弘氏は話す。

大和ハウス工業  経営戦略本部 サステナビリティ統括部長 小山 勝弘氏
大和ハウス工業
経営戦略本部
サステナビリティ統括部長
小山 勝弘

「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2023年3月に発表した報告書※1によれば、気温上昇を1.5度以下に抑えるためには温室効果ガスの排出量を35年までに19年比で60%削減することが必要とされています。『儲かるからではなく、世の中の役に立つからやる』という創業者の思いとともに社会課題に向き合ってきた当社としては、『やれることはすべてやる』という決意で脱炭素化に取り組んでいます」

実際、同社は22年度からの中期経営計画で、新たに提供するすべての建物を原則ZEH・ZEBとし、太陽光発電設備を搭載することを30年度までの目標とした。

これがいかに意欲的な目標なのかは、日本の現状に照らし合わせれば明白だ。資源エネルギー庁によれば、22年度の新築戸建住宅のZEH率は22.7%※2と全体の4分の1にも届かない。ZEB率に至ってはわずか0.7%※3にとどまっている。ZEBの普及が進まないのは、ZEHに求められるエネルギー消費量削減率が20%以上なのに対し、50%以上と厳しい(ZEB Orientedは30%以上)のも理由だが、いずれにせよ現時点で建物の脱炭素化が進んでいるとは言いがたい。

脱炭素化と経営課題の同時解決でZEB化を支援

そんな中、同社は23年度上期において戸建住宅のZEH率95%を達成。ZEH-M(ゼッチ・マンション)においても積極展開を進める。

「22年度にはZEH-M対応の賃貸住宅『TORISIA(トリシア)』を発売しました。24年度以降に着工する分譲マンション『PREMIST(プレミスト)』にZEH-M仕様を標準化することも決めています」(小山氏)

ZEH-M対応の賃貸住宅「TORISIA(トリシア)」
ZEH-M対応の賃貸住宅「TORISIA(トリシア)」

注目は、国の普及率が1%に満たないZEBだ。同社では21年の時点で38%だったのが、23年上期には66.3%と全体の7割近くまで伸ばしている。なぜそこまでの成果を上げられるのだろうか。小山氏は「脱炭素化の提案にとどまっていないから」と分析する。

「オフィスであれば、BCP(事業継続計画)への対応や省コストなども重要です。ZEB化は企業のサステナビリティを高める効果もあるとお伝えしています」 

そうした同社の提案に賛同し、新築オフィスのZEB化を積極的に推進している企業が増えている。例えばリコージャパンは、23年12月時点で全国11棟を同社の施工によってZEB化。オフィスの移転や建て替えをトリガーに、CO2排出量削減という社会課題だけでなく、従業員満足度や生産性向上といった経営課題の同時解決を図っている。仕様をパターン化することで、コストの引き下げと迅速な展開を実現しているのも特徴で、ほかの多拠点を持つ企業にも支持されている。

ZEBであるリコージャパン茨城支社つくば事業所
ZEBであるリコージャパン茨城支社つくば事業所

再生可能エネルギー支援でビルの資産価値も向上

再生可能エネルギーに強みを持つのも、高いZEB率の理由だ。大和ハウス工業は環境エネルギー事業を展開しており、07年から再生可能エネルギーによる発電事業を推進。新築ビルの建設時に、太陽光発電システムを無償で設置して発電した電力をビル保有者やテナントに供給する「オンサイトPPA」も提供している。

「再生可能エネルギーを使えることは、テナントの入居率向上につながっているとの声もいただきます。ESG投資の対象ともなりますので、ビルの資産価値を高める戦略として活用いただくケースが増えています」(小山氏)

サプライチェーンに対するコミットメントも強く、19年度から主要サプライヤー200社以上に対してアンケート調査を実施。CO2排出量の削減目標や実績、削減施策の実施状況を確認してきた。

「ワークショップや研修会などを地道に積み重ねていく中で、徐々に意識が変わり、パリ協定に整合した難易度の高いSBT(Science based Targets)認定を取得するサプライヤーも出てきています」

そうした取り組みは気候変動に取り組む国際NGO、CDPにも高く評価され、最高評価の「サプライヤー・エンゲージメント・リーダー・ボード」には23年まで4年連続で選定されている。

「隗(かい)より始めよ」で明るい未来を切り開く

こうした一連の取り組みを、すべて自社グループでも先行して実施していく姿勢が大和ハウス工業の特徴だ。

「自分たちがやっていないことはお客様に提案できません。『隗より始めよ』の精神で、再生可能エネルギーの100%自給自足を目前としているほか、新築する自社施設は原則としてすべてZEB化しています」

小山氏がその代表的な取り組みとして挙げたのが、奈良で21年10月に開所した研修施設「コトクリエ」(大和ハウスグループみらい価値共創センター)だ。省エネ・創エネの技術を多数搭載し、1次エネルギー消費量を63%削減。興味深いのは、脱炭素と自然共生を実現させたサステナブル建築であるだけでなく、多様な人々が交流する場として機能していることだ。

