老舗投資ファンドの「地域経済との共栄戦略」とは 成長を目指す投資先企業2社の実例をひもとく

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エンデバー・ユナイテッド本社がある、東京丸の内周辺のイメージ
日本経済の発展のためには地域経済の活性化が不可欠だ。だが地方には、問題に直面し、さらなる成長が実現できていない企業が多く存在している。エンデバー・ユナイテッドは日本における投資ファンド黎明期の2002年に創業したプライベートエクイティ(以下、PE)ファンドだ。老舗投資ファンドとして、投資先に寄り添いながらその課題を解決する姿勢には定評がある。同社の投資により、地方の優良企業が企業価値を向上した例が数多く生まれているという。同社と投資先企業へのインタビューを通じて、その取り組みに迫った。 

愚直さと誠実さで企業の成長を実現

2000年代初頭の日本では、事業再生案件への対応が社会課題となっていた。エンデバー・ユナイテッド(以下、EU)は、そのニーズに応えることを主眼に再生ファンド(「フェニックス・キャピタル」)としてスタートした。その後、事業承継やノンコア事業の売却(カーブアウト)といった再生以外のニーズに応えるため、16年にブランドチェンジを行い、再生も含めたフルラインで投資を行う現在の体制をスタートさせた。代表取締役の三村智彦氏は次のように説明する。

エンデバー・ユナイテッド 代表取締役 三村 智彦 氏
「企業の課題に愚直に、誠実に向き合う」
エンデバー・ユナイテッド
代表取締役
三村 智彦(みむら・ともひこ)

「社会的課題が創業当時の『再生』から『成長』へとシフトし、事業承継やカーブアウトといったニーズが拡大していました。より前向きな形でこの課題に取り組み、社会の役に立つ投資を加速できるよう、ブランドチェンジを行いました。『エンデバー』には『たゆまぬ努力で前向きに進む』という思いを、『ユナイテッド』には『役職員やステークホルダーの力と思いを結束する』という思いを込めています」

EUはPEファンドとして、主に未上場の優良企業に協議・合意のうえで投資を行う。数年かけて自ら経営に参画することを通して企業価値を向上させ、第三者への株式譲渡や株式公開を通じてリターンを獲得し、その果実を投資家に還元するという一連のプロセスを実行している。

「創業以来、つねに意識しているのはわれわれの参画を通じて投資先の課題を解決し、その結果として投資先が成長していくことです。投資先の成長こそがファンド出資者である投資家への分配につながり、ひいては当社の収益にも結び付くのです」と三村氏が語るように、ハンズオン型で企業ごとに異なる課題に愚直に、誠実に向き合い続けてきたという。

EUは創業からの約20年の間に合計約3500億円のファンドを組成し、約80社の企業へ投資を行ってきた。23年8月には、同社グループとして過去最大規模となる9号ファンドを総額530億円でファイナルクローズしている。

「9号ファンドの募集に際しては、従前のファンドより幅広い投資家の方から支持をいただいています。これは、当社の『愚直に、誠実に』というアプローチが、安定した投資実績につながっている点を評価いただいたものと理解しています」

学び続ける姿勢で地方の多様な企業の課題を解決

EUの累計の投資件数は79件(2024年1月末時点)で、投資先の業種は製造や建設・不動産、卸売、飲食・小売・サービス、マーケティング・テクノロジーなど多岐にわたり、中でも製造業、建設業への投資を強みとしている。

投資先も全国に広がっているが、「当社の投資先は首都圏よりもむしろ地方のほうが多い」と三村氏は紹介する。背景にはEUならではの地域活性化への思いがある。地方の事業承継案件などでは、その地域で生まれ、優良で安定的な事業基盤を有しながら、M&Aやマーケティング、ITなどの専門人材が不足しているために、自社の抱える課題に対処してさらなる成長にアクセルを踏めない企業が多く存在しているという。

「私たちEUは、一人ひとりが学び続ける姿勢を大事にしつつ、当社が関係を築いてきた専門家の力も借りながら、投資先の課題解決に努めています。意外にも、当社として未経験の業種においても社内で横展開できる知見やノウハウは多くあり、そういった風土が当社の大きな強みになっています」

エンデバー・ユナイテッド 代表取締役 三村 智彦 氏

EUには、コンサルタントや会計士、金融機関、事業会社出身者など、多様なバックグラウンドを持つプロフェッショナルが多く在籍しており、社員それぞれが持つ知見やノウハウを共有する機会や仕組みを設けているという。

以下では、実際にEUの投資により成長を目指す企業の経営者にインタビューを行った。

マーケティング領域の強化やDXの推進に注力

リンクスホールディングス(大阪府大阪市)は、メンズ脱毛専門店「RINX」を運営する企業だ。サロンは北海道から沖縄まで全国87店舗(2024年1月末現在)に広がる。全店舗で男性スタッフによる丁寧な施術と接客を行っていることが好評で成長してきた。

