Suicaの統計レポート「駅カルテ」に注目する理由 JR東日本の首都圏約600駅のビッグデータ提供

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「駅カルテ」のイメージと、東日本旅客鉄道 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 データマーケティングユニット マネージャー 小野由樹子氏
「駅カルテ」は、東日本旅客鉄道(JR東日本)が交通系ICカード「Suica(スイカ)」の乗降利用データを統計処理し、レポートとして提供するサービスである。2022年5月に販売を開始したが、企業や自治体などで利用が広がっている。その理由はどこにあるのか、同社に取材した。 

Suicaの統計レポートを外部に販売 

「新型コロナウイルス禍では、人の流れが大きく変化しました。最近は人流も回復基調にありますが、駅によってかなり差が出ています」と語るのは、JR東日本 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 データマーケティングユニット マネージャーの小野由樹子氏だ。

発言の根拠となるのは、Suicaの乗降利用データである。Suicaは2001年に首都圏エリアでサービスを開始したが、その後、14年には発行枚数5000万枚を超え、現在1億枚を突破している。

Suicaは文字どおりビッグデータの宝庫である。氏名、生年月日、電話番号、定期券区間、定期券購入月数などの属性情報、入出場駅名、改札口名、利用時間などの利用履歴、さらに電子マネーとしては利用店舗、利用金額などのデータが記録される。

東日本旅客鉄道 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 データマーケティングユニット マネージャー 小野由樹子氏
マーケティング本部
戦略・プラットフォーム部門
データマーケティングユニット
マネージャー
小野 由樹子

「『駅カルテ』はそのうち、それ単体で個人を識別する情報を除いたうえで、十分プライバシーに配慮した形で統計処理をした、駅のご利用のされ方を表すレポートです」と小野氏は紹介する。

具体的には、利用者の性別、年齢構成、定期券の利用を基にした通勤者と居住者の数、運賃を支払って乗降した訪問者と居住者の数、訪問者が乗車した駅、訪問者の滞在時間など、さまざまな角度から分析し、月次や年次でレポートする。

プライバシーに配慮し、特定の個人を識別する情報の削除や情報のまるめ処理といった加工を行う。駅利用の年齢は10歳刻み、駅利用者数は1カ月間を通じた1日当たりの平均(平日、休日別)で集計する。また、人数は50人単位で集計され、1日当たりの平均利用者数が100人未満の駅のデータは削除される。また、電子マネーとしての利用データはレポートされない。

利用者の実態を表す正確なデータだから活用できる

国や自治体、民間企業でも、人流分析を行う調査が定期的に行われている。これらと「駅カルテ」はどのように異なるのか。

「『駅カルテ』の大きな特長は、推計データではなく、正確なデータであることです。Suica利用者の全数を把握でき、さらに欠損データがほとんどありません」と小野氏は答える。

国勢調査のような公的統計データはあるが、居住者に限られる。「駅カルテ」なら駅利用者の分析が可能だ。また、ほかの人流情報サービスは推計値を使用することでの誤差等が考えられるが、Suicaであれば利用者の属性が正確に把握できる。

「さらに、月別集計のため、鮮度のよい情報で分析できます。『駅カルテ』は、17年から用意していますので、過去との比較や人流の変化なども分析できます」

レポート対象となっているのは、JR東日本の首都圏約600駅だ。「駅カルテ」のレポートには、対象駅1駅の月次でまとめた「月次版」、対象駅1駅の年度でまとめた「年度版」、対象駅1駅の月次の「駅カルテ」の概要をサマライズし、画面上で閲覧できる「簡易版」がある。「ご相談によってはカスタムしてお出しすることも可能です」と小野氏は紹介する。

その駅の通勤・通学路がわかる「駅カルテ」サンプル

いずれも、利用者の実態がわかるのが大きな特色だ。例えば「月次版」であれば、運賃を支払って乗降した利用者と定期券利用者(居住者)の平日、休日別、さらには時間帯別の利用者数も把握できる。加えて、一連の移動での出発駅または到着駅も表示される。例えば東京駅に通勤・通学している人がどこから来ているのかといった通勤・通学区間が定期券の情報から把握できる。また、休日に運賃を支払って乗降した訪問者がどこから来ているのかも把握できるので商圏もわかる。

さまざまな業種業態で「駅カルテ」の利用が広がる

「駅カルテ」を利用する企業が増えているという。実際にどのように活用しているのか。

小野氏は「小売り・商業施設、旅行・観光、不動産などの民間企業、さらに自治体などさまざまな企業・団体でご利用いただいています」と紹介する。

小売り・商業施設では新規出店計画の検討に使われることが多いという。出店候補地の商圏や需要予測、広告出稿の計画などである。不動産では、新規開発計画の検討の際に、開発エリアの将来的価値の推察などに活用されている。

興味深いのは自治体での「駅カルテ」利用件数が増えていることだ。例えばある自治体内に駅が3つあった場合、利用状況や最近の伸び率などから駅周辺の再開発や街づくり計画の検討などの際に、どの地区を優先すべきかといった判断材料になるという。

最近では、大学などにおけるデータ分析の授業で「駅カルテ」が活用されることもあるそうだ。「大学周辺の身近な駅のデータを利用することで、学生の方にも興味を持ってもらえるようです」と小野氏は紹介する。

いずれも、利用者の実態がわかる「駅カルテ」ならではの特長が支持されているのだろう。月次版を利用すれば、広告出稿などの施策の効果測定も容易だ。

「駅カルテ」は、ジェイアール東日本企画および、日立製作所を通じて販売されている。ジェイアール東日本企画の料金プランでは、対象駅や期間を絞ったレポートを利用可能だ。1駅当たりの料金はリーズナブルなので地域の飲食店やクリニックなども利用できるだろう。日立製作所は「駅カルテ」のデータを「Station Finder for Area Marketing」というサブスクリプションサービスとして提供しており、専用Webサイト上から、「駅カルテ」を定額で利用できる。いずれの販売パートナーも「駅カルテ」の活用方法などを丁寧にアドバイスしてくれるので相談するといいだろう。

「間もなく改札別のデータ提供が始まるなど、今後はより細かなデータも提供していきたいと考えています」と小野氏が語るように、「駅カルテ」の進化も期待できる。人流データ分析をビジネスや行政に利用したいと考える企業・団体にとって大いに頼りになるサービスだ。