省エネ・創エネの技術が搭載された「コトクリエ」(大和ハウスグループみらい価値共創センター)
省エネ・創エネの技術が搭載された「コトクリエ」
(大和ハウスグループみらい価値共創センター)

「地域に開かれたコミュニケーション施設として、『共育』と『共創』を柱に、子どもから大人まであらゆる世代が共に学び、考え、成長する場を目指しています。例えば地域の小学生には、環境に配慮した建物の特性を生かしながら、自分で考える力がつくカリキュラムを提供しています。子どもたちに未来について考えるきっかけにしてほしいのです」(小山氏)

人と社会によいインパクトをもたらそうとする取り組みは、脱炭素という“引き算”にとどまらず、自然との共生や多様な人々との共育・共創という“足し算”をも促し、サステナビリティの実現へとつながっていく。

「多様な個がつながって共創活動を展開し、社会に価値を提供していくために、人財・組織基盤の整備にも注力しています。社内外での副業を支援する『越境キャリア支援制度』や希望する部門と職種に自ら手を挙げられる『職種選択(FA)制度』などもその一例です」(小山氏)

「儲かるからではなく、世の中の役に立つからやる」という創業者の石橋信夫氏の思いとともに、社会課題に向き合ってきた大和ハウス工業。カーボンニュートラルという未曾有の難題を前に「やれることはすべてやる」と決断したのも、そのDNAが継承されてきたからではないか。やるべきことをやり抜く力強さが、いかにこの困難な時代で発揮されるか。今後の動きからも目が離せない。

※1 IPCC第6次評価報告書(AR6)統合報告書
※2 資源エネルギー庁「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業 調査発表会2023」
※3 資源エネルギー庁「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業 調査発表会2023」
 

Interview

――2022年5月にパーパスを策定されました。なぜこのタイミングだったのですか。策定の経緯もお聞かせください。

大和ハウス工業 取締役常務執行役員 経営戦略本部長 海外本部長 経営戦略本部経営企画部長 リブネス事業担当 サステナビリティ統括担当 大友 浩嗣氏
つねに積極的なアライアンスと新たなチャレンジを
大和ハウス工業
取締役常務執行役員
経営戦略本部長 海外本部長 経営戦略本部経営企画部長
リブネス事業担当 サステナビリティ統括担当
大友 浩嗣

当社は1955年の創業です。100周年となる2055年まであと30年、時代が大きく変わる中で、果たすべき役割と“将来の夢”を見つめ直すべきだと考えました。のべ22回、学生なども含む約4万人のステークホルダーと対話を重ねた結果、ただ生きるのではなく、その営みの中でそれぞれが幸せを感じ、喜び合える社会をつくっていきたいという思いに至りました。実現のためには、社内の人財や組織はもちろん、さまざまな企業とのアライアンスにおいても、それぞれが認め合い、生かし合い、輝き合えるようにしていく必要があります。

――自前主義にこだわらず、オープンイノベーションを進めていくということでしょうか。

もともと当社は、業界の壁を越えたアライアンスを積極的に進めてきましたし、伝統的に新しいチャレンジが好きな会社です。例えば交通事故が多発していた1963年に、日本初※4の交通安全用の歩道橋を設置したときも、自社だけでやるのではなく製鉄会社と一緒に取り組みました。住宅ローンの開発などでも、民間金融機関との提携を実現させています。社会課題を見つけたら、すぐにパートナーを探して解決に取り組むのが、当社のDNAだと思っていますし、パーパス策定時の社員との対話でも、そうしたチャレンジ精神をモチベーションとしていることが伝わってきました。

――社会課題を踏まえたチャレンジといえば、郊外型住宅団地の再生事業「リブネスタウンプロジェクト」が印象的です。

当社は過去に61カ所の郊外型団地を開発してきました。しかし、少子高齢化で街も住まいも大きく変わっています。もう一度耕す、“再耕”が必要だと考えました。取り組んで改めて感じるのは、1つの解決策だけでは通用しないということです。共通課題はもちろんありますが、団地ごとに異なる課題もありますので、行政や住民の方々の協力を得ることがやはり重要です。当社が手を引いたらおしまいになってしまうようなスキームでなく、街の人たちが本気で取り組める環境づくりをお手伝いして、再び街が自力で輝くことが大切です。そうなれば新たなビジネスが自然に生まれてくると考えています。

――建設業の「2024年問題」への対策はいかがでしょうか。今後の業界のあり方についても考えをお聞かせください。

例えば契約書や重要事項説明書は、法律が厳しくなった影響で、以前よりも格段に分厚くなっています。作成はもちろん、読むのも大変ですから、契約の電子化やオンラインでの説明に移行するといった変化が必要でしょう。個の努力に頼るのではなく、テクノロジーの力で生産性を向上させなくてはなりません。

カーボンニュートラルへの対応もそうですが、単に情報をアップデートするのではなく、業務フローや事業そのものを見直す気持ちで取り組まないと、企業としてのサステナビリティを確保することは難しい。決して簡単なことではありませんが、スタートアップを含めさまざまな企業とアライアンスを組みながら知恵を集めて取り組むことで、未来を切り開いていきたいと思っています。

※4 鋼管併用による鉄骨溶接の歩道橋として