だが、その中で課題もあった。代表取締役社長の長嶺拓氏は次のように語る。

リンクスホールディングス 代表取締役社長 長嶺 拓 氏
リンクスホールディングス
代表取締役社長
長嶺 拓(ながみね・たく)

「メンズ脱毛市場が急速に拡大する中で、サービス自体がコモディティー(汎用)化しつつあります。差別化を図るためにはマーケティング領域の強化やDXの推進が不可欠ですが、当社のメンバーはほぼ全員が店舗スタッフ出身者のため、大局的な経営視点を持つ者が限られていたこともあり、経営のプロの力を借りたいと考えました」

その期待どおり、22年11月にEUが経営に参加すると、ブランドイメージに合わせたホームページのリニューアルや料金プランの明朗・シンプル化、さらにこれらを土台とした顧客体験の向上のためのアプリの開発など、さまざまな施策を推進していった。

「また、今年からはマス広告に出稿し、マーケティングの幅を広げています。初めての経験でしたが、EUのアドバイスにより順調に進んでいます。当社が大切にしている『上質な脱毛体験』を追求しつつ、企業価値をさらに高めていくという思いをEUと共有できているので、日々の意思決定も非常にスムーズだと感じています。引き続きEUのノウハウやネットワークをフル活用し、業界でのシェア拡大を目指します」と長嶺氏は言葉に力を込める。

家族経営から脱却し業界をリードする企業へ

WAKAMATSU(大阪府堺市)は関西を中心に展開する理容・美容チェーンだ。1983年の創業以来、複数のサロンブランドを100店舗超の規模まで拡大してきた。2023年3月にEUの投資を受け入れたが、決断に至った経緯を専務取締役の若松東克氏は次のように語る。

WAKAMATSU 専務取締役 若松 東克 氏
WAKAMATSU
専務取締役
若松 東克(わかまつ・もとかず)

「当社は私の父が創業し、兄が2代目社長を務めていました。家族経営で続けていくものだと考えていたので、外部資本を受け入れることには抵抗がありました」

だが、同時に悩みもあった。「理美容業界の将来性、さらにはその中での自社の成長ビジョンをどう描くべきか。理容師、美容師の不安定な雇用環境や離職率の高さという業界特有の課題も解決したいと考えていました」。

EUとの度重なる対話を経て、その本気度が伝わり支援を受けることを決定。理美容師の離職率低減のために待遇改善や研修制度の導入のほか、ライフステージに合わせた多様なキャリアパスの確保など安心して働ける制度設計も行った。

また、店舗オペレーションの改革として顧客の順番待ちシステム導入やSNSによるCRM(顧客情報管理)などデジタル活用も進めている。

「EUは決して短期的思考にとらわれず、当社にとって何が最良かを同じ目線で議論し、支援してくださる貴重な存在です。理美容業界は個人店や中小規模チェーンが多く、事業承継が深刻な課題になっています。そこでEUのノウハウを借りながらM&Aを進め、事業承継の受け皿を創出することで理美容師が安心して働ける場所を守っていきたいと考えています」と若松氏は展望を語った。

投資先企業の従業員や顧客にも配慮した投資を推進

長嶺氏、若松氏がともに指摘するのが、EUは決して短期的な利益追求だけを目指していないことだ。三村氏は「例えばコストカットにしても、無駄なものであれば削減を提案しますが目先の損益改善のみを狙った施策は行いません。必要と考えればマーケティングやDXなどへの投資も積極的に行います。前提として、投資先企業の顧客や従業員といったステークホルダーそれぞれに配慮しながら、バランスよく企業価値を高めていくことを重視しています」と話す。

エンデバー・ユナイテッド 代表取締役 三村 智彦 氏、リンクスホールディングス 代表取締役社長 長嶺 拓 氏、WAKAMATSU 専務取締役 若松 東克 氏の集合写真

その点では、EUの投資姿勢は、ESG(環境・社会・企業統治)が掲げるビジョンに通ずるだろう。なお同社は22年4月、ESG投資を規定する責任投資原則(PRI)に署名。投資先におけるESGの取り組みや今後に向けた考えを伝えるため、ESG年次活動報告も発行している。

三村氏は「日本のPEファンドは当社が創業した頃に比べると認知度を高めてきましたが、市場規模では欧米に比べるとまだ大きくありません。成長余地も大きくやりがいのある仕事です。近年は、地方の優良企業の後継者問題やカーブアウトといった課題に加え、新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ危機などの急激な社会情勢の変化により、経営体力を毀損した企業の再生ニーズも高まっています。その意味では、これまでのEUの経験をフルラインで発現できる局面が続くと考えています。今後も役職員一人ひとりが、社名の由来にもなっている『たゆまぬ努力』で変化をし続け、激変する社会情勢に立ち向かう日本企業の一助になりたいと考えています」と結んだ。

地域経済、さらには日本経済を元気にすることを目指すEUの活動に期待がかかる。